第5話
外は雨が降っていた。錆びたビニール傘をさして朝飯屋に向かうと、いつにも増して店内は混んでいた。満席である。客から滴り落ちる雨粒で床が濡れている。うのが転ばなければいいが、と、店内に目を走らせたものの、うのの姿はないようだった。
「うのなら配達に出てるよ」
女主人がレジを打つ手を休めずに言った。
「外帶(テイクアウト)?」
お釣りを客に手渡しながら、顔だけこちらを向いた女主人がきいた。
遠くの道端にバイクが見えた。朝飯屋のロゴが入っている。その隣ではうのと、見慣れないスーツ姿の男が話し込んでいた。
その道を歩いて行くと、男は前方に停めてあった黒塗りの車に乗り込み、走り去っていった。
うのは、雨に濡れながら、ふーっと長く息をついた。しかしこちらに気が付くと、にこりと笑った。
「こんにちは、瑠璃山さん」
顎をしゃくって車のことを問う。うのは困ったように笑った。
「道を訊かれたんです」
伏せた睫毛や、花弁や、艶のある深緑の葉に、透明な雨粒が載っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます