制圧

 岸菜町は、上岸地区と菜ノ川地区に1つずつの郵便局が存在した。それまでの上岸地区はその特性上、四方を森に囲まれているため銀行での現金引き落とし等が麓の菜ノ川地区でないとおこなう事が出来なかった。また荷物配送の利便性を向上させる意味でも郵便局の設置は住民たちの悲願と言えた。

 初代町長こと沓沢は、上岸地区に住み始めて1年になる住民たちから寄せられたこの要望を受け入れ、郵便局設置のため奔走した。最終的には簡易郵便局としての設置が決定。その運用は住民たちによって行われる事となる。

 これによって地域雇用も活性化され、この郵便局は上岸地区の顔として外の道路から通ずる出入り口に建てられたと言う経緯があった。

 そして今、その郵便局の周りは、2両の96式装輪装甲車と、82式指揮通信車1両が取り囲んでいた。上岸地区を取り戻すために踏み込んだ13連隊第1中隊の指揮所がここに設けられているのだ。


岸菜町 上岸郵便局

中隊指揮所

 出入り口の部分にこびり付いた血はある程度掃除されたものの、その存在感を未だに誇示している。だが指揮所内の彼らには、気にしている暇も無かった。やるべき事は山積みなのだ。

「第1小隊、住民1名を救護しました。野犬は1頭を排除なるも、もう1頭は逃走」

「第4小隊から入電。住民3名を保護。意識は明瞭なるも内1名に咬傷あり」

 その言葉で、郵便局に設置された指揮所の空気が沈み込んだ。鵜沢一尉は無線機を持ち上げ、第4小隊への指示を出す。

「4小隊は現在地を固守、こちらから向かわせるLAVにその1名を乗せてくれ。それが済み次第に作戦行動を再開。咬傷のある住民は後方で控えている救急車に乗せ換えて直ちに病院へ搬送する。以上だ」

 1両の軽装甲機動車がその命令で出発した。噛まれた住民と無事な住民を一緒にしておけば、何かしら諍いの火種が生まれかねない。それに第4小隊の96式はまだ人を乗せられるので、ここで引き返させると効率が悪くなってしまうのだった。

「3小隊2班。民家内部で要救助者保護中、野犬に包囲され脱出が困難になっているとの入電。野犬の正確な数は不明です」

「余計な戦力を割ける状況じゃないんだがな……警察に支援を頼もう」

 鵜沢一尉はその旨を対策本部に上申。銃器対策部隊から2個分隊を支援に回して貰った。分隊長たちに状況を説明し、家を包囲している野犬の排除を要請する。

「では宜しくお願いします」

「承知しました、お任せ下さい」

「直ちに向かいます」

 2両の特型警備車が件の民家に向けて走り始める。郵便局から200mばかりを走った所で、平屋の周りを3頭の野犬がウロウロしているのが確認出来た。周辺に陸自の車両は見受けられないため、小隊から離れて行動していたらしい事が窺える。

「こちら長野県機、銃対01、どなたか聴こえますか」

 家の中に居る自衛隊員に無線で呼びかける。ここには4人家族の一世帯が取り残されており、これに対して保護を行った自衛官は2名と少なかった。

『3小隊2班、来援に感謝します』

「直ちに野犬を排除します。少しお待ち下さい」

 銃対2個分隊は車両のサイレンを鳴らして野犬の注意を自分たちに引き付けた。同時に降車して野犬を半包囲し一気に制圧を試みたが、件の家へ流れ弾が飛び込む事を考慮した結果、特型警備車の屋根から射撃を実施する事で落ち着いた。

 それぞれ2名の隊員がルーフハッチから屋根に出て、3頭の野犬を視界に収めた。膝撃ちの姿勢になり、MP5のセレクターをフルオートに送り込む。こちらへ走って来る野犬が低倍率スコープの中に捉えられた。

「撃て!」

 分隊長の号令によって4丁のMP5から放たれた銃弾は、野犬の体を斜め上から次々に貫いた。無数の9mm弾が野犬に食らい付きその場に捻じ伏せていく。

「射撃止め。周囲に警戒しつつ撤退を援護する」

 1個分隊は民家周囲の安全確保。もう1個部隊は民家の玄関から雪崩れ込み、内部で足止めを食っている陸自隊員と民間人を発見しこれの撤退を援護した。玄関に特型警備車を横付けしてまず民間人を乗せ始める。

「野犬を視認、数は1頭!」

「排除しろ、近付けさせるな」

 銃対1個分隊が隊列を組み、ノロノロと現れた野犬を一斉射撃で射殺した。全身に9mm弾を浴びた野犬はその場に崩れ落ち、アスファルトに血を広げながら痙攣を繰り返している。

 そして、家の中に居た民間人と陸自隊員の収容が終わる頃には、ピクリとも動かなくなっていた。

「収容完了」

「総員乗車しろ、直ちに撤収する」

「総員乗車、急げ!」

 民間人を乗せた特型警備車は町の外へ通ずる道へ向けて走って行った。もう1両は陸自隊員2名を届けるべく、第3小隊の指揮所に向けて走り出した。

 

岸菜町役場 現地対策本部

 上岸地区での制圧作戦が進む中、役場に設置された現地対策本部には陸上総隊直轄の中央特殊武器防護隊と対特殊武器衛生隊の隊員たちが臨席していた。また第12旅団から第12化学防護隊の本隊、第1師団より第1特殊武器防護隊も到着している。東部方面衛生隊も上白井運動場に設けられた防疫拠点で野外手術システムを展開させ、負傷者の収容に備えていた。

 これ等に加え、各種支援のため警視庁及び神奈川県警警備部のNBCテロ対応専門部隊。東京消防庁から選抜された化学機動中隊も現着し、野犬制圧後の死骸撤去作業をスムーズに行うための万全な体制が構築されつつあった。

「現状ですが、上岸地区全体の半分までを掌握するに至りました。救出された無事な生存者は21名。重軽傷者は19名に増え、その内で咬傷が無い者は8名、残念ながら咬傷を認む者9名、残り2名は出血多量及び意識の混濁があり、上白井運動場の防疫拠点にて応急処置を行い、陰圧ストレッチャーに載せた状態でドクターヘリによって渋川医療センターへ搬送を行いました」

 調整役の宮武警視が新たに到着した各隊指揮官や、事態発生当初からこの場に居続ける者たちへ状況の説明をしている。その最中、県庁危機管理室が用意したテレビ会議用モニターの1つに、席を外していた渋川医療センターの感染症医師こと赤平弘至が再び映り込んだ。

 赤平の顔は、非常に神妙な面持ちだった。「お待たせをしました」と発してから数分が経過するも、手に持っている資料を捲るだけで中々次の言葉を口にしようとしない。

『……上岸地区において食堂を営んでおられた佐々木芳明さん、雑貨店を経営されていた内田うちだキヨコさん。この両名の死亡が、先ほど午後2時50分に確認されました。どちらも、血液を大量に失った事による失血死になります』

 その報告がされた次の瞬間、役場側の席に座っていた中年男性が椅子から崩れ落ちた。立ち上がった職員達が群がる所へ、宇野の後ろで控えていた救急隊員2名が、村岡町民課長が倒れた時と同じように駆け寄っていく。

「内田さん!」

「しっかりしろ内田!」

 彼は岸菜町役場の総務課長であり、次期助役と噂されていた男だ。80を過ぎた老齢の母。妻と子供が2人の5人家族で、母以外の3人は幸いにも渋川市内へ出掛けていて無事なのは確認済みだった。

 最後まで安否が分からなかった母の死が報告された事で、内田総務課長の意識は絶望によって埋め尽くされたのだろう。自力で起き上がる気配が全く感じられない。

 役場側の人間で倒れた者は、これで通算4人目だった。最初は妻と息子を失った村岡町民課長。その次は保健福祉課の若手。各医療機関や医師会と連絡を取り合い、上岸地区の住民たちへ無償投与する各種ワクチンの準備をしている最中に突然倒れて救急搬送されている。3人目は会計課の中堅職員で、対策本部の設置に伴う経費の計上や膨大な買出し等の清算中、右手の震えと頭痛を訴え横になるも、そのまま動けなくなり同じく救急車で搬送された。

