暴露
強制捜査までの日数が迫り始めていたこの日。特捜本部では、上岸地区に住んでいる研究センターの独身研究員から得た情報の纏め作業が行われていた。
「職員の1人。仮称Aとしますが、Aの証言では研究に使用している犬猫は全て、県の保健所より引き取られたものだと言うのが、交流のある他職員の中では共通の認識となっているようです。接触に成功したBとCからも、同様の証言を得ております。実験後の動物は研究センター内のガス室で殺処分され、冷凍庫で保管された後に搬出と言う手順になっているそうです。彼らにとっては当然ですが、全て正規の手続きを踏んだ上で行われた実験をしているのだと信じており、実験に使用した動物が本来であれば死亡している筈が、昏睡もしくは仮死状態にされているなど、思いもしない事だったようです」
この報告によって判明したのは、研究センターの末端と中間管理職までは同じ認識でいる事だった。となると、裏を知っているのは幹部を含めた重役クラスのみである可能性が高い。
「また今日に至るまで、新たな動物実験は1度しか行われていない事も判明しました。内偵開始後に施設へ搬入された実験後の動物は、事件の直前にガス処置された後に研究センター内の冷凍庫で保存されていた物だそうです。これは自家発電装置による別系統での電力供給がされており、管理会社が稼働状況をリモートで24時間監視していた事も分かりました。また樋口助役の問い合わせに対応した際、施設が無人であり生きている動物も居ない意味で〈ヒトも動物も居ない〉と答えたとの事です。それと事件に対する研究センターの姿勢ですが、まだ発表する内容を決めかねているらしい事が研究員仮称Bの証言によって明らかになっています」
笹川が自分の研究センターは無関係だと世間に公表してしまえばそれまでだ。実験に使用している各種ウイルスが厳重な管理下にある事を証明出来るだけの施設と機能を備えているのもまた事実である。だが、素知らぬフリをしていても、気が気ではない日々を過ごしているのは確かだろう。
「アバスから牧田に渡ったケージは、現在も処理施設から信号を送り続けています。この際に引き渡した犬の実験は前述の通り既に行われ、同じ業者が先週の中ごろに施設へ運び込んでいる事が確認されました」
牧田の手に渡った犬は保健所の協力を得て入手したものだ。隣県の犬養殖業者が経営難から夜逃げし、取り残された100頭近い犬の中から方々へ渡った内の1匹である。収容期間がギリギリだった事と、高齢で余命幾許もない状態だったのが決定打となった。
満足の行く研究結果が得られたかどうかは、捜査員たちの知る所ではない。
しかし、これで牧田に渡った動物は確実に研究センターの実験用動物になっている事が証明出来た。
一通り報告の終わった捜査員が着席すると、別の捜査員が立ち上がって報告を続けた。
「数日前に入手した新しい情報の報告を致します。岸菜町の前町長こと大沼武明ですが、感染症医療研究センターを町に誘致した背景が一部判明しました」
その言葉で、会議室に詰めている全員の意識が集中した。
「センター長の笹川琢朗と大沼は、前橋市内の居酒屋で知り合い、親交を深めていたようです。当時の笹川は自前の研究施設を持ちたいと言う願望を胸に秘め、土地や物件を探してあちこち渡り歩いていた事が大学の同期生複数名の証言によって明らかになりました。そこで大沼は土地を融通して研究センター誘致を提案し、笹川もこれに飛び付いたようです。この件を笹川は多くの同期生に自慢し、これで俺も一国一城の主だと吹聴していた事も分かっています」
「笹川はその頃、具体的には何をしていたんだ」
戸場管理官が誰しも気になっている部分に突っ込んだ。
