第2話

虚無の中

絵を改めて眺めると一つ確信することが出来た。

この絵は今まで描いた

何よりも誰よりも

美しいと…自分を褒めた。


あの夢か幻か消えてしまった塊は残念だが、時計にせかされて今日の予定へと自分の足と心を動かした。


30分後の10時

知っている形がたくさんあるこの部屋で授業が始まる

私は絵を描きたいだけなのに、まるで意味のない義務のような何かが始まった。

唯一この何かで私が興味を持ったのはシュールレアリズムの絵についての文字だった。

大体の生きている人間なら聞いたことある有名な画家の先人の絵についてのエピソードと作品が並べられているページは「おもしろい」と思った。


この講義は座学の中でも楽な方だ。

期末になんらかのテーマを出されてそれについてのレポートを出すだけの

簡単なルーティンしかないのだから。


この時間は興味をもった事以外は

昨日の「体」について考えていた。


夢だったかもしれない。

連日、私の瞼の重りが限界になるまで絵を描いて、休憩がてら入れた珈琲をのんでアトリエから見えるガラスの奥に広がるつまらない景色を眺めていて

明日な何かを見つけて走り出した私。


いつもの四角いガラスの中に見たことのない塊を見つけた私の興奮は計り知れない。

性的な絶頂にも似たあの快感、まるで餌に飛びかかる獣の如く、私のだらしない口は涎が滴っていたであろう。

目は新しい玩具を求める子供のように、体は長年求めた出口を見つけたように。

気がつけば「体」の前に私はいた。


この時は後悔などしていなかった。

このつまらない世界とは別の何かを見つけた。

私の人生の意味をかたどる者を手に入れて、私の脳みそがまるで満たされていく胃のように感じた。


いつもの味気ない、つまらない音が鳴り退屈な時間が区切りを教えてくれた。

あぁ、もう終わったのかと気づき

そのつまらない空間から出る。


頭の中は体のこと以外考えていなかった。恋と呼んでも過言ではない。

また夜になるとあの「体」にまた会えるという自信があった。

約束もしていないのに

何故か会えると信じて疑わなかった。

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