第2話 恋の龍宮伝説……✨✨

 ☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚




 もしも……。

 浦島太郎が里へ戻ることなくそのまま龍宮城へ残っていたとすれば。


 


 玉手箱を開けることなく龍宮城で天寿てんじゅまっとうできたのだろうか。



 乙姫と結ばれ、仲睦なかむつまじく幸せに。






 ☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚








 抜けるように青く澄んだ空が広がっている。




 南国特有のギラギラとした日差しが眩しい。


 気温は、本土とさほど変わらないようだ。

 しかし湿度の関係だろう。

 心なしか、ここ《エデン》の方が過ごしやすい。



 親友のジョーダンは、また美少女のリンダたちと浜辺で戯れている。



「キャァァ……*・゜゚(^O^)ノ✧」

 昨日からジョーダンたちは、ずっとはしゃぎっぱなしだ。


 どんだけ元気なんだろう。

 ドーパミンなどの脳内麻薬が出てるのか。

 まったく疲れを知らない無尽蔵の体力だ。


 それに比べて、ボクは時差ボケしたみたいだ。



「ケッケケェ……\(>o<)ノ.☆゚.*・。゚

 ほら、捕まえたァ……!!」

 城はイヤらしい顔で、美少女の腰にしがみついた。


 まるで顔面を美少女リンダの下半身へ埋めるような恰好だ。真っ昼間だと言うのに、どんだけなんだろう。


 とても奥手でシャイなボクには真似できそうもない。



「ヤダァ…….\(>o<)ノ.☆゚.*・。゚」

 看護師のリンダも愉しそうに悲鳴を上げた。


 言葉では『ヤダァ』と言っても、まったく嫌そうには思えない。鼻に掛かって、甘えているような口ぶりだ。かなり色っぽく感じる。



「ケッケケェ……\(^O^)ノ.☆゚.*・。゚」

 ジョーダンも恋人みたいにふざけあっている。



 熱烈に抱きしめあい、濃厚な口づけを交わしていた。

 見ているボクの方が恥ずかしくなってくる。


 明らかに濃厚接触だ。



 青く澄んだ大空みたいに、なんの悩みもないように感じる。

 いつも彼は陽キャで開放的だ。

 


「ンうゥ……(ಠ︵ಠ;)!!」

 陰キャで人見知りのボクとは違って、ジョーダンは誰とでもすぐに仲良くなれる。

 

 まったく羨ましい性格だ。


 ボクも彼に見習って美少女らとたわむれたいが生来のシャイで生真面目な性格が邪魔をする。

 

 


 しかし。

「うゥ……」またボクは小さく呻いた。

 なにかがおかしい。

 この《エデン》と言う国は……。


 なにかが。



 

「どうしたのよ。チン太郎?!

 暗い顔してェ……(. ❛ ᴗ ❛.)!!」

 音もなく隣りに座る姫乃がボクの顔を覗き込むように訊いてきた。


 ピーチのように、甘い香りがボクの鼻孔をくすぐっていく。

 クラクラしてきそうだ。


 姫乃の大きなエメラルドグリーンの瞳がキラキラと輝いている。



「いや、別に……、ちょっと疲れたのかな。

 姫乃ヒメみたいな可愛らしい子と、遊んだことがないからみたいだ」

 誤魔化すように照れ笑いを浮かべた。

 ひと晩じゅう遊んでいたような気がする。



「大丈夫ゥ……(. ❛ ᴗ ❛.)!! チン太郎!!」

 スッとボクの太ももに手を伸ばしてきた。



「いやいや、チン太郎じゃなくて、真太郎ですよ。ボクの名前は!! 浦島真太郎!!」



「フッフフ……(。•̀ᴗ-).☆゚.*・。゚ 

 構わないわ!! 姫はチン太郎で!!」



「無茶クチャ言わないでくださいよ!!

 構うか構わないかは、ボクの決めることでしょう!!」

 これで何度目だろう。

 いくら繰り返し、名前を訂正しても聞き入れる気はなさそうだ。




「どうしてェ……?! そんなに初夜のコトが心配なの」



「えェ……(⑉⊙ȏ⊙)!! しょッ、初夜!!」

 ドキッとして聞き返した。声がひっくり返りそうだ。



「平気よォ……( ꈍᴗꈍ)!! はじめは下手でもちゃんと姫はッた振りしてあげるから!!」

 ジャレつくようにボクの股間の際どい辺りをポンポンと叩いた。



「えェ……(ಠ︵ಠ;)!! ッた振りですか」

 つい反射的に腰が退けてしまう。


「平気、平気!! どんなに早漏でも対応できるならタイプだから。

 姫はァ……( ꈍᴗꈍ)!!」



「ぬうゥ……、どんなタイプですか!!

 ベテラン風俗嬢じゃないんですから!!」



「それとも、まさかチン太郎ォ……!!