「彼は当時に所属していた研究機関で感染症の研究をしていたようですが、施設が古く設備の老朽化も相まって満足のいく研究が出来ないと、まだ交流のあった大学の同期生数名によく愚痴を零していたそうです。大学在学中から我が強い性格で、企業や研究機関と反りが合わない事が多いため就職活動は相当難航したらしく、博士課程を修了した後もオーバードクターとなって在籍していた大学の研究室で教授に師事しながら細々と研究を続けていた事も分かりました。30を目前になった頃、教授の紹介でとある研究機関に所属が決まり、そこで長年勤めていた模様です。自前の研究施設を持つまで無下に辞めなかったのは、教授への恩義を感じていたからではないかと複数の同期生が証言していました」
そこまでの報告が終わった所で、捜査員は手帳のページを捲った。
「また研究センター発足より数年の間、笹川とやり取りをした事がある保健所の元職員から一部ですが事情を聞き出す事が出来ました。実験用として20頭近い犬猫を引き取りたいとの要望があったそうですが、費用を計上して提示した所、渋い返答をされたとの事です。連絡があったのはそれから半年後くらいまでで、以後は何も連絡をして来なくなりました。保健所側も応じる義務はありますが、実験用の動物を入手する手段は保健所以外にもあるため、何所かしらのルートを得たものだと思っていたそうです」
「犬捨て峠を利用した諸費用を掛けない捕獲の方が安上がりだと分かったんだろう。残るは、そこに至るまで何があったか、だな」
これはどうせ、牧田と笹川をしょっ引けば分かる事だ。大沼の自宅にも既に捜査員が張り付き、その動向を監視している。
「続いてですが、役場関係者がこの件を何所まで知っているかについての調査は難航しております。何分、牧田が近くに居る状況での聞き込みはタイミングが難しく、また余計な混乱を招きかねない事もありまして――」
「無理にする必要はない。それで牧田に気取られたらこれまでの苦労が水泡に帰してしまう。どっちにしろ、身柄を確保した後に全員の調書を取る段階で分かる事だ。それではここで、捜査当日の日程について発表しよう」
首脳陣の1人が立ち上がり、戸場管理官の言う事をホワイトボードへ書き込み始めた。
「役場には猪又警視率いる本署捜査員のチームが踏み込む。これは警視自らが志願されたものだ。研究センターには県警本部捜査班、処理施設は同捜査班に沼田署の応援を含めた合同チームが着手する。加え、役場は県機第3小隊、研究センターと処理施設に管区機動隊より1個小隊ずつが支援に就く。また不測の事態に備え、研究センターの管機小隊には銃対も随伴する予定だ。作戦開始の1時間前より同3か所の至近は我々の移動をスムーズに行うための交通規制が敷かれる。これは協力に応じてくれた陸自部隊の移動も迅速に行うための処置だ。全てが上手くいけば、全チームは本署に集合し被疑者の取り調べに入る。既に各令状も作成済みで用意は整っている。もう少しだが、気を抜かずにいて貰いたい」
県機第1及び第2小隊は依然、感染の疑いがある者として扱われていた。今もなお不自由な生活を強いられている。
山の向こう側で検問を実施しつつ、制圧作戦に参加した県機第3小隊はその可能性が低いとされ、現在で唯一の表立った実働部隊を任されていた。
銃器対策部隊も十分な休養とワクチンの接種を受け、他の事件に備えながらこの時を待っていた。もし研究センター内に実験用の犬が密かに隠され、これを使用した抵抗が見られた場合は彼らが前面に出て制圧する作戦だ。
そして強制捜査の前夜。予め用意しておいた1匹の警察犬が覆面車両に乗せられ、ハンドラーと共に内偵第4班の元へ向かった。警察犬は現地到着後に全身を土や泥で汚されて不服な顔をしていたが、ハンドラーが宥め続けて何とか落ち着かせていた。
夜が明け、時刻は11時を目前にしている。既に近辺は交通規制が敷かれ、覆面車両と渋川署及び沼田署のPCが一般車両の流入を制限。作戦はいよいよ始まろうとしていた。
