9.村の中へ
村には入れた。
罪人として。
連行されている間、「どうする、コイツ殺す?」「う~ん、殺しとく?」「怪しいよな、殺すか~」と殺す方向で話が進んでいた。めちゃ怖い。
通りに居る村人たちもおれに奇異の眼を向ける。
みんな頭に耳があり、牙があり、しっぽがある。
獣人ばかりだ。
ここは獣人の村だった。
布で顔を覆って欲しい。完全に罪人として周知された。
「ここに入っていろ!」
「あぅ、乱暴しないで!!」
おれは荷物を取り上げられ牢獄に入れられた。
酷い、人権侵害だ!!
弁護士を呼んでくれ!!
電話を掛ける権利あるんだぞ!!
静かになった。
屈強なメンズはどっかに行った。
見張りはなしか。
「‥‥‥この感じ、『転移』はできるな。さっきは何で‥‥‥?」
いつでも逃げられると分かって冷静になった。
いつもと違うのは人に触れていたことだ。いや生物か?
でも大黒狼に接触した状態でスキルを使ったことはある。奴を仕留めた『転移・徹甲弾』だ。
ん? あの時は自分ではなく手斧の転移だったから使えたのか。
他の生物を含む『転移』は初めから発動しないようになっているのか?
待て待て落ち着いて整理しよう。
物の場合、フォースフィールドの対象とするか選べた。
大黒狼を倒した時、おれは馬乗りなっていたが『転移・徹甲弾』は使えた。
つまり、他の生物と触れている時は物体以外は転移できないってことか? 自分に魔力を込める通常の『転移』は使えない‥‥‥?
あぶねー。もしあの時‥‥‥大黒狼に『転移・闇討ち』が効かなかった時、攻撃ではなく退避のために『転移』を使おうとしていたら‥‥‥自分に魔力を込めていたら発動に失敗して、大きな隙を作っていた。下手したら死んでいた。
今まで気が付かなかった。マズい。
これはかなりの欠陥だ。レベルアップでどうにかなるのだろうか。
「――ぉぃ、おい、聞こえて居らんのか!?」
「え? はい、聞こえて居ります!!!」
ビックリした。
牢の前に居たのは猫耳の美少女だった。
かわいい‥‥‥
切れ長の大きい眼がおれを見下ろしている。おれは眼を逸らした。
仲良くはなれそうにないな。
「ん? 待てよ、この声‥‥‥」
「何をぶつぶつ言っている。お前に話しがある」
この人、ずっとおれの首に刃物突き付けた奴やん!!
後ろにいたから気が付かなかった。
女の子だったのかよ。
「へ、へぇ、なんでごぜぇまするか?」
「なんだその話し方は? ふざけてるのか?」
「いぇ‥‥‥」
お、怒ってる?
数十日ぶりの会話としてはハードル高すぎです。
「まぁいい。お前に聞きたいのはこれだ」
彼女が取り出したのはおれの荷物。
その中の薬瓶を持っていた。返してぇ‥‥‥
「なんの劇物だ?」
「ちちち違います、薬です‥‥‥」
「何? 何の薬だ?」
おれはこういう時のテンプレを熟知している。
正直に答えたら今度はどこから盗んだとか言われるのです。そう決まっているのです。
関わらない方がいい。
最悪の場合出所を話すまで解放してくれないかもしれないし。
彼女にはもう『転移』を見られている。
牢屋で遮られている今しか逃げられないかもしれない。
逃げも兵法の一手。
「っ! な、なにを!! 待て!!」
「ドロン」
おれは『転移』で保管庫に戻った。
「はぁ‥‥‥これは失敗だな」
でも収穫が無かったわけじゃない。
この世界で異端であるおれが集団社会になじむのは難しいと身に染みた。
あと、『転移』の欠点。
生物との『転移』。これが克服できれば戦いの幅がグンと広がる。
逆にこのままだと一度でも捕まったら終わりだ。
これは収穫じゃないな。
結構ショックだ。
おれは狭い保管庫にしゃがみ込んだ。
はぁ、薬品臭いよぉ。
あの牢屋の中の方がいくらか上等だった。
「はぁ、上手くしゃべれなかったしな。ごぜぇまするがは無いよな」
しばらく寝る前に思い出しそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます