「入って。」


「あ…と、ハイ。」


有無を言わさず連れて来られたのは、自室…であり。


以前僕が、冗談で言った台詞をすっかり忘れているのか…セツは躊躇いなく扉を開け、中へと僕をいざなう。






「ほら、こっち来て靴脱いでアシュ。」


「えっ、と…」


促すセツがぽんぽんと示した場所は、まさかのベッド…なんだけれど。


う~ん…これは、どう対処すれば良いのだろう?






「一体どうしたんだいセツ?今日はやけに積極的だけど…」


「え?何が?」


敢えて遠回しな冗談で切り出せは。

やはり天然なセツには全く理解されず。


可愛く首を傾げられる始末。






「いーから、早く寝て。」


更には追い討ちの爆弾発言投下。


いよいよセツの行動が読めなくなってしまう僕は。

とりあえず言われるがまま、ベッドへと横になった。







「よしよし。」


セツ的に目的を果たせたのか、満足そうな笑みが返ってきて。


しかし僕の中で、謎は深まる一方。







「その、話が全く見えないのだけど?」


さすがの僕もセツにはお手上げで。

観念した僕は、疑問をそのまま口に出してしまった。








「え?だってアシュ…」


対するセツは、またもじっと僕を見つめると。

さも当然とばかりに答える。






「体調、良くないでしょ。」


「えっ…」



ハッとする僕の手を取って。

セツは「ホラ熱いじゃんか。」と体温を計るみたく、自分の頬へと押し当てる。




瞬間、セツの肌は僕より遥かに冷たく…それは心地よかった筈なのだけど。

何故だがそこから熱が伝染したかのように。

僕の体温は、ぶわりと一気に跳ね上がった。








「どうして…」


隠していたというよりは。

体調不良とか自分の弱みを周りに見せない…という振る舞い方が、自然と身に付いているだけであって。


たかだか風邪如き、寝込むほどではないと、普段通りを貫いていただけなのだが…






「そんなの見てれば判るよ、なんとなく。」


けれどセツは、当たり前のように答える。





「だってアシュ、朝ご飯あんま食べなかっただろ?それに稽古中だって、いつもよかキツそうだったし?」


「っ……」



驚いた…まさかセツから、そんな台詞が出てくるだなんて。


ほんの些細な違いだった筈だ。

元より、僕は何を考えているか…食えない男だとよく言われるクチなのだし。


朝食の件にしたって、端から朝が小食だっただけのこと。



それがどうだろう、まだ出会って間もないセツに。

一瞬にして見破られてしまうとは…。



いや、寧ろそれよりも…







「アシュ?」


堪らず、熱くなる口元を押さえる。

僕とした事が…セツが告げた何気ないひと言に。


これほどまでも振り回されようとは。







(見てれば、判る…か…)



いつからか…この僕が、無意識に目で追いたくなった存在。

いや、そんな曖昧じゃないかな…きっと初めから。

そうなのだと、気付いてたのだろう。





綺麗なコなら沢山知っている。

だからセツが、特別秀でてそうだと言うわけじゃあ、ないのだけれど。


彼には、彼にしか持ち得ない特別な魅力を。

何処かで感じてはいたんだ。




まさか自分が、誰かをそんな風に追い掛ける側になるだなんてねぇ。ちょっとびっくりしたけれど。

かといってそれが、意外だとも思わなかった。





そうして、日々セツに目を向けてたわけだから。

嫌でも気付いてしまうのは必然。


まあ、セツもも分かり易いから当然だったろうけれど。

神子の目に留まるのは、いつだって彼だったことは…火を見るより明らかだった。




嫉妬なんて有り得ない、それが容易く覆される。

けれど、そんな弱さを晒け出す羞恥心よりも。


抱いた感情の方が、遥かにそれを…上回っていたんだろうね。

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