第11話 悲劇のオフィーリア
かつてグーリルの街にはオフィーリアという名の美しい女性が住んでいた。
オフィーリアは心優しい性格の持ち主で、老人から赤子、果ては動物にまで優しく接していた。
彼女は
そんな彼女の姿に人々は惹かれ、旧教会堂は毎日人で賑わっていた。
しかし、幸せな時間は長くは続かなかった。
事の始まりは、旧教会堂に一人の男が現れたことだった。
ボロい布切れを纏ったその男はこの街の住人ではなく、門番も奴の姿を見ていなかったことから何処かの抜け穴からこの街に侵入した浮浪者だと後に考えられた。
皆は奇怪な男が恐ろしくて近づけなかった。だが、オフィーリアだけは違った。
彼女は自身の身なりが汚れることも厭わずに、彼を抱きしめ、そのまま治癒の奇跡を施した。
するとどうだ。彼が負っていた怪我は消えて無くなり、身なりも多少なりともマシになったのだ。
その後、男はこの事に深く恩義を感じたのか、彼女と共に旧教会堂に住み着くようになった。
日に日に彼女たちの中は深まり、数年後には結婚することとなった。二人は仲睦まじく、誰から見てもお似合いのように思えた。
その頃には皆男の事を受け入れていて、誰も怪しむ者などいなかった。
それが間違いだった。
いざ結婚式を間近に控えたある日、とある嵐の夜のことだった。街の少年が旧教会堂を訪ねると、そこには血の海に横たわるオフィーリアの姿があったそうだ。
少年はすぐにオフィーリアに駆け寄ったが、首筋を食いちぎられ、すでに生き絶えていたそうだ。
だが、少年が見たのはそれだけではなかった。
絶え間なく落ちる落雷、それらが齎す光が礼拝堂の奥、影に潜んでいた輩を照らし出した。
あの男だった。
口元を真っ赤に染め、邪悪な笑みを浮かべるその男は少年に向けてこう語ったらしい。
「俺の中には邪悪な魂が宿っている。愛した者殺さずにはいられない悪魔の魂だ。いるだけで災いを起こす穢れた存在なのだ。オフィーリアほどの女性ならばと思ったが、彼女でも敵わなかった。ならば俺はもう誰も愛さない。誰にも知られることもなく、一人死んでしまおう」
そう言うと男は黒い翼を生やしてステンドグラスを破壊し、嵐の中に消えてしまったらしい。
その次の日、旧教会堂で倒れていた少年は礼拝に来た礼拝客によって保護され、オフィーリアの遺体も同時に発見された。
目を覚ました少年の語った話はすぐに広まり、何かを知っているであろうあの男を皆が血眼になって探していた。
だがあの男の姿はその夜の日以来誰も見ていない。この街に来た時と同じように誰の目にも触れられることなく消えてしまったのだ。
この街は悲しみに包まれた。
皆の太陽であったオフィーリアが惨殺されてしまったのだから無理はない。
しかし、悲劇はこれだけでは終わらなかった。
オフィーリアが亡くなってから数日経った頃、一人の町娘が行方不明となった。素直ないい子で、夜遊びもしたことのない真面目な子だった。
街の皆で彼女を探したが見つからなかった。
だが数十日経ったある日、彼女は突然見つかった。
あの旧教会堂の墓地で死体となって見つかったのだ。
だが何よりも皆が恐怖したのは死体ではない。その死体の首筋が抉れたように噛みちぎられていたからだ。そう、オフィーリアと同じように。
あの男はまだこの街にいる。そう皆が思うには十分な証拠だった。
だが探せど探せど痕跡すら見当たらない。
そうしているうちに次の犠牲者が現れた。またも女性だった。いや、正確に言うならば
皆は確信した。あの男は自らの手で殺したオフィーリアのことを忘れられずにこの街を彷徨っているのだと。
そして夜な夜な街へ彷徨い出してはオフィーリアに似た年頃の娘を襲い、食らっているのだと。
犠牲者は次々と出始め、いつしかこの旧教会堂には年頃の娘は近づかないようになった。
すると不思議なことに、それ以降変死体が出ることはなかった。