 担架に乗せられて会議室を後にする内田課長を尻目に、この場は進行していく。夜を徹しての慣れない作業、出入りする人間の多さ、家族の安否、蓄積される疲労。それら全てがここに来て、職員たちの体に様々な異常を引き起こしていた。

「続きになります。野犬は上岸地区に押し入った総数23匹の内、15匹の排除が完了しました。残りは次第に奥の方へ押し込められつつあり、完全な制圧は時間の問題と言えるでしょう」

 作戦開始から既に3時間弱が経過していた。全体の進行具合としては遅めだが、制圧に当たる隊員たちの安全を考えれば止むを得ない事だった。しかし、この作戦の性質上としてあまり多くの人員を投入する事は憚られるため、時間をかけ過ぎる事もまた避けねばならない。

「部隊の進行を一旦止めて、補給と休憩の時間を設けようと思います。警察の方々も同様にお願いします。午後4時半頃、再び行動開始としましょう」

 13連隊長の木内一佐がそう発言した事で、上岸地区への物資輸送が始まった。制圧部隊は全て郵便局の至近まで後退し警戒と休息を順番にこなしていく。木内連隊長の発言通り全部隊は午後4時半頃、再び行動を開始した。

 前衛となる13連1中隊は96式装輪装甲車に分乗し制圧の終わった場所を通り抜けながら、まだ手付かずのエリアへと進んで行った。追従する長野、栃木両県警の銃器対策部隊と群馬県機第3小隊は、特型警備車を引き連れて一旦は捜索の終わった民家を再び調べて周り、取り残されている住民や部隊が休息を取っていた間に進出した野犬が居ないかの確認作業を始めていた。

 また、ヘリからの報告で残った野犬たちが初代町長こと沓沢邸跡地に建てられた木材製作所に集結している事が判明。正確な数は不明だが、生き残っている野犬の殆どがそこに居るらしい事が分かっている。


13連1中隊第1小隊長 長谷村はせむら三尉

 作戦開始から4時間と少しが経過。動き難いEODスーツのせいで転んだり躓いたりする等で軽く負傷した者は居るが、幸いにも野犬に襲われて咬傷を負った隊員は居なかった。

「各班、現状に進捗あれば報告せよ」

 野犬排除の報告はなかったが、新たな生存者を数名救出したとの報せはあった。これで上岸地区に住んでいる住民で無事な者の8割近くを保護した事になる。ここまでは取りあえず、順調と言えるだろう。

 ヘリからの偵察結果も本部を介して舞い込んではいるが、残りの野犬全てが本当に木材製作所に集まっているかは虱潰しに家々を調べないと確証が持てなかった。後続の警察部隊からも、一旦捜索の終わった場所に取りこぼしがないとの報告が次々に上がって来ている。どうやらヘリの報告に間違いはないようだが、まだ捜索の終わっていない所もあるため、一気に行動を起こせる状況ではない。

『2小隊長岡崎おかざきより1小隊、感明送れ』

「こちら1小隊長、長谷村、感度は良好」

『了解。そちらの方へかなり大型の野犬1頭が逃走した。十分に警戒されたい』

 その報告で長谷村は各班に警戒を促した。念のため速やかに車両への乗車も命じる。広いとは言えない96式の車内に、EODスーツを着たままで乗っているのは思ったより辛かった。体の力を抜き過ぎれば立てなくなるし、かと言って前屈みになっていると倒れそうになる。腰への負担も大きい。

 10分ばかりが経過する。エンジン音で正確には分からないが、犬の鳴き声のようなものは聞き取れない。長谷村は車体前方に陣取る運転手と車長へ訊ねた。

「外はどうだ」

 この作戦への参加に当たり、集められた96式装輪装甲車は全てが風防付きにされていた。お陰で身を乗り出さずに外の様子を窺う事が出来る。

 運転手と車長からは、第1小隊から連絡のあった野犬を確認出来ないと返答があった。近くに居る各車にも状況を確認するが、同じく犬の姿を捉えられていない事が分かった。

「よし、各車前進再開。未探索の場所を探りつつ木材製作所を目指すぞ」

 1班が乗る96式を先頭に、小隊は前進を再開した。最も、ここまでくれば救出は殆ど済んだようなものである。既に上岸地区に住む総勢81名の内、取り残されていた40数名の半数以上を助け出す事に成功していた。負傷者と死者、上岸地区の外に居た住民を除けば、残りの数はそう多くない事になる。

