第8話

 その部屋はずいぶん白かった。その中で、彼だけが異質だった。

 数か月前には部屋に同化しそうなほど透き通っていた肌は黒ずみ、枝も花も失われた。

 呼吸器の音だけが不規則に響く部屋で、俺は息を殺して彼の腹がゆっくり上下するのを見ていた。

そこへ、椿が一輪、




「瑠璃山さん」

 はっと顔を上げると、うのがいた。ベッドの上に身を起こして、こちらを見ている。

「うの……」

「瑠璃山さん、私、知っていました」

 黒く大きな瞳は、俺をまっすぐに見ている。

「あなたが私のドナーだったこと」

 俺は慌てて目を逸らした。

「成り行きだ。善意で提供したわけじゃない」

「ふふ。それも知っています」

 もう一度顔を上げると、うのはいつものように笑っていた。静かに、密やかに。そして、考えを巡らせるように目を閉じた。

「何から話せばいいかしら」

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