だが代わりに年に一人から二人、街から年頃の娘が夜中に消えてなくなる事件が起きるようになった。
きっとこれは呪いなのだろう。
あの男が何もだったのかは、誰にもわからない。封印された侵略者の生き残りか、それともそれに似た何かだったのかは、誰も知らない。だがオフィーリアを忘れられずにいるあの男の執念が街の娘を動かして夜な夜なこの墓場へと導いているのには間違いない。そしてそれは今も終わってはないのだ。
「と言うことじゃ。口には出さないが皆そう思っている。じゃから君悪がってここには近づかんし、用事があったとしても年頃の娘だけは近づけないように徹底しとるんじゃよ。故に旧教会堂は実質閉鎖状態となり、漸く五年前にここから反対側のあちらへ新設されたのじゃ」
「はあそうですか」
まあ確かに悲劇で悲恋で救いのない話だった。
まあまあそれはいい、有益な情報が聞けたのは助かる。助かるのだけど。たまに脱線したり、話がループしてたりして軌道修正に苦労したけどそれもいい。
「つかぬことをお聞きしますが、オフィーリはとはどのくらいのお歳だったかわかりますでしょうか?」
「ええっとのぉ……。おお思い出したぞ。確か当時は大体
「なるほどなるほどそうですか。ええ、ええ、よーくわかりました。はい」
Oh,My God.そんなこったろうと思ったよちくしょうめ。
なんで私が不機嫌なのには理由がある。
一つはこのお爺さんの昔話が予想より長引いてしまったと言うこと。
彼の話を余さず聞いていたら頂点にあったお日様はかなり傾き、もうすぐ地平線の向こうへ消えてしまいそうなくらいまでに時間が経ってしまったのだ。
二つ目は私の年齢である。
二人目の犠牲者が出て来たあたりで嫌な予感がしていたが、的中してしまった。
今回転生した者たちは大人を除き
今他の転生者は赤ちゃんからやり直していて殆どが十歳前後になる。……転生せずに肉体を再構成した私を除いて。
まあとどのつまり何が言いたいかというと、今の私は側から見れば十七歳の修道女ということになる。
まあまあこれだけで私が狙われるとか自意識過剰かに思えるけれど、最後にとっておきの理由がある。
「お爺さん、早くこの場から逃げた方がいいですよ」
「な、なんじゃいきなり? それならばお主も」
聖甲手、聖鎧を装着。右手に聖杖、左手の指の間に聖針を挟み込む。
唐突に武装した私に戸惑うお爺さんであったが、私の背後にいた奴らに気づくとそのまま腰を抜かしてしまった。
「な、なんじゃああれは!?」
震えた腕で杖をさす老人。
ワンチャン気づかないかと思ったけど、こうも
日が落ち始めた辺りから瘴気が濃くなっていったし、犠牲者の年齢と性別、そして時間から考えて、狙いは私だろう。
ゆっくりと私は振り返る。
そこにいたのは私の知識通りの怪物だった。
影だけ見ればただの人間たちだが、その風体は明らかに生きている生物のそれとは異なっていた。
それは死体だった。寿命が尽き心の臓が動きを止めた肉体が、この世の摂理に反して偽りの生を謳歌している。
所々腐り落ちた肉体からは骨が見え、どす黒い血液と溶けた肉体が混ざった何かが絶えずこぼれ落ち腐臭を放つ。
それらが今、私への敵意を隠さず襲い掛かろうとしていた。
「【
私とお爺さんとの間に数本の聖針を穿つ。直後に聖針を起点として光が生まれ、それらは線として繋がり、やがて光は立ち上り壁となる。
聖天、光属性の防御魔法。自身を守るように丸いバリアーみたいなのを発生させる魔法だけれども、この様に物体を触媒にして離れた場所に発動することもできる。今回は私の後ろ、お爺さんと私を引き離すのと被害がそっちに行かないように使わせてもらった。
……さて、ゾンビ、マミー、
「さあやろうか
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