「よし、ほら行け」
施設を囲う塀の壊れた部分から、警察犬が中に入り込んだ。それを見届けたハンドラーと捜査員は急いで上まで戻る。
「準備完了」
「了解。頼むぞ」
「はい」
双眼鏡を構えたハンドラーが犬笛を吹く。すると警察犬は敷地の中を走り回り始めた。それを見つけた1人の作業員が慌てふためいて建物の中に戻って行く。数分後、役場の警備本部から連絡が入った。
『施設から通報があった。手筈通り、陸自が向かうぞ』
「分かった。これより作戦を開始する」
まず巡回中の13連隊第2中隊から2個班が急行。既に澤邉一尉からの命令は下達されており、全員が裏を知った上での行動をしていた。
役場チームは至近まで移動済み。研究センターの方は建物から見えにくい場所で待機している。処理施設に踏み込む合同チームも近くまで来ていた。失敗は許されない。
「来ました」
カメラを覗く捜査員が坂を上って来る高機動車2両を捉えた。正面入り口に到着した高機動車からは完全武装の陸自隊員が続々と降車し、突入の準備を始めている。班長2人の大声がここまで聞こえて来た。
「3班は作業員の安全を確保し直ちに敷地外へ避難させる! 発砲の際は周囲の確認を忘れるな!」
「4班、通報によれば野犬は1匹だが油断するな! 行くぞ!」
陸自2個班は正面入り口より突入を開始。第3班が怯える作業員たちを纏めて外に移動させ、4班は小銃を構えながら奥へ踏み込んで行く。傍受していた無線によれば、既に全作業員が集まっていたので残っている人間は居ないとの事だった。やり取りを確認したハンドラーがまた犬笛を吹くと、警察犬はその場に伏せて動かなくなった。
「こちら内偵4班。今です」
それを皮切りに各捜査チームは一斉に行動を開始。施設の前へ次々に車両を横付けしていった。
白いワンボックスから降り立った制服姿の猪又が、役場の中に入って行った。目の前を通り掛かった助役の高井がそれに気付いて近寄って来る。
「お久しぶりです。どうかされましたか」
猪又は黙ったまま懐から紙を取り出す。幾分、悲しみの混じった表情で高井に向けて喋り出した。
「牧田町長に重過失致死傷罪及び、横領の嫌疑が掛けられています。只今より本施設に対する家宅捜索を実施しますので、職員の皆さんは席に戻って私どもの指示をお待ち下さい」
高井は何が起きようとしているのか全く理解していない表情だった。倒れられても困ると思ったのか、猪又は高井を近くのソファーに座らせて落ち着くよう話し掛けている。
そんな光景を他所に、段ボールを抱えた大勢の捜査員たちが役場の中に踏み込み始めた。1階ロビーと受付に居た職員たちへ動かないよう指示し、不要不急以外の業務は手を止めるよう触れて回る。同時に町長室のある2階へも捜査員が駆け上がった。
「警視! 居ました!」
2階に上がった捜査員から呼ばれた猪又は立ち上がり、階段に視線を向けた。周囲を私服刑事に取り囲まれた牧田がゆっくりと降りて来る。
「……連れて行け」
猪又と牧田は一瞬だけ視線を交えた。牧田の顔は既に諦めの色が見えている。高井を始めとする職員たちは未だ何が起きているのか理解出来ず、牧田が外へ連れ出されて行くのを見ているだけだった。
同時刻、研究センターにも捜査チームが踏み込んでいた。表からは私服刑事。裏にある業務用の通用口からは管機小隊が突入し、笹川の身柄確保に成功。顔色を悪くした幹部たちも諸共に護送車両へと押し込まれて行く。幸いにも抵抗は無く、随伴する銃対隊員たちがMP5の安全装置を解除する事はなかった。
処理施設へもまた捜査陣が立ち入り、目を丸くする作業員たちを他所に家宅捜索が始まっている。通報で駆け付けた陸自2個班はあくまで居合わせた事を演出するため、わざとらしいやり取りをしてから帰って行った。
