第4話

「なぜ僕なのだろう」

 彼は穏やかな表情で首を傾げていた。薄く笑みを浮かべて。

「ずいぶんと気を使ってきたつもりだよ、大事だったから。大多数のひとよりも努力したつもりだよ。それでも駄目だったんだ。理由なんてないのかもしれないね、でも、」

 深緑の瞳から、色を映した涙がぽろりと零れた。

「なぜ僕なのだろう」

 ぐにゃりと表情が歪み、彼は顔を手で覆った。清潔なシーツの上に、焼けたような色の花が次々落ちる。

「僕は角枝を失うことがひどくおそろしい。自分の価値が全てなくなるようだ。せめて一本だけでも、残ってくれたなら。君が羨ましい。美しく健康な、君が羨ましい。一本だけでも、君の角枝をもらえたなら、なんて、最近はいつもそんなことを考えている。ばかな考えだ。美しくない。でも、君を見ているとばかで醜い考えが止まらないのだ」

 もう来ないでくれないか、と、震える声で彼は言った。ブラインドの隙間から西日が、切り込みをいれるように、シーツの上に落ちていた。

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