第8話 使徒降臨 その2


「天翼最大稼働率70%を更新。八雷神の御加護、大神の御加護、共に問題なく定着。使徒化における不具合確認されず。……うん、多分ですけど問題ないと思います」


 神域でのウォームアップを一通り終えて、現状を確認する。

 体の隅々に行き渡る魔力と神の御加護、それらは使徒化してすぐに感じとることができたけど、体の調整と合わせて問題なく使用できるまでに三日もかかってしまった。

 特に初日なんかは目も当てられない有様で、魔法を誤爆したり加速しすぎて流星になりそうになったりとひどいことこの上ないものだったなぁ……。


「それじゃあ、あちらの教会に送るわね。場所は……一応目立たないこの廃村のにしておきましょうか」


 地図を見ると、メルダ教国の外れに人がいなくなった廃村が表示されていた。


「はわ、そう言えば装備の方は問題ないかしら? サイズはピッタリだと思うのだけど、どうにも時代のセンスってのに疎くて、気がついたら流行が百年前に終わってたって事もあるのよね」


 さすが神様、スケールが違う。


「この服装、確かあっちの聖職者をモデルにしたって聞きましたけど……。これ、本当にシスターの格好なのですか?」


 女神様に頂いた服装だけれども、初めて見た時から違和感がすごい。

 黒を基調とした布に所々翠色の金具をあしらった女性用の修道服。ここまでならまだ異世界風修道女と言えたかもしれない。腰に回すようにつけられたポーチには回復用のポーションや聖水などが入ってはいるが、その他の装備が物騒すぎる。

 邪なるものへ突き刺し浄化する聖針せいしん、魔力が尽きても発動できる邪なるものを退ける聖符せいふ、魔の物に触れても穢れず殴り飛ばすことができる聖甲手せいこうしゅ、装着した者を穢れから守る脚部の聖具足せいぐそくと胸部の聖鎧せいがい、とっておきに魔法の触媒として効果を増幅させる十字杖でありながら天翼に備え付けられた刃を装着することで三叉槍にも大鎌にもなる聖杖せいじょう

 なんということでしょう。これらに加え天翼を展開することによって、一見まともだった修道女が悪魔を見た瞬間に滅殺しそうな戦乙女が完成したのである。リアルで会ったら近づきたくないね。


「普通の聖職者はもう少し装備が少なめだけどね。あなたは十分戦えるのだから聖騎士の装備の方を参考にさせてもらったわ。私の使徒として活動はしてもらうけど、あまり派手に動くと侵略者に警戒されそうだし基本身分は偽ってもらうことになるわね。だから女性の聖騎士としていた方が目立ちにくいと思って」

「いやそれでも限度がありません? こうも完全武装だと逆に警戒されそう」

「はわぁ……あ、ならこれならどうかしら」


 そう言って女神様がどこからともなく取り出したのは白いヘルメットだった。

 ただしただのヘルメットではなく、俗に言う兜に近いものなのだと思う。

 白銀に輝く装甲に翠の線が走り、側頭部からは白い羽のような物が生えていて今にも動きそう。

 瞳の周囲はガラスのような物質で覆われていて、外の光は反射するが中からみるとそんな物があるのかわからないほどにその様子がはっきりと確認できる。……あ、被った途端に頭上に翠色の円輪が出てきた。よくできてるなこれ。


「これは聖兜せいとうって言って邪悪を退ける効果があるのだけど、その他に鎧を収納したり、被った者の正体をわからなくする効果があるの。試してみて」


 言われたとおりに装備よ入れ、と念じてみると天翼とポーチ以外の武装が消え去り、聖兜も一見するとベールの飾りにしか見えない装飾品に変化してしまった。

 反対に装着、と念じてみると一瞬で全身に装備される。これは確かに便利だ。便利だけど。


「これ明らかにSFですよね? このヘルメットからしてSFに寄せてきましたよね??」


 そう、このヘルメットも天使や中世ヨーロッパ風ではなく、近未来の宇宙軍やヒーローあたりが身に着けてそうなデザインなのだ。その上変身機能までついたらもう言い訳できないほどにSFだ。


