vivivi

@tentora25

第1話

全てが消えた。

終わった。

冷たい感触がまだ足元に残っている。

ああ、こんなことになるなら…

心の底から後悔した。


3日前

公園の中央に

まるで街灯のスポットライトを浴びているような塊がある。


一つの「体」を見つけた。

その「体」は体しかなかった。

暗く誰もいない公園の砂場に

無造作に存在した体は

まだ生きていた。

なぜ生きていると分かったかと言うと

心臓は動いていたのだ。

腰から上の冷たい体は女性だった。

頭も腕もない体は生きていた。

直感で関わってはいけないと思いつつも好奇心とあまりの美しさに私はそれを持ち帰ってしまった。


家の隣にあった公園から走った。

家まで走って5分。

世界は止まっていた。

誰も動いていない。

「体」を持ち上げたその時から

時間は止まっていた。

急いで玄関を開け散らかった部屋のソファにその体を置く。

時計を見ると午前2時になろうとしている

動かない世界で改めて体を見る

体だけなのだが艶かしい官能的な

その塊に気持ちは高揚していた。

ひんやりとしていた塊を改めて眺める。

傷はなく、青白い肌。

右の鎖骨に黒子がある。

胸はある方だなとわかる。

心臓の部分は皮膚が静かに脈を打っていた。

頭は無いのだが切断したような感じはなく

もともと無いのが普通の状態だとわかる。

赤子の肌のように綺麗な皮膚があるのだ。

それは腕や腰があるはずの箇所全て同様だった。

さらに厄介な事に塊はいい女独特の「匂い」があった。

それは散らかった私の狭いワンルームを埋め尽くし、私を惑わし誘うような甘い香りがした。

そのソファに置いてある塊の前の床に

体育座りで座り、

1時間くらい眺めた。

ふと思い出したように押し入れにしまってあった未使用のキャンパスを取り出す。

散らかった画材をかき集め私は塊を描き始める。

無心で絵を描くなんて久々だった。

何時間経ったかわからない。

会心の出来だった。

謎の高揚感と緊張感が思い出したかのように私を包み込み

私の意識は途切れた。


私の携帯がポケットで震えて

目が覚める。

体を起こすと昨日描いた絵があり

部屋の中には微かに匂いが残っていた。

油の匂いに混じって昨日の「いい女の香り」

夢では無かった事に喜びと共に

口惜しい現実がキャンパスの奥の何もないソファだった。

部屋を見回したがどこにも「体」はなかった。

あの夢のようで夢ではない体は

朝7時のアラームが鳴り響く

私の孤独で狭いアトリエから居なくなってしまった。




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