第4話 コスプレイヤー モエ×ナエ

 三年前——


 コスプレイヤーのモエとナエ。

 二人の自己顕示欲じこけんじよくは異常に強い。承認欲求しょうにんよっきゅうが強く自己中心的。ありとあらゆる性格の悪さを寄せ集めたような存在。


 二人は常にSNSを見ている。

 タイムラインに頻繁に流れてきて目を惹く写真。

「こいつが撮った写真、めちゃ伸びてるよね」

「次、うちらが行くイベントに来るんだってよ」

「モエは既にチェック済みか。撮ってくれるかな」


 イベント当日——


「今ホールに居るっぽい。そろそろ来るんじゃね?」

 SNSで現在地を確認する。行動パターンは事前にリサーチ済み。地下、ホールと巡り芝生の広場に来る。


 衣装は奴が最近好んで撮影しているキャラのもの。この衣装で参加することは事前に告知済み。

 うちらのフォロワー数は多いから拡散された情報が目に入っているはず。撮らせて欲しかったら探すっしょ。


 準備は万端——


「写真撮らせてもらって良いですか?」

 キター!!

「はい、いいで」

 誰これ——


 障害物の後ろを通り過ぎるターゲット。

 絶対に逃してなるものか。モエに目配せをする。


 ターゲットに近寄るモエ。

 こいつとの面識は無い。自然を装える話題——

「すごいカメラですね」

「え、ああ。うん」

「どんな写真を撮られるんですか? 見てみたい」

「えーっと、こんな感じ」

「この作風……ナリユキさんですよね! 絶対そうだ。独創的なのですぐにわかりました」

「モエさんに認識していただけているなんて光栄です」

「私のことご存知なんですね。嬉しいです。この衣装どうですか? 細部までこだわって作ったんです」

「素敵です。僕もこのキャラ好きなんです」

 そんなことは知ってる。早く撮りたいと請えよ。


 ナエが小走りで近付いてきて撮影するよう促す。

「お待たせしてすいません。撮影待ちの方ですよね、撮影いいですよ」


 ナリユキは撮りたい人以外を撮らない。

 相手が誰であろうと断る。有名コスプレイヤーが何人も撮影拒否されたことが話題となった。


 多くのイベントに参加しているけれど、一度も声をかけられたことすらない。接点が無い理由はナリユキが私たちに無関心だからだ。

 私たちを知っているのに声を掛けず通り過ぎたのだから、今現在も私たちに欠けている何かがあるはず。


 衣装は作り込んだ。接し方に問題はない。媚びる態度は取っていない。それでも撮りたいと言われない。何が駄目なんだ——


 知らない振りして撮っていいと振ってみたけれど、断られたら終わり。


 撮ってもらえれば私たちの勝ち。ポージングしているにも関わらず放置して去られるのならば、私たちが何をしても撮影してもらえることはない。

 モエの腕を掴み引っ張る。

「待たせてるんだから、早くポーズとるよ」


 ナリユキはカメラを構える。

 私たちの勝ち——


 コスプレイヤーとしては一流。アニメのシーンを忠実に再現したポージングを繰り返す。

 撮りたいナリユキと、撮らせたい私たちの利害は一致している。撮影は順調に進む——


 時計を見るナリユキ。

「この後の予定は? 良かったら落ち着いた場所で撮影の続きしない?」

 芝生の広場が最終地点であることを知っていて、待機場所にここを選んだ。


 イベントでの撮影はきっかけ作り。

 個撮してもらうことが目的。伸びるのは個撮写真。

 当然、返事はひとつ——


 連れてこられた場所はラブホテル。

「そういうの無理。しらけたから帰るわ」

「あり得ないっしょ、さよなら」


 ナリユキはイベントで撮影した写真をSNSに掲載した。私たちとイベント会場を出たことを大勢が見ていたのに、個撮写真は一向に上がらない。


 噂が広まり始める。


〝ラブホに向かうのを見たよ〟

 この一文を見てすぐに発信する。

〝変態カメコナリユキにラブホに連れて行かれた。入る前になんとか逃げられたけど怖かった〟


 自分たちのマイナスにならないようにするために、有る事無い事を発信し火消しをする。悪いのはナリユキだから罪悪感は無い。


 瞬く間にナリユキは大炎上。

 数時間後、SNSのアカウントを削除——


 削除し逃げたことで、私たちの発信は全て真実であるとされ擁護された。ナリユキに関する発信をすると伸びる。拡散されて伸びると気持ち良い。


 どうせ奴はもう居ないんだ。だから何を書いても構わないっしょ——発信内容はどんどんエスカレートしていく。

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