「でも好きでしょこういうの」

「いや好きですけど」

「ならいいじゃない。私もデザインしなおした甲斐があったってもんよ」


 まさかの特別仕様だった。そこまでしてくれたとあっては文句ばかりも言ってられない。多少SFぽさがなんだ。便利な装備なら遠慮なく使えばいいじゃない。

 全身甲冑で空を滑空しようが、天翼からビームを放とうが、あまつさせ無数の刃を操作して相手を切り刻もうが…………いややっぱり世界観って大事だじゃない? 明らかに自分で思っててなんだけど巨大ロボットの機能解説にみえてきた。


「問題ないようならそろそろ転送するけど、心の準備はいい?」

「!? はい大丈夫です!」


 いやいやと思考が若干SFによりかけたところで頭を振って邪念を振り払う。

 これは女神様からいただいた有り難い物、決してSF的未来装備ではない。


「何か用があったら心の中で話しかけるようにしてくれたら私も応じることができるし、なんだったら適当な教会で祈りを捧げてくれたらここへの道は開けるから、いつでも帰ってきてもいいのよ。あとはそうね……。ポーチの中に聖騎士の身分を示すプレートは入れておいたけど、一応教会のトップには神託しておくから何かあったら彼を頼りなさい。他には」

「女神様女神様大丈夫です、今もうほんと大丈夫なのでそのあたりで」


 このまま行くと雪だるま式に色々と増えていきそうなのでこの辺りで止める。

 まるで孫との別れを惜しむあまり色々と与えて引き留めてしまう祖父母のようだ。この神様が猫を飼ったら多分餌を与えすぎてデブ猫にするタイプと見た。


「あらそう? ならちょっと寂しいけど送ってしまいましょう」


 錫杖を鳴らすと、光の柱が私を包む。


「丁度他の転生者たちもぼちぼちだと思うし、出来たら他の子達のことも気にかけてあげてね。私の勝手な理由で呼び出してしまったからには、できる限りのサポートはしてあげないとね」

「わかりまし……ん?」


 光が強くなる中、今明らかに聞き逃せない言葉を聞いた気がする。

 活動し始める。誰が? 転生者が?


「え、あっちの人間って生後数週間でもう立って動けるの? 動物並みに育ちが早いのですか?」

「はわ? 言ってなかったかしら、あなたは十年間寝たっきりだったのよ。異世界人の使徒化って時間かかるらしくて」


 え、なにそれ聞いてない。

 つまり私は十年間ずっとあの岩の中で眠りっぱなしだったと? どこの眠り姫ですか?

 いやまあ確かに言わなくても問題ない話ではあるけど、「あんた十年寝てたよ」って言われるとちょっとくるものがある。


「じゃあ、あちらのことは頼んだわね。私はここから見ていることくらいしかできないけど、きっと何とかなるって信じてるわ」


 凛とした表情でそう告げる女神様。

 嘘偽りのないその言葉には、私も誠意を持って返さないといけない。そう思った。


「……はい、未熟者ではありますが、必ず世界を救ってみせましょう」


 その言葉を最後に、私は神域から離れ地上へと向かった。

 光の柱はそのまま神域の地面を貫通し、私を下へ下へと降ろしていく。

 雲を抜け、風を切り、光は大陸のとある一点、目的地の教会へと降り注ぐ。

 そのまま光と共に教会内部、天井に設置されたステンドグラスを通り抜け、私は着地する。

 廃村の教会と聞いていたが、中も外もまるで新築のようにピカピカだったのが少し気にはなるが、まあ然程気になるようなことではない。大方女神様がサービスで教会だけを新築同然にしてくれたのだろう。


「さて、じゃあまずは周囲を軽く探索しますか」


 周囲の環境の把握は大事とゲーム友達に聞いたことがあるので、それを実践しようと扉を開けると、そこには驚くべき光景が私を待ち構えていた。

 光の壁で遮られていたからか、それとも私の目が節穴だったのかはわからないが、そこには驚くべき数の動物がいた。

 熊のようなの猫のようなの兎のようなの犬のようなの、日本で見た動物に近い生物が教会を取り囲んでいたのだ。


「……うおぅ、なんか獣がめっちゃいる」


 驚きのあまりこんな言葉を漏らしてしまったけれど、それについては私は悪くない、と思う。



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