第5話

 外は雨が降っていた。錆びたビニール傘をさして朝飯屋に向かうと、いつにも増して店内は混んでいた。満席である。客から滴り落ちる雨粒で床が濡れている。うのが転ばなければいいが、と、店内に目を走らせたものの、うのの姿はないようだった。

「うのなら配達に出てるよ」

 女主人がレジを打つ手を休めずに言った。

「外帶(テイクアウト)?」

 お釣りを客に手渡しながら、顔だけこちらを向いた女主人がきいた。

 

 

 

 遠くの道端にバイクが見えた。朝飯屋のロゴが入っている。その隣ではうのと、見慣れないスーツ姿の男が話し込んでいた。

 その道を歩いて行くと、男は前方に停めてあった黒塗りの車に乗り込み、走り去っていった。

 うのは、雨に濡れながら、ふーっと長く息をついた。しかしこちらに気が付くと、にこりと笑った。

「こんにちは、瑠璃山さん」

 顎をしゃくって車のことを問う。うのは困ったように笑った。

「道を訊かれたんです」

 伏せた睫毛や、花弁や、艶のある深緑の葉に、透明な雨粒が載っていた。

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