月光の騎士の恋①






「アシュ、ちょっと。」



いつものように、その日も守護騎士4人で庭園に出て修行に励んでいた。



…と言っても励んでいるのは主にロロとジーナ、そして2人に稽古をつけるルーファス達であって。


僕は大体傍で見てて、ちょこちょこ助言したりするというのが、お約束なんだけれど。




まあ、そんなわけで。

柔らかな日差しの中、皆で鍛錬に汗を流していたら。


屋敷のテラス…ちょうど勉強部屋の辺りから。

とことことセツが、此方へとやって来た。







「どうしたんだいセツ?まだ勉強疲れするには早すぎるんじゃあないかな。」



神子として、僕らの世界に召喚されたセツ。

彼は全く別の世界からやって来たわけだから、此方の世界の事は全く把握していなくて。

今は教育係のヴィンセントの指導の元、基本的な文化や魔法学など…様々な知識を学んでいた。





期せずして、この世界に連れて来られたにも関わらず。多少のサボりやボヤキはあるものの…

セツは召喚された時からずっと、不満も愚痴も拒絶さえも見せずに。

こうして毎日当たり前のように、努力している。




僕だったら、いきなりそんなこと押し付けられてもハイそうですか、なんてまず納得出来ないだろうけど。


セツのそういう所は、尊敬に値するなあって素直に思えた。







「分かってるってば。別にサボりに来たわけじゃないし…」


セツは元々勉強も運動も苦手らしいから。

根詰まりするとすぐ気分転換に、僕らの稽古を覗きに来るのだけれど。



さすがに開始1時間、まだまだ休憩には早かったから…態とからかうと、唇を尖らせ拗ねてしまった。


ふふ、反応がいちいち可愛いなぁ。







「ならば何用ですかな神子殿?もしかして僕の事が恋しくなって、会いに来てしまった…とか?」


ちらりと、少し離れた場所で稽古に励むルーファス達の姿を盗み見たセツ。


セツの目的はきっと、なのだろうとは解っていたのだけれど。こういう性分な僕は、ついついからかうように笑ってしまう。


するとセツは僕を見上げると。

何も言わず、じっと観察するよう凝視してきた。







「ん?何か僕の顔に付いてるの?」


セツの不可思議な行動に、首を傾げるのだけれど。

彼は答えず、ただただじっと僕を見やる。


それはそれで嬉しい限りだったが…






「セツ?」


かと思いきや…今度は突然、手を掴んできて。

その手をぎゅっと握られる、から…。


どんな時でも流されることなく平静に。

そんな僕の信条を知ってか知らずか…まんまと食らわされた、セツの不意打ちに。


僕の内は珍しくも、乱されてしまった。







「やっぱり…」


僕の腕を掴んだまま、何かを確信したようセツはひとり呟いて。






「ちょ…セツ?」


予告もなく、その手を自身の方へと引き寄せる。





「いーから、来て。」


状況が読めない僕は、先行く彼に声を掛けるのだけれど。

セツは気にせず、スタスタと屋敷へと向かって歩き出した。





「セツ…」


去り際、後ろでルーファスが僕達に気付いたようだったが…





(これは後が怖いなぁ…)


やれやれと苦笑を浮かべながらも。

僕は知らないフリを決め込むことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る