 しかし、この時点で午後5時を過ぎようとしていた。陽はまだ出ているが、あと1時間もすれば暗くなり始める。そうなると、木材製作所に集まった残りの野犬を掃討するのが困難になる恐れがあった。

「もう夕方になるな。一軒一軒回っていると時間が無くなる。上のヘリは何が来ているか分かるか」

「確か12ヘリのロクマルだったかと」

「なら赤外線暗視装置がある筈だ。それで検索の終わっていない家をセンサーで走査して貰って、反応のある所だけを回った方が手っ取り早いだろう」

 中隊本部へそれを提案したが、ヘリが高度をある程度落とさないと確実なデータを得る事が出来ず、またヘリのローター音に驚いた野犬が木材製作所から散り散りになる可能性を考慮に入れると、容易に実行は出来ないとの返答があった。木材製作所の出入り口は1つだけだが、まだ包囲出来ていない現状としてはそこに野犬が居続けてくれた方がこちらには有難いのだ。

 ヘリも1機しか来ていないため、地上部隊への支援と指示を同時に行うのはパイロットの負担が大きい事も要因の1つだった。

 また、町役場の対策本部では現在の時刻から野犬制圧に必要な時間を逆算した結果、明日に持ち越した方が現実的であるとの判断を下していた。このため、今日は取り残されている全住民の救出と、住宅の再検索が主目標に変更されていた。時間があれば木材製作所の包囲まで行い、踏み込むのは陽が昇ってからになる事が各小隊長と班長たちへ下達される。

 これは同時に、あわよくば野犬たちが夜の間に末期症状に陥って死亡する事も期待されていた。そうなれば、1発も撃たずにこの場を収める事も出来る。何れにせよ、現状において最もミソとなる段階は、明日へ持ち越しとなった。


 陽はすっかり落ち、全住民の救出も終了。再検索に少し時間が掛かっているが、それも残り数軒で終了の見込みだ。

 検索の終わった全ての民家には煌々と電気が灯り、万一にでも野犬が近付かないよう配慮が成されている。それと打って変わって、木材製作所だけは暗闇が支配していた。送電線も切り落とされ、どうあっても灯りが点かないようになっている。

「報告します、全民家の再検索が終了しました」

 第1中隊は木材製作所を完全に包囲。郵便局にあった中隊指揮所もそれに合わせて進出し、今は木材製作所の至近にある単身者用アパートの駐車場に設置されていた。

 そこに陣取る鵜沢一尉以下の本部班に対し、群馬県機第3小隊長の中村警部が再検索の終了を報告している。

「ありがとうございます。本日の作戦行動はここまでとなりますので、休息を取られて下さい」

「承知しました。県機第3小隊は現時刻を持って行動を終了、これにて下がらせて頂きます」

 中村警部と副小隊長は本部班の自衛隊員たちに敬礼し、自身の部隊を引き連れて人員輸送車に乗り込み、上岸地区を引き払った。栃木長野両県警の銃器対策部隊は上岸地区の出入り口まで後退。警戒態勢を強化している。

「各自、交替しながら休んでくれ。各小隊も同様だ。明朝06:00に作戦行動を再開する」

 鵜沢一尉はそう指示しながらパイプ椅子に腰掛けた。そこへバインダーに挟まる書類を抱えた、1人の隊員が近付く。

「中隊長、各部隊から掻き集めたEODスーツの第2陣が23時頃に現着予定です。今着ている方のスーツ保管場所はどうされましょう」

「今からでも2個小隊ずつ交互にスーツを脱がせよう。やるなら今しかない。光源があちこちにある以上、野犬はあそこから動けないからな。乗せて来たトラックを待機させて、順次積み替えるよう指示してくれ」

