最強スキル『転移』を極めることにした。
よるのぞく
1.スキル『転移』獲得
はっ、ここは!!
おれは気が付くと雲の上に立っていた。
目の前にはいかにもな白髪の長い髭を蓄えたじいさんがいる。
「あ、あなたは‥‥‥ゼウス!?」
「違うのう。一か八かで当てに来たのか。気まずくなるとか考えんのかのう? まぁ何と呼んでも良いがの」
「異世界転生ですか!?」
「う~ん。チュートリアル飛ばすタイプだの。こういうのはもっと会話を交わしてな、ここはどこで、なぜ死んだのか、これからどうするかやり取りがあるのが定番なんじゃが」
「え? 大体察しは付いているので別に‥‥‥」
「そうか。話が早くて助かる。まぁその、すまんかったのう」
「ああ! これはスキルとかチートもらえる流れだ」
「まぁ、そうなんじゃが‥‥‥これは異世界転生ブームの弊害かのう」
どんなスキルがありますか?
「いや、確かに心を読めるが、話すのを面倒がるでない」
これからおれの第二の人生が始まるのか。
選ぶスキルは決まってる。
転移だ。
「勝手に話進めるでない。せっかちじゃのう。もう良い、望み通りお主にスキル『転移』を授けよう。次なる人生を全うできることを願っておるよ」
「はい、魔王を倒して、金持ちになってかわいい女の子を侍らして暮らしますね!!」
「いや、煩悩に溢れとるのう。果たしてお主を転生させるのが良いのか悪いのか。あ、魔王にケンカを売ってはならんぞ。普通に人間と友好を結んでおる立派な人格者じゃ」
「え? じゃあ、誰をぶちのめせばいいんですか?」
「‥‥‥レベルと基礎能力を上げておこうかと思ったが普通にしておくか。お主危ないな」
「何でですか! 悪い奴を殺した奴が正義でしょ!」
「怖っ。こりゃいかん。裕福な貴族の家の息子として転生させようと思ったが、普通の村人にしておくかのう」
「わぁ、ちょっと待った!」
おのれ、せっかくなろう系主人公になれるところだったのによう。
ま、いっか。
転移はできるんだからな‥‥‥
……ZZZ
……ZZZ
……Z
おれはむくりと固いベッドから起き上がった。
「うわ、もしかしてこれは‥‥‥」
木造平屋の家にはおれ以外誰も居ない。
鏡はないが齢25歳のおれの身体そのままのようだ。
異世界転生じゃない。異世界転移だ。
おれはショックのあまりその場にがくりと膝を着いた。
「だめだ。この顔じゃモテないんだよ!!」
25年の実績に裏打ちされた真実である。
おれは平凡な日本人顔だ。
同窓会で元クラスメートにそういえばいたなと驚かれ、担任の先生に顔を忘れられるぐらいの平凡さだ。
仕方ない。
おれはしばらくメソメソしながら家の中を物色して気を紛らわした。
干し肉や狩りの道具、カメに入った水、薪、塩、寝具に着替え、しばらく生活できるように一通りそろっていた。
それになんとなくこの世界の常識や言葉もわかるようだ。
ここら辺の恩恵はありがたい。
転生して一から全部地道に覚えるより良かったかもしれない。
「さて、ではさっそく、ステータスオープン!!」
思った通りステータス画面が目の前に表示された。異世界に来たと実感が込み上げてきた。
■壬生京志郎 16歳
■レベル:5
■スキル:『転移Lv.1』
ステータス画面には名前と年齢、レベルとスキルだけ表示されていた。
ふむ、かなりシンプルなタイプの世界だな。
ええ、16歳!?
地味に若くなってる!?
そうか、レベルがある世界だと歳をとっている方がレベルが高いのが当然だ。基礎能力を上げようとしてやめるとか言ってたしな。能力に見合った年齢まで下げて合わせたのか。
つまり16歳でレベル5ぐらいが標準ってことか。
スキルにもレベルがあるようだな。
これは使っていくと上がるようだ。
ただし、スキルを使える頻度は限られる。
消費するのは魔力で、消費量は体感で覚えるしかない。
まず試しにやってみた。
念じるだけで瞬間移動できた。
よしよし!
もう一回。
あれ?
できない‥‥‥
この感じ、もう魔力が無いのか!?
転移は一回しかできないみたいだ。
「よし、そうなるとまずやることは魔力回復薬探しだな」
おれの考えが正しければ転移は間違いなく最強チートだ。
だが実験して試すには魔力が足りない。
神様魔力チートもくれればよかったのに。
だがおあつらえ向きにここは森の中だ。
初めて外に出るが、地理も頭に入っているようだ。
植生も見ただけで何がどんなものなのかわかる。
あれ、これ知識チートなんじゃないか?
おれのこと厄介そうに送り出した神様だったがちゃんと生き残れるようにはしてくれたようだ。
おれは目当ての薬草を探しに森に出た。
ちなみにおれはバリバリのインドア。
自然に触れるのは中学以来かも。でこぼこした地面に脚を取られそうになる。
服装は村人Aのような質素な感じだ。サイズは合ってるから着心地は悪くない。
鉈を振り回し、草むらをかき分ける。
おれは夢中で薬草を探した。
数時間が経過した。
「な、ない‥‥‥」
何となく効果のある薬草の見た目と群生しそうな場所も検討が付いているのだが、まったく見つからない。
腰が痛い。
脚も重い。
心臓が痛い。
もうだめだ。
そう思った時だった。
木々の間から巨大な何かが飛び出して来た。
おれはそれに押し倒されてから気が付いた。
「な、な!?」
魔獣だ。
黒い毛をした狼がおれに噛みついていた。
「ぎゃああ‥‥‥」
いきなり死ぬ!!
しまった、転移をさっき使ったから逃げられない!!
引きはがそうとするがビクともしない。歯がゴリゴリと骨にあたる感覚がある。
「いてぇぇぇっ!!!」
完全に無計画ゆえの失態。
異世界舐めてた‥‥‥!!
「この、放せ!! この、この!!!」
おれはジタバタと足掻き、運よくそれが眼にあたったようだ。
牙から解放され、おれは急いで逃げた。
「うわぁぁぁ!!!」
おれは死を覚悟した。
狼の脚から森の中を逃げ切るのなんて無理だ。
『転移』を使うための魔力がこの数時間で回復した様子は無い。
詰んだ。
絶望だ。
「ひゃああああ死にたくない!!!」
後ろを振り返った。
狼はもうすぐ後ろにいた。
その瞬間、景色がぐるりと回転して、地面の感覚が無くなった。
「うぇ?」
下に落下した。おれは岩に激突し意識を失った。
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