更に別班が前町長こと大沼の家にも取り付き、重要参考人として同行を求めた。だがこれは殆ど逮捕同然であり、家族の目の前で両腕を捜査員によって押さえられたまま覆面車に乗せられ、静かに走り去った。周囲の家々に気取られる前にと言う一応の配慮が成された結果である。
こうして3人は渋川署に移送された後、暫く署内の留置場で過ごす事となった。
役場と研究センターの職員たちは3人との接触を避けるため、沼田署での事情聴取を受けた。ある程度の予想はされていた事だったが、殆どの人間は何も知らなかった。しかし役場助役の1人である樋口は、何となくでも両者が裏で繋がっていた事に気が付いていたらしい。
「岸菜町はそもそも、交通の便が良い場所ではありませんし、感染症や医療との接点も存在しません。そんな所に、しかも大沼前町長が個人で持っている土地に、何の脈略もなくあんな研究施設が誘致された時点で、何かおかしいとは思っていました。ですが助役の自分が口出ししてどうなるものでもありませんし、地域活性化を謳う前町長の言う事にもある程度は同調出来る部分もありましたので、特に追及をするような事はしませんでした。ただ、当時はよく笹川さんも役場に来ていましたから、2人で内密な話しをしていた事も確かだと思います」
彼は大沼が町長をしていた頃から助役を務めていたのもあり、牧田に町長の職が引き継がれてからも犬捨て峠に対する姿勢が大きく変わらなかった事に疑問を抱いていたそうだ。
打って変わってもう1人の助役こと高井は終始驚くばかりで牧田を弁護するような証言も見られたが、目の前に増えていく数々の証拠やアバスとの会話を記録した音声データを聴いた事で意気消沈していった。
高井はそもそも市役所から任期付きで出向して来た人間で、市内で歴史が最も浅いこの町の実情を中央に持ち帰り、市政に反映していく役割を帯びていた。特に犬捨て峠の件は市議会でも問題になっていたので、猟友会との調整や捕獲作業の企画立案も積極的に行い、小松氏とは個人的な付き合いもあったそうだ。この年にして初めての事ばかりに遭遇した高井に牧田は常に手を差し伸べ、器の大きさを感じていたと証言した。
「…………私は騙され続けていたんでしょうか」
取調室で高井は下を向いたまま、目の前に座る刑事に問い掛けるかのように、力なく1人でそう零した。その場に居る誰も、高井の言葉に答える事は出来なかった。
他の役場職員。特に、家族を亡くした者たちの怒りと憎しみは、正しく噴火のごとくだった。中には激昂のあまり刑事たちを押しのけ、渋川署まで行って牧田たちを殺してやると叫んだ者まで居た。
署内に怒号が響く度に、隣の部屋で事情聴取を受けていた研究センターの職員たちは身の縮む思いをしていた。事実を知らなかったとは言え、自分たちが所属している組織が事件の引き金となった事が、彼らの身へ必然的に重く圧し掛かった。
逮捕された現町長の牧田。前町長こと大沼。そして研究センター長の笹川。この3人は渋川署で行われた取り調べに対し、少しずつ自供を始めていた。部下の職員や家族の前で連行された事や、これまでに集められた証拠を前に言い逃れが出来ない事を悟ったらしく、裏側に隠されていた真実を話し始めた。
全ての発端は大沼と笹川が前橋市内の居酒屋で知り合って研究施設を誘致した事ではなく、その後に酒の席で互いの現状を吐露しあったのが引き金だった。当時の大沼は周辺地区の開発と廃棄物処理施設の設置によって生じた人工の谷に犬猫が遺棄されて野生化し、その対応や猟友会とのやり取りにストレスを感じていたそうだ。笹川は笹川で施設の運営費をギャンブルへ密かに費やしてしまい、早々に資金の工面に悩んでいた。
研究をしようにも被検体となる動物の入手先に困り、保健所が示す取引額すら出来れば払いたくないと言うのが現状だった。そこで大沼は「野犬を使えば安く済むのではないか」と提案。笹川もそれに食い付き、捕獲した野犬を研究センターにサンプルとして提供して貰う事を約束した。
