第2話

「僕ら、花がひらく音は同じなのだな」

 真空みたいに静かな深夜だった。花のひらく音と落ちる音だけが響く、どこか異世界じみた部屋で、彼はそう言った。空間によく馴染む、透き通った声だった。

「ねえ、色も音も、匂いや感触さえ感じられなくなったら、花は存在していないことになるんだろうか」

「そんなわけねーだろ、そいつに感じ取れないだけで、ちゃんとあるんだから」

 俺は静寂を破くように、殊更声を大きくして言った。

「でも、どうやって存在を認めさせるの?本当は五感で感じ取れないいろんなものがそこら中に転がっているとして、瑠璃山は信じられる?」

「わっかんねー知らねー。俺に難しいこときくのヤメロ」

「ごめん。なんとなく、今じゃないときけない気がして」

「変なやつ」

 知ってる、と彼が笑って、また静寂が満ちた。心地のよい沈黙だった。そこへまた、椿の落ちる音がした。

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