「了解しました」

 これによって、各小隊は野犬の様子を窺いながらスーツを脱ぎ始めた。既に10時間近くを動き難い状態で過ごしていた事もあって、その開放感は言葉にならないものがあった。

 ただ、スーツを着たままでは流石に休めないとの意見もあり、早朝までは交替で見張りながらそのままで休息を取る許可が出た。多くの隊員たちは心地良い夜風を感じながら、月を仰いで昼間の血生臭い出来事を幾らかでも軽減させようとしている。


 早朝4時。空が白み始めた頃、現場は動き出していた。

 隊員たちは新しく支給されたEODスーツを身に纏い、配膳された軽食を流し込んで待機状態に入った。携行火器のチェックも終わり、家の塀や96式の車体に背を持たれてその時を待っている。

 念のために東部方面衛生隊の1トン半救急車も中隊指揮所まで進出。医官のチームも指揮所周辺に展開し、隊員が負傷した場合に備えていた。 

「5時になりました」

「各小隊は木材製作所の手前5mまで前進、次の指示を待て」

 鵜沢の命令によって4個小隊は包囲の幅を狭め始めた。木材製作所は半径100mと犬にとってはかなり広く、隠れられる場所も多い。幸いにも敷地はトタンの壁で覆われているので、追い詰めれば追い詰めるほど野犬の逃げ場は無くなるだろう。

 事前の確認と偵察により、木材製作所に残っているのは最後の8頭である事が分かっている。これを制圧すれば、上岸地区を完全に取り戻す事が出来る筈だ。

 午前5時50分。中隊は木材製作所の包囲を終え、敷地内に踏み込む準備を進めていた。まず2両のLAVが正面入り口から突入し左右へ分散して配置に就く。96式装輪装甲車2両もそれに続いて敷地内へ入り、EODスーツを着た隊員たちを降車させればいよいよ最後の掃討作戦が開始される事となる。ここに及んで、野犬による負傷者を誰1人として出していない事が隊員たちのプレッシャーになり始めていた。

「1分前です…………30秒前」

 時計の読み上げが始まった。LAVの銃座に収まる隊員たちが、ミニミの安全装置を解除する。96式の車内でもまた、折曲銃床の89式へ初弾を装填する音がエンジン音に掻き消されながらも小さく響いていた。

「10秒前…………5秒前、4・3・2・1」

「突入」

 中途半端に開いた木材製作所の出入り口へ、2両のLAVが雪崩れ込んだ。鉄格子の扉が勢い良く叩き開かれた音で野犬たちが慌てふためく。そこへ間髪入れずに今度は96式が後部ハッチを開けながら突っ込み、速度を落としつつ隊員たちを降車させた。

 負けじと襲い掛かって来る野犬3頭をミニミが十字砲火で射殺していく。4頭が逃走を始めたが、既に症状が末期になり出しているらしく、思うように動けていなかった。残りの1頭は起き上がる事も出来なくなっているようで、地面に伏せたまま口から泡を吹いて痙攣を繰り返していた。放っておいてもその内に息絶えるだろう。

「相互に支援しつつ前進。短期決戦で行くぞ」

 こうして木材製作所には計3個小隊が踏み込んだ。残りの1個小隊は後詰と周辺警戒のため、1個班ずつで等間隔に展開している。衛生隊もその近くまで足を進め、事の成り行きを見守っていた。

 戦端が開かれて2時間後。敷地内に保管されていた木材や機材の隙間を縫って逃げ続けていた最後の野犬が射殺された事で、上岸地区を襲った全ての野犬排除が完了。中央特殊武器防護隊と対特殊武器衛生隊も上岸地区に進出し、射殺された野犬の死骸を回収しながら飛び散った肉片を慎重に採取する作業が始められた。

 制圧の終わった同時刻。今度は13連隊第2中隊が現地入りし、野犬たちが襲ったであろう野生動物の捕獲ないし駆除。無事な野生動物の保護作戦が開始された。これには13連隊2中隊が主戦力となって当たり、場合によっては管区機動隊の応援も含めて長期間に渡り実施される事となった。

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