 もうホームシックになったんじゃないのォ……(. ❛ ᴗ ❛.)!!」

 


「いや……、別にホームシックなんてなってないよ」

 軽く首を横に振り笑顔で応えた。


「フッフフ……、昔話しの浦島太郎もホームシックになったのかしらねえェ!!」

 どこまでも続く青い海を見つめて微笑んだ。


「え、浦島太郎……(ب_ب)!!」



「そうよ。浦島太郎カレも村へ帰らず、龍宮城に残っていれば良かったのにねェ」

 不意に、姫乃が御伽話しの浦島太郎を引き合いに出した。



「えェ……、龍宮城に残って」

「そうよ。そうすれば乙姫と結婚して、ずっと幸せに暮らせたのに……( ꈍᴗꈍ)!!」



「うゥ、そうなのかな……(ب_ب)!?」

 龍宮城で乙姫との幸せな結婚生活が待っていたのだろうか。



 だが浦島太郎は里心から生まれ故郷へ戻ってしまった。

 





 それにしても可笑しい。


 今日が、7月21日のはずはないのだ。





 ボクの記憶が定かならば、高速フェリーに乗り、東京湾を出港したのが一昨日おとといの7月20日のお昼だ。



 そのまま、ひと晩じゅう朝までフェリーに乗り、やっとこの【美少女の国 《エデン》】へ到着した。

 それが、昨日……。

 つまり7月21日だ。



 そして21日は、この常夏の島で一日じゅう歓迎を受け愉しく過ごした。



 さすが【美少女の国 《エデン》】と言うくらい可愛らしい女の子ばかりだ。

 

 時間を忘れるほど愉しい歓迎パーティだった。まさにカーニバルと言った歓迎ぶりだ。


 

 疲れたのだろうか、その夜はグッスリ眠り起きたのは、ついさっきだ。


 グッスリと熟睡した所為せいもあって時間の感覚が可笑しくなったみたいだ。



 気づくと、すでにお昼近くになっていた。

 



 つまり本土を出航し、二日経ったので今日は7月22日。

 ボクの誕生日だ。

 間違いない。




 別に誕生日を祝ってほしいわけではない。


 






 ☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚





 【龍宮伝説】……。

 



 ご存知、かぐや姫、桃太郎と並ぶ日本三大

御伽おとぎ草子のひとつと言って良い。



 


 しかし浦島太郎は、他の御伽話しとは少しばかり系統が違う。



 大人が子供に読みきかせるため、だいたいの御伽話しは勧善懲悪だ。


 正義が勝ち、悪は滅びるか、痛い目に遭うように出来ている。




 桃太郎は、鬼ヶ島へ行き村人に無法を働く鬼を懲らしめ退治する。 

 そしておじいさん、おばあさんたち村人の元へ金銀財宝を持ち帰り、めでたしめでたしだ。




 その他の花咲か爺さん、コブ取り爺さん、おむすびころりンにしても、ずる賢くイジ悪なジイさんは天罰が下だり、逆に正直者の良いジイさんは成功し、財宝を手にする。


 一寸法師も鬼を退治し、打出の小槌で大きくなり姫と結ばれ、ハッピーエンドめでたしだ。



 いわゆる勧善懲悪と言うヤツだ。

 子どもたちに読みきかせるため正義は必ず勝つようになっている。



 しかし浦島太郎は、一風変わっている。



 主人公の浦島太郎は正義感の強い若者だ。


 浜辺で悪ガキたちにイジメられていた亀を助け、お礼として龍宮城へ連れていって貰う。



 その龍宮城で、乙姫や鯛やヒラメらから毎日、宴会うたげもよおされ歓迎される。

 楽しい日々は何日も何週間も続いていった。



 だが、そのあと事態は一変する。



 乙姫らに手厚く歓迎されたにも関わらず、浦島太郎は父親母親ちちハハが恋しくなり、里へ戻ると言い出す。



 乙姫らが引き止めるのも聞かずに浦島太郎が村へ戻ると、里は様変わりして、すでに数十年が経っていた。


 まるでタイムスリップしたようだ。



 龍宮城で数週間過ごしただけなのに、生まれ故郷では何十年も経過してしまったのだ。



 そこで、落胆した太郎は乙姫から手渡された玉手箱を開けると、たちまち真っ白な煙が立ち込め、一瞬にして浦島太郎はおじいさんになってしまった。



 龍宮城での出来事は、はかない夢物語りだったのだろうか。



 もちろんハッピーエンドではない。

 どちらかと言えば理不尽な結末だ。

 知らない未来の土地に老人となって取り残されるのだ。

 考えてみればゾッとしてくる。


 バッドエンドと言っても構わない。



 イジメられていた亀を助けたのにも関わらず、この仕打ちは、どう考えてもおかしいだろう。




 もしも……。




 浦島太郎が父親母親を思い出すことなく、そのまま龍宮城で暮らしたら、どうなっていただろう。



 浦島太郎が里へ帰ろうとするのを乙姫らが無理やりでも引き止め、龍宮城へ残ったとしたら……。




 浦島太郎は乙姫と結婚し、仲睦まじく生涯を全うできたのだろうか。 



 幸せな生涯を送るコトができたのか。






 それとも……。


 

 

 



 そうあれは、夏休み初日の7月20日の朝の事だった。




 ボクはメールの着信音で目を覚ました。









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