2.奇跡の味

「痛っ!!‥‥‥い、痛ぁ!!」


体中を打って、気を失っていたようだ。

気が付くとそこは崖の中腹にあるくぼみだった。

あの黒い狼の姿はない。


さすがに追って来なかったか。助かった‥‥‥いや、このままじゃ助からない。


肩の傷を確かめる。


かなり深い。それに感染症が怖い。でもここから動くのは危険だ。

日が暮れて夜になっていた。


おれはビクビク震えながら朝を待つことにした。


「はぁ、はぁ‥‥‥うん?」


くぼみには奥行きがあり狭いが奥へ続くスキマがある。這ってなんとか進める程の狭さだ。

眼が慣れて岩の中に何かがあるのを見つけた。


「これって‥‥‥魔力回復薬の薬草か」


思わぬところで目的のものを見つけた。


やった。


おれはいそいそと薬草をかき集める。そのままで魔力が回復しないか、おれは噛んで飲み込んだ。無理みたいだ。不味い。ペッペッ!

やがてうっすらと岩の壁面が発光していることに気が付いた。


おれが見つけた断崖穴はどうやら魔力が自然に溜まっている場所のようだ。


しかしここは容易にたどり着けない場所にあるし、崖の上からは死角になっている。

おれが偶然転がり込むまで誰にも荒らされず自然のままに放置されて来たのだろう。


「どうするか」


奥を確認するべきか迷った。

外から入ってくる者はほぼいないだろうが、奥には何かが住んでいるかもしれない。魔力が溜まっている場所には厄介な魔物がいるのがお約束だからだ。


おれはできるだけ丁寧に薬草を採取して朝を待った。

今日はだめだ。

無計画だとすぐに死ぬ。


ああ、喉乾いたな。


そう言えば出血すると失った体液を補充しようと喉が渇くって聞いたことあるな。


う~ん‥‥‥

くぼみには雨水が溜まっている。

だが、飲めるか?


加熱殺菌できないうちに飲むと感染症で死ぬかも。我慢だ。


おれはしばらく我慢していたが、出血が多いからか耐えられなくなってきた。

いかん、これで意識を失ったら『転移』で戻るのもできずここでリタイアだ。


おれは何度か葛藤して、あきらめて水を飲んだ。


「う‥‥‥ん、ちょっと鉱物多めで硬いが嫌な味はしない、い、いいいいいいうっうががああああ」


何だ!? 身体が熱い!?

変身しそうだ!!


「がぁぁぁぁ‥‥‥あれ?」


肩の痛みが引いた。

失った体力も心なしか戻っている気がする。


おお、これはまさか、自然にできた回復薬か!?

この魔力溜りの中で染み出した水が自然回復薬になっていたのか。

手っ取り早く確かめるために指先を岩で切って、水を垂らしてみた。


するとみるみる傷が塞がった。


なんという幸運! おれには神の加護があるのかもしれない!!



朝になり魔力が回復したころを見計らって『転移』で家に戻った。

さっそく魔力回復薬の生成に取り掛かった。


「どうやるんだ?」


何となく薬草をすりつぶしたり煮たりすればいいとか思っていたが確証が無い。

神からの知識チートにも造り方まではないようだ。


おれは一週間、研究に没頭した。

考え得る生成方法を片っ端から試すことにした。

家には非常食がある。多少は籠っても問題ない。


地道に量を変え、色々と試した。


だが、何の成果も得られませんでした!

私は素人の浅い考えで悪戯に薬草を消費し、時間を無駄にしました!!

本当に申し訳ございませんでした!!


異世界生活は甘くなかった。


「はぁ‥‥‥こりゃ地道に『転移』を繰り返してレベルを上げるしかないか」


しかしそれから一週間、欠かさず毎日『転移』をしたがレベルは変わらず1のまま。

どれだけやればレベルが上がるのかもわからない。


その辺不親切だな。神様に詳しく聞けば良かった。


「あ‥‥‥」


聞けばいいか。


ふかふかとした雲にグラつく。


神様がカップ麺を食べながら、眼を見開いていた。


「あ、いいなぁ」

「なんで居るのかのう?」

「それ、ちょっと分けてもらえませんか?」


というか神様カップ麺とか食べるんだ。


「まさか『転移』でここにきてしまうとは。いや、初めからここに居たのじゃからできることはできるのだろうが、やろうと思ってやるかのう、普通?」

「いやぁ~、なんかもうちょっとヒントもらおうかと」

「図々しいのう。まぁお主には負い目もある。最後の一回ということで聞いてやろう」

「ええっと‥‥‥スキルの使用が一日一回、このままだといつになったらレベルが上がるのか、とかレベル上がったら何ができるのか、とか、あと魔力回復薬どうやって作ればいいんですかね?」

「多いのう。じゃが最後じゃ、答えてやろう。まず『転移』は特殊なスキルじゃ。お主の魔力は平均はあるが一回で消費してしまう。それだけ完成されたスキルと言えよう。上を目指すならば同じことを繰り返していても先は無かろう。ただ遠くに転移しているだけではレベルアップに十年はかかるのう。それなら元のレベルを上げ、魔力量を増やす方が効率が良い」


はぁ、やっぱりそうか。


「スキルの成長による変化は単純じゃ。『転移Lv.2』はパワーが上がる。『転移Lv.3』では効率化が起こる。『転移Lv.4』では細かいことができることになる。『転移Lv.5』ともなると次元を大幅に超えることが可能となる」


パワー、効率化?

もっと具体的に何ができるか教えて欲しいのに。


「そう言うな。スキルのレベルアップには本人の気づきも影響するのじゃ。創意工夫、意識、理解、それらが使用回数と密接に関わりレベルアップにつながる」


ふむ、コツを掴むのが大切ってことだな。


「分かりました。じゃあ魔力回復薬の造り方は?」

「う~む、薬草師でもないお主が一から造るのは‥‥‥」

「え? ちょ、まさか‥‥‥」

「すまんな。無理じゃ」

「ピギャア!!」


おれはがっくりと力が抜けた。

おれの二週間はなんだったんだ‥‥‥


「なんという声を上げとるんじゃ。しょうがない。続けるなら一つヒントをやろう」

「え?」

「通常のやり方ではお主には無理じゃが、何かを加えれば、生成の抜け道がある。そしてそれはお主の手の届くところにある」

「本当ですか!」


なんだ? 干し肉、黒パン、薪、塩‥‥‥いや普通にあるものじゃ抜け道にはならないし‥‥‥


「では戻してやろう。以降ここに来ることは適わん。これでさよならだ」

「あ、はい。神様、ありがとうございます‥‥‥そのカップ麺ちょっと」

「ではな」

「あ、ちょ――!!」



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