スキルのある世界で俺は

すめし

スキルのある世界で俺は

「スキルのある世界に行かせてくれ。チートスキルも欲しい」


 俺は事故で死んだ。神が言うには若くして死んだ者は転生先の希望をある程度聞いてくれるらしい。だったら最強を目指したいと思うのは普通だろう。


「スキルのある世界に転生するのは構わん。チートスキルを授ける代わりに、儂が渡そうと考えていた基本スキルを削ることになるが良いか。勧めはせんが」


「基本スキルなんていらねぇよ。どんな無敵のスキルと記憶を引き継げるスキルをくれよ。記憶がないと楽しめないかもしれないからな」


「まぁいいだろう。では2つの基本スキルと入れ替えよう。おまけに言語理解のスキルもつけよう。記憶が引き継ぐと言葉を理解するのは難しいだろうからな。では早速転移するぞ。スキルは転移先へ着いた瞬間に把握できるようになる」


 その瞬間、全身を浮遊感が駆け巡った。気がつけば赤子として生まれるところだった。産まれた直後は泣くんだよな。とりあえず精一杯泣いた。両親の幸せそうな顔が滲んで見えた。


------


 産まれてから3ヶ月が経過したが俺は一向に成長しない。赤ちゃんの成長って早いんじゃなかったっけ。両親も不安に思ったらしく検査のため病院へ向かった。


「先生、検査の結果は。うちの子は大丈夫でしょうか」


 母が泣きそうな声で医者に問い詰めている。


「結果から申し上げると基本スキルの成長、寿命がこの子にはありません」


「ど、どういうことでしょう」


「この子は成長もしませんし。寿命もありません。その代わり非常に強いスキルを持っているようで怪我や病気などにも耐性がありそうです。つまり死ぬことは難しいでしょう。初めて見るスキルなので恐らくとしか言えませんが」


「この子は成長もなく死ぬこともできないんですか」


「……その通りです」


 俺は成長もしないし、死ぬこともできない。この世界ではスキルが全てでスキルにないことはできない。呼吸もそうだし、消化、排泄、発生と何でもスキルが必要になる。基本スキルがそんなに大事だなんて聞いてない。知らなかったんだ。お願いします。チートスキルは返上しますから基本スキルを戻してください。


 何度祈っても神に届くことはなく、何度も自殺しようとした。移動もできず歯もない俺は息を止めて死ぬ以外に方法は思いつかなかった。ただチートスキルを持っているせいか、1時間息を止めても死ぬことはない。苦しいが死ねないそれだけだった。


------


 40年が経った。父は呪いの子を捨てようと母と口論をしていたが、最後には俺たちを置いていなくなった。母は呪いの子を育てていると周りから罵声を受け、嫌がらせを受けながらも一人で俺を育ててくれている。母はもう長くはないだろう。母が死ねば呪いの子と言われている俺を育てる人はいない。


「ごめんね。私の赤ちゃん。私はもう長くはないわ。でもあなたをおいては死ねないの。一緒に死ぬしか……」


 母は俺を何度も殺そうとした。剣で刺し、首を締め、風呂に埋め、絶飲食を続けた。それでも俺は死ねなかった。


「私にはあなたを成長させることも死なせることもできない。人として当たり前のスキルを与えてあげられない私は母親失格ね。本当にごめんなさい」


 母は最後の言葉を告げて、俺を抱きながら崖から海へ飛び降りた。俺が身の程をまきまえないスキルを願ったばっかりに母を苦しませてしまった。そして俺は永遠に海の底で彷徨うのだろう。産まれてから数ヶ月の平凡だが幸せな生活がただただ恋しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スキルのある世界で俺は すめし @sumeshi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