第13話 礼拝堂にて
「………………」
手足、天翼、胴体、頭部に損傷なし。三神の御加護の稼働並びに循環に問題なし。
魔力値正常。天翼稼働率50%。精神汚染、呪いや病の兆候なし。成長率0%。
機体確認完了、
開眼並びに上体起床、目視による周囲確認開始。
周囲に危険物は確認されず。また異常な魔力値の反応なし。
室内に脅威反応なし。基礎人格を半覚醒状態から覚醒状態へ移行。…………完了。
「……おはようございます」
誰に言うわけでもないけれど、とりあえず言いたかったので言う。
しかし使徒になってからと言うもの、寝ぼけると言うことがほとんどないね。起きたらお目目ぱっちりとは超すごい。寝ぼけてカバンに筆箱じゃなくてゲーム機のコントローラーを入れちゃうって愚行ももうやらなくて済むなんて素敵。
さて、それは良いとして早く着替えよう。
軽く室内を見渡す。比較的新しい煉瓦造りの部屋、机と椅子、クローゼットとランプが設置された簡素な一室というのが素直な感想。聖職者は清貧を心がけよって言われてる気がする。
クローゼットを開け昨日洗った修道服に身を通し、小さい状態の聖兜をベールに取り付ける。その他の武装は全部仕舞った状態にしておこう。ポーチは……つけて行こう。戦うわけではないけど小物入れとしては便利だし。
準備ができたら廊下に出て、真っ直ぐ礼拝堂へと向かう。
窓の外を見るとまだ薄暗い。日の出まではまだ少しかかりそう。
質素だけれども掃除が行き届いた廊下を歩き、突き当たりの扉を開け、礼拝堂へと入る。
通常、礼拝堂には正面の入り口から入ることが多いが、今回私が使ったのは礼拝堂の奥、その側面に設置された扉である。これは教会関係者しか使われない扉であり、この奥に生活スペースや祭祀関係の小道具が仕舞われている部屋がある。
礼拝堂の中央、祭壇の前で跪く。両手を組み、女神様へ祈りを捧げる。
「あら、どうやら初日は順調みたいね」
「!?」
急に女神様の声が聞こえてきたのでちょっと驚いた。ちょっと体がビクッとなったわ。
周囲に人の気配はない。と言うことはつまりこれは神域から話しかけてるってことか。
えっと……目を瞑ったまま、脳内で喋りかけるようにすれば通話可能、だったかな。
『女神様ですよね? 聞いてはいましたけど、こんなに簡単に神域と通話可能とは驚きです』
「まあ、普通はこんな簡単にはいかないのだけどね。私の加護を受けた上位の司祭か聖女ですら一日に一度、しかもかなりの魔力を消費するから短時間しか会話できないのよ」
『なんと。じゃあ私はどうなんですか?』
「聞いて驚きなさい。なんと回数制限及び魔力消費なしのかけ放題話し放題よ!」
大手の電話契約のキャッチコピーかな? ちょっとファンタジー感が薄れ……今更だったわ。
「それにしても、まさか教会の墓地があんな風になっていたとわね。管理が行き届いてないにしても流石におかしいわ」
『見ていらしたのですか?』
あらやだ恥ずかしい。これじゃあ悪さなんてできないね。するつもりもないけど。
「当然でしょ、あなたは私の使徒なんだもの。それはつまり私の子供同然ってこと。危ないことが起きそうだったら神託するし、ちゃんと正しく育つように導くつもりだからね!」
子育てかな? いやこの歳で子育てされるのは結構複雑。
……けど楽しそうだし、まあ赤ちゃんプレイでもさせられない限りはスルーでいいか。
「話を戻すけど、いくらなんでもあれだけの死霊が湧くなんて不自然すぎるわ。確かに荒れ果ててはいたけど、それをさっ引いても湧きすぎね。それに
『そうですね。あの屍どもを殲滅した後に念の為に探知してみたのですが、
そう、実は墓場地下の妙な反応は消えてはいなかった。
そのまま地下への入り口を探し、直接殴り込もうとも考えたが、人目もあったし、何より潜んだのなら今夜は行動しないと考えて次の朝、つまりは今日の朝に安全な時間帯で捜査しても問題ないと考えた。
