第25話 涙
涙
ドカーン。
実が外に出ていったその少し後で、母(友美)はその音を聞いた。
慌てて外に飛び出す。。
だが、実の存在はそこにはない。
その爆音につられ、
「なんだ?」
「何があった?」
近所の人たちが飛び出してくる。
「今外に出ていった息子がいないのーー見ませんでした?」
母である友美の顔色は、青白くなっている。
これが顔面蒼白と呼ばれるものだろうか?
顔面蒼白。
その言葉は聞いた事があるが、どういう状態なのかは知らなかった。
きっとこう言う状態の事なんだろう、と実は勝手に理解した。
「実の事を知りませんか?」
飛び出してきた近所の人たちの胸ぐらをつかみ、今にも殴りかかりそうな勢いで、母は聞いて回っている。
主婦の一人が青ざめている。
「あなた、実の事を知ってるんじゃないの?」
名前も知らない。ほぼ付き合いのない他人に対し、勢いに任せて母は聞いている
主婦は指を指す。
「ーーあっ、あそこ」
どんどんと顔色が青白くなり、主婦は突然倒れる。。
「ーー起きなさいよ。実の事を知っているんでしょ?ーー話して。。起きて」
母が突然、ボロボロと泣き始める。
※別れ
ーー実ぅぅぅ。。早く帰ってきて。。
大泣きしていて声が震えている。
シャックリしながら、シクシクと泣いている。
ーー大人なのにまるで子供みたいだ。。
実はそう思った。
「君のお母さん、泣いてるよ?これって実くんの存在が必要なんだ、って事じゃないのかなぁ。。」
単に思った事を司は言った。
母の気持ちを試すこの実験だけは意味があったんじゃないだろうか?
子供からしたら、母にどれだけ愛されてるのか。。父にどれだけ想われているのか。。
それが一番大切だった。
それ以外の地震や津波や山火事。
これまでに国をあげて、繰り返された実験なんかよりも、この実験の方が有意義だ。
司はそう思った。
「ーーどうする?実くん。。」
「ーー僕、家に帰ってみるよ。。」
「また会えるよね?」
司は聞いた。
気がついたように、実は紙とペンを出して家の住所と名前を書いてくれた。
司もそれに習って、自分の家の住所と電話番号。名前を記入してその紙を渡した。
「君んちの電話番号も書いといてよ!!」
司は言った。
「僕たち、親友になれるね!!また電話するし、これからも仲良くしてよ」
黙ったまま、実が頷く。。
「また会おう!!」
お互いに手を振りあって、実と司は別れた。
そして実は母の待つ家に帰っていった。。
※笑顔
「ーーただいま」
玄関を開けると、不安そうに実が言った。
ーーもしかしてまた誰もいないのだろうか?
一瞬、そんな不安がよぎったが、ただの気のせいだと思った。
なぜならば、目の前には母(友美)が立っていた。
「ーーお帰り。。実!」
「お母さん、ごめんなさい」
「ーーいいの。お母さんこそごめんね。。ずっと寂しい思いをさせて。。ごめんね」
「ーー僕ね、ずっとお母さんに嫌われてると思ってた。。くらい部屋の中に閉じ込められたりしてきたから。。もう死んじゃおうかと何度も思ったんだ。。でも、出来なかった」
「ーーそんな風に思わせてごめんなさい」
母である友美が泣きながら、もう一度僕の事を抱き締める。。
その様子をタケルと司が見ていた。。
これまでの実験をしてきた時の様に液晶画面越しに。。
「ーータケルくん。。実験成功だね!!」
司は言った。
ーー上手く行って良かった。。
タケルも安堵したような顔をした。
そしてタケルと司は液晶にうつる親子(友美)と実の二人の笑顔を見て、タケルと司は抱き合って喜んだ。
こうして、すべての実験は終わりを迎え、大人たちは自由を取り戻し、子供たちの存在をも取り戻した。
あれからは実くんの家庭も上手く行っている様だ。。
そして、タケルはまだ僕のところにーー。
これからも友達として、側に居続けてくれるだろう。。
これは実験です みゆたろ @miyutaro
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