3.転移基礎講座
気が付くと家にいた。
「加えるもの、手の届くものか‥‥‥」
神様のヒントを考えた。
普通に家の中にあるものでは簡単すぎるし、「抜け道」ってわざわざ表現するか?
とすると、おれが手に入れた貴重そうなもの。それは一つしかない。
おれは生成途中の薬草の粉末に自然回復薬を加えて加熱してみた。
冷めるのを待って反応を見た。
「変わった!」
色に変化が見られた。
おれはそれを一気に飲み干した。
「お、おおおお!!」
魔力が回復した。
成功だ!!
「ではさっそく『転移』しまくろう‥‥‥いや待てよ」
神様は理解、創意工夫がレベルアップを早めると言ってた。
『転移Lv.2』はパワーが上がる。
転移でパワーってなんだ?
部屋の椅子が目についた。
物を一緒に転移することは可能なのか?
極端な話、この家をそのまま転移するとかはできるんだろうか?
試しに椅子から始めた。
「うぉ……」
自分が転移する時より抵抗を感じる。
「ぬぅぅぅ!!!」
だめだ。できない。
自分以外を含めると抵抗が大きくなる。
これがレベルの壁なのか。
まるでバーベルが持ち上がらないような感覚だ。
鍛えればできるようになるのかも。
転移筋トレ。これは日課にしよう。
おれはそれから椅子を一緒に転移しようと何度も試みた。
意識を変え、よく観察したりして試した。できなかった。
「待てよ‥‥‥服は転移できたよな」
自然と服は一緒に転移した。
ということは密着度か?
おれは出来るだけ椅子に密着してやってみた。
ちぃぃぃ、無理か。
「やっぱり大きさと重さだよな。もっと小さいもので試そう」
おれは薪で試した。
一個なら余裕だ。
二個で抵抗を感じた。
三個できつくなった。
四個はギリギリ。
五個で出来なくなった。
「薪の重さは一個500グラムぐらいか。バラバラだけど。ってことは大体2.5キロから3キロぐらいが限度だな」
この調子で実験や練習を繰り返していたら魔力回復薬が大量に必要だ。その割に成長する望みが無い。
神様の助言通り、先にレベルを上げて魔力量自体を上げた方が効率が良さそうだ。
それには狩り、魔獣や魔物と戦って倒さなければならない。
干し肉の備蓄もずっとは持たない。
食いきる前に飽きてしまうだろうな。いつかはやらないといけないんだ。
狩りの道具はある。ナイフと槍、それに弓か。あと薪割り用の斧、鉈。
とりあえず持ってみる。扱ったことの無い道具。
練習しないとな。
今のままではあの黒い狼みたいな魔獣が出てきたらとてもかなわない。
でも森には入らなければ狩りにならない。
『転移』を活用してスピーディに狩りを終わらせなければ。
今は複雑なことはできない。だからシンプルな方法だ。
その練習をすることにした。
「魔力回復薬の準備はこれぐらいでいいか」
魔力回復薬は結構な量が備蓄できた。一回に必要な量はお猪口一杯分ぐらいだから気にせずどんどん『転移』できる。副作用とかあるかもしれないが気にしない。
練習の目的は目標に正確に素早く転移することだ。
単純だが、慣れが必要だ。
『転移Lv.1』はただ転移するだけ。でも距離の制約はたぶんない。空間を飛び越えるのに実際の距離は関係ないのだろう。
ただし、転移する場所はおれの頭に浮かぶ場所でなければならない。
例えば家、あの崖の中腹にあるくぼみ、神様の居た場所。
逆に言えば、雑然としてハッキリしない場所にはイメージだけでは転移できない。
どこも似たような森の中で、思った場所に転移するのが難しい。
それから転移した時の体勢だ。
転移直後、思わぬ態勢で転んだりしてしまう。脚が地面に引っ掛かったり、逆に地面に脚が付いてなかったりする。ちょうどよく転移してもグラグラと揺れるような感覚がある。電車の線路が切り替わった時みたいな揺れだ。踏ん張らない倒れる。
早く、正確に『転移』できるように練習した。
動きながらでも『転移』できるようにひたすら繰り返した。
『転移』のプロセスを説明しよう。
ステップ1.しっかりハッキリポイント設定。
ステップ2.慌てず、素早く『転移』発動。
ステップ3.油断禁物。確実な着地と周囲の警戒。
ポイント設定は空間というより、何かの傍を意識するようにした。
例えば花、特徴的な木や草、岩、その組み合わせ。要は観察とイメトレが大事だ。
安定して素早く『転移』するには平常心が大事だ。慌てると時間が掛かったり、体勢が崩れた状態で転移してしまう。自分がどんな体勢で転移するかイメージすることで上手くコントロールできる。
『転移』をうまくコントロール出来たら、着地は心構えだけだ。
転移する時にキチンと着地のタイミングを計っておく。でも着地の後は隙だらけだ。周囲の警戒を怠らないようにする。
おれはこれらを意識しなくてもできるようになるまで特訓した。
朝起きてから夜寝る前まで繰り返した。
そうして一か月が過ぎた頃。
ついに、家の備蓄が底をついた。
「果物とか野草でも生きられそうだが、やっぱり狩りするしかないか」
生粋の都会っ子だった身としては生き物を殺すのはメンタル的にヤバい。解体とか病むかも。
だがそうも言ってられない。
おれは意を決して槍を携え森に入った。
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