これによって入手した野犬や野猫を使用した研究で牧田は数回に及ぶ賞を授与。金回りも良くなり、大沼へある程度の報酬も支払うようになったそうだ。
猟友会の小松氏曰く、ある時を境に捕獲の主導を役所がするようになり、勝手に駆除や捕獲を行う事を戒めるようになったと証言。これが笹川へ野犬を提供する事が始まった時期に一致した。当時の職員数名の証言によれば「捕獲を外部の業者へ委託する事になった」と大沼本人の口より聴いていた事も分かった。
だがこれは、役場の人間に気取られる事を恐れた大沼の作戦だった。
第3者を介入させつつ、この企みを誰にも知られてはいけない必要に迫られた大沼は、色々と事情を抱え込んだフリーターや短期労働者を斡旋する事を決意。彼らの内の何名かは、現在も処理施設で最終処分作業員としてまだ働いていた。
しかし、何の経験もない素人に野犬の捕獲が上手くいく筈もなく、その多くは失敗に終わった。外部へ委託した割には状況が変わらない事に痺れを切らした猟友会は何度か猟銃を使用した駆除を行う度に怒鳴り散らされ、役場との関係は冷え込んで行った。逆にこれを好機と見た大沼は、外国人労働者のグループに接触した。
賃金はそこまで高くないが普通の仕事に比べて内容は単純なため、彼らにとって魅力的なアルバイトとなった捕獲機の設置作業は主に早朝や夕方に行われた。その内、人伝にこれを聞きつけたのがアバスであった。趣味でクレー射撃をしていた事が狩猟にも発展し、そのためのライフルを自由に撃ちたかった彼にとって犬捨て峠は絶好の場所だった。また撃ち殺して減った分や捕獲した分は既に述べた通り、大沼からの報酬によって得た金で同行者に小遣いを渡しつつ犬や猫を補充する費用に充てていた事が判明している。
最終的に大沼が町長を退いた後もこの関係は継続され、牧田は大沼よりこの件を密かに申し送りされてからも同じく事実を隠し続けた。
牧田が上岸地区の様々なペットや地域猫に狂犬病を含むその他の感染症ワクチン接種を義務付けたのは、1度だけ見に行った処理施設の現状からウイルス漏洩を警戒しての事だったと自供。だがその警戒心も、犬捨て峠から伝播する事までは予想出来なかったようだ。
そして研究センターの幹部たちを取り調べた結果、新たな真実も分かった。本来であれば実験後の動物は施設内のガス室で殺処分されるべきだったが、笹川はこれに使用するガスを致死性が低くて安い物にすり替えるよう指示し、動物を殺すのではなく昏睡させる方に目的を変えていた。これの収容作業を処理施設の最終処分作業員に行わせ、情報の漏洩も防いでいたのだ。
冷凍室は搬出までの待機期間、動物を覚醒させないために使用していたそうだ。だが研究センターの設立当初は本当に致死性のあるガスで殺処分した後、冷凍室を本来の目的である保全管理のために使用していた事も判明した。
処理施設も最初は正しい役目を果たしていたそうだが、大沼と笹川の企みが始まってからは少しずつ変わっていったらしい。特に常駐作業員と最終処分を担当する作業員は同じ敷地内に居ても待機場所が分けられ、互いに言葉を交わす事も禁じられていた事が分かった。施設稼働と同時に働き始めた最終処分を行うべき正しい資格を持った作業員たちは、この企みが行われる直前に「運営が芳しくなく、この先の給与を払えない可能性がある。今なら相応の退職金を出すから、別の施設へ紹介するがどうだ」と言われ、笹川の意のままに施設から立ち去って行ったそうだ。
こうして事件は重苦しい空気を纏ったまま、一応の着地点を目指してゆっくりと降下しつつあった。
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