「なんにせよ。未知の敵がいるには違いないからくれぐれも気をつけてね。侵略者の件もあるし、危ないなって感じたら遠慮なく言いなさい! きっと助けてあげられるから」
『勿体ないお言葉……いえ、ありがとうございます、神様』
流石に仰々しすぎるかな? と思ったので言い直す。
子供から他人行儀で接せられるのって堪えるものね。
しかし……ほんといい
彼女の期待に応えるように、私も全力を尽くさないと。
「さてと……礼拝堂、勝手にお借りしてすいません」
立ち上がって、壁際からこちらを見ていた人物に話かける。
白髪に五十過ぎくらいの眼鏡をかけたやや痩せ気味の男性。この新教会堂を管理しているメルヴィン神父だ。
「いえいえ、お祈りでしたらいつでも誰でも自由にしてもらえるように、こちらは解放していますから……しかし、思わず見惚れてしまいましたよ。まるで聖都におわせられる聖女様のようでしたな」
「そんな、今も聖都にて世界のために祈り続けておられる彼女に比べれば、私なんてまだまだですよ」
はて、聖女とは誰だろう? 事前知識によると、今代の聖女は空席のはずだったけど。
まあとりあえず話を合わせてそれとなく聞き出そう。
「ご謙遜なさらなくとも。私も一度だけあの子の祈りを拝見したことがあるのですが、彼女に匹敵するくらい真摯に祈りを捧げていらっしゃった。あの子が真の聖女となるのならば、きっと結界の向こうの侵略者どもをこの世界から消し去ってくれるでしょうな」
やばいな聖女。このまま進化すると勇者クラスになるのか。
「頼もしい限りですね。私も微力ですがお力になれるように努力しないと」
「……ええ、そうですな。本当に、そうなのですが」
「どうかしましたか?」
急に彼の表情が暗くなる。
「いえ、時折不安になるのです。あのような、
あー、なるほどなるほどそう言うことか。御同輩でいらっしゃったか聖女様。
正直聖女と言われて思い浮かぶのは副委員長くらいのものだけど、あの人猫被りだからなあ……。まあ時が来たら偶然を装って会いに行こう。
まあそれはいいとして、結構気にしてるねメルヴィン神父。
私たちはそれを承知で転生してきたわけだし、この人が気に病むことはないのに。……まあ事情を知らない人から見れば、才能ある子供に世界背負わせてるようなものだから、人柱に近い感傷を抱いてるのかもしれない。
まあ、実際の中身は別世界の青少年なのだけれども。
案外楽しんでたりするかもしれないし、困ったらことがあったらあの国内にいる限り神様が気づかないはずがない。なら放置が安定かな。
「そう不安に思われなくとも良いでしょう。聖都は女神様のお膝元、彼女が助けを求めたならばきっと女神様もそれに応えてくれるはずです」
「……ええ、そうですな。確かに私どもが無為に慌てるよりも、女神様の思し召しに任せてほうが良いのかもしれませんね」
一応納得してくれたのか、心なしか少し朗らかな表情へと変わる。
「おや、いつの間にか日が上っていたようですな」
ステンドグラスから差し込んだ日の光が、礼拝堂を美しく照らしあげる。
「では、泊めてもらったお礼と言ってはなんですが、今日の朝食は私が作りましょう」
「いえいえいえ! そんな雑事を聖騎士様がやっていただかなくとも」
「いいえ、一宿一飯の恩という言葉もありますし、お任せください」
と半ば強引に礼拝堂から食堂へと向かう。あっちでの家庭科の成績は並程度だったけれども、一応基本的な料理なら事前知識に入っているので料理は可能なのだ。
何作ろうかな? こっちのご飯って知識はあっても味の記憶はないからすごく楽しみである。
そんなウキウキ気分のまま、私は足早に食堂へと急いだ。
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ちょっと筆が乗って教祖ルートに行きそうになったのを修正していたら遅れました
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