②
「入って。」
「あ…と、ハイ。」
有無を言わさず連れて来られたのは、僕の自室…であり。
以前僕が、冗談で言った台詞をすっかり忘れているのか…セツは躊躇いなく扉を開け、中へと僕を
「ほら、こっち来て靴脱いでアシュ。」
「えっ、と…」
促すセツがぽんぽんと示した場所は、まさかのベッド…なんだけれど。
う~ん…これは、どう対処すれば良いのだろう?
「一体どうしたんだいセツ?今日はやけに積極的だけど…」
「え?何が?」
敢えて遠回しな冗談で切り出せは。
やはり天然なセツには全く理解されず。
可愛く首を傾げられる始末。
「いーから、早く寝て。」
更には追い討ちの爆弾発言投下。
いよいよセツの行動が読めなくなってしまう僕は。
とりあえず言われるがまま、ベッドへと横になった。
「よしよし。」
セツ的に目的を果たせたのか、満足そうな笑みが返ってきて。
しかし僕の中で、謎は深まる一方。
「その、話が全く見えないのだけど?」
さすがの僕もセツにはお手上げで。
観念した僕は、疑問をそのまま口に出してしまった。
「え?だってアシュ…」
対するセツは、またもじっと僕を見つめると。
さも当然とばかりに答える。
「体調、良くないでしょ。」
「えっ…」
ハッとする僕の手を取って。
セツは「ホラ熱いじゃんか。」と体温を計るみたく、自分の頬へと押し当てる。
瞬間、セツの肌は僕より遥かに冷たく…それは心地よかった筈なのだけど。
何故だがそこから熱が伝染したかのように。
僕の体温は、ぶわりと一気に跳ね上がった。
「どうして…」
隠していたというよりは。
体調不良とか自分の弱みを周りに見せない…という振る舞い方が、自然と身に付いているだけであって。
たかだか風邪如き、寝込むほどではないと、普段通りを貫いていただけなのだが…
「そんなの見てれば判るよ、なんとなく。」
けれどセツは、当たり前のように答える。
「だってアシュ、朝ご飯あんま食べなかっただろ?それに稽古中だって、いつもよかキツそうだったし?」
「っ……」
驚いた…まさかセツから、そんな台詞が出てくるだなんて。
ほんの些細な違いだった筈だ。
元より、僕は何を考えているか…食えない男だとよく言われるクチなのだし。
朝食の件にしたって、端から朝が小食だっただけのこと。
それがどうだろう、まだ出会って間もないセツに。
一瞬にして見破られてしまうとは…。
いや、寧ろそれよりも…
「アシュ?」
堪らず、熱くなる口元を押さえる。
僕とした事が…セツが告げた何気ないひと言に。
これほどまでも振り回されようとは。
(見てれば、判る…か…)
いつからか…この僕が、無意識に目で追いたくなった存在。
いや、そんな曖昧じゃないかな…きっと初めから。
そうなのだと、気付いてたのだろう。
綺麗なコなら沢山知っている。
だからセツが、特別秀でてそうだと言うわけじゃあ、ないのだけれど。
彼には、彼にしか持ち得ない特別な魅力を。
何処かで感じてはいたんだ。
まさか自分が、誰かをそんな風に追い掛ける側になるだなんてねぇ。ちょっとびっくりしたけれど。
かといってそれが、意外だとも思わなかった。
そうして、日々セツに目を向けてたわけだから。
嫌でも気付いてしまうのは必然。
まあ、セツも彼も分かり易いから当然だったろうけれど。
神子の目に留まるのは、いつだって彼だったことは…火を見るより明らかだった。
嫉妬なんて有り得ない、それが容易く覆される。
けれど、そんな弱さを晒け出す羞恥心よりも。
抱いた感情の方が、遥かにそれを…上回っていたんだろうね。
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