第24話 ミノルの家
実の家
その頃。
どこの家庭でも、子供たちが戻ってきた事で、安堵していた。
ーー虐待を受けていた実くんは、家に帰ってからどうなっただろうか?
司はそんな事を心配していた。
どこに住んでいたかも知らない。
電話番号も知らない。
ただ、実験の間1週間ーー共に過ごしただけの友達だ。。
ーー心配なんですね。。実くんの事。。
タケルがぼやくようにそう言った。
「ねぇ、実くんの家の映像って見れないのかな??ーー心配だもん」
「見れますよ。。」
小さなパソコンをお腹から出すと、両手でカタカタと入力した。
「柏木実」
と。。
そのパソコンなら、彼の家の動画が見られるようだ。。
結構な広さの部屋が二つ。
そしてこじんまりとした部屋が一つ。
トイレのすぐ横にお風呂場がある。
その広さの部屋に、ポツンと実くんが座っている。
膝を抱え、まるで体育の授業中のように。。
「ーーお母さん。。お母さん。。僕、帰ってきたよ。。早く帰ってきてよ。。」
実くんがまた泣いている。。
その映像を見ているだけで、僕は胸が苦しくなった気がした。
※ウソとホント
実くんの寂しそうな涙を見ちゃったから、僕は胸が苦しくなるような気がした。
「ねぇ、タケルくん。。実くんのお母さん、、ちゃんと帰ってくるよね?」
「大丈夫ですよ。あの実験中に、彼もまた大人になったんです。万が一の時は子供たちと共に過ごしたあの場所に帰るでしょう。。」
ーーそっか。
ーーそうだよねぇ。。
「司くん、、大変な実験に付き合わせちゃってごめんなさい。。」
タケルが、頭を下げた。。
「ーー僕、あの実験のおかげでちょっと強くなれたよ」
「ーーこれからは、あなたたちの心のケアをしていきますね。。多分傷ついていると思いますので。。」
申し訳なさそうにタケルは言った。
「ーーありがとう。。僕、タケルくんが側にいてくれたら、それだけで安心だよ。僕、タケルくんが大好きだから。。」
司は笑って見せる。
だが、その笑顔には少しだけ恐怖感が感じられた。
ーータケルくんと僕はね。。何が合っても友達なんだよ!!
司は言った。
彼は優しい子だと、タケルは思う。
それが...本心であればいいと思ってしまう。。
この世の中、ウソが溢れている。
だが、真実を見る目を、人間は忘れてしまっているのかも知れない。
※実脱出
実くんの部屋。。
「ーーただいま。。」
ーーあ、お母さん。。
実は母に向かって駆け出した足を止めた。
何か違う気がした。
「ちょっとー何してんのよ??」
普段の日常では、見ることのない母の笑顔。
その隣には父ではない若い男がいた。
二人で、じゃれ合っている。
ーー僕がいるのに。。
ーー僕の事なんて忘れてるみたい。。
実は足早に駆け出した。
ーーもういい。
ーー僕はいらない子。。
そんな思いを抱き出したら、悲しくなってきた。
涙が溢れ出す。
ーーこれが僕の答え。。
瞬時に決めた事だった。
実は険しい顔をしたまま、走っていく。
目的地は一体どこだろうか?
「ねぇ、タケルくん。。」
司は液晶画面を見ながら言った。
「ーーなんですか?」
※実くんを助けに!
「ーーなんですか?」
「ーー実くんの事。。助けてあげられないかなぁ?」
司は液晶越しに彼を見ながら言った。
「そうですね。。彼のプライベートな事なだけに、どこまで周りが口を挟んでいいのか?」
ーーうーん。
ーーうーん。
タケルくんは実くんの事を考えてくれているんだろう。
唸りながら、悩んでいるのが見てとれた。。
「ーーわかりました。。やってみましょう!」
タケルが意を決して言う。
「ーーそれでは彼のとこに行ってきますね。。」
「ちょっと待って!!僕も行く」
司は言った。
「それじゃ、行きましょうか。。」
※ロボットなのに
「ーーそれじゃ、行きましょうか?」
タケルと僕は手を繋いでいる。
学校では人見知りで、友達もいないし、どちらかと言うとクラスメートからは煙たがられてる。。そんな司にも始めての友達が出来た。
それがタケルだった。
友達が出来てみると、1人には耐えられない。僕は本当は友達が欲しかったんだ。。
司自身の心の奥底に、仕舞い込まれていた感情に、この実験が終わった時、ようやく気がついた。。
司にとって、この実験に参加したメリットは二つあった。
タケルと言う友達が出来た事。。
そして、それ以外にもたくさんの友達が出来た事。。
1人じゃない生活の楽しさをこの実験に教えてもらった様な気がする。。
「ーー僕ね、実験に参加して本当に良かった。。お父さんやお母さんは大変そうだったけど。。」
タケルの顔を見て、司は微笑んだ。。
ーータケルくん、、大好きだよ!
子供がじゃれ合うように、司は突然、タケルに抱きついた。
タケルの表情が、柔らかくなる。。
元はロボットのはずなのに、、顔を赤らめ照れたようにしてうつむく。。
ーーあぁ。。また照れたぁぁぁ。
からかうように司が、ニヤニヤと笑った。
「ーーそんな事、言わないで下さいよ。恥ずかしいんですから。。」
ーー何でそんなに照れるの?
ーー僕そんなおかしな事を言った??
「そうじゃないんです。そうじゃ......」
タケルが言葉に詰まっている。
本当に子供は純粋だ。。
私(タケル)も人間みたいになりたい。。
もっと感情豊かにーー。
もっと人間らしく。。
タケルのその思いは日に日に強くなっていく。。
※約束
二人が(くどい様だが、1人はタケルと呼ばれるロボットである)向かった先は、実くんの家だった。。
「それよりタケルくん、、実くんを助ける為に、どうするつもりなの?」
「ーーそれは......」
ーーそれは?
タケルと同じ言葉を口ずさんで、司は生唾を飲み込んだ。。
「それは、、あの場所に行ってから、ゆっくりと考えましょう!」
ーーあの場所。
タケルが言うその場所は、実験であの子供たちが集められた場所である。。
「ーーえぇ。じゃあ、またあの場所で遊べるの??」
「遊んでいいですよーーただ子供たちも数人しか残っていないようですが。。」
タケルは言った。。
「ーーわーい!!やったぁぁぁ」
今にも飛び上がりそうな勢いで、司が両手を挙げて喜んでいる。。
「実くんの事は、私に任せて下さい!」
「ーーよろしくね。タケルくん」
タケルと司は手を繋いで、約束を交わした。
ーー任せてください。
タケルはぎこちなく親指を立てた。。
グーってやるみたいに。。
※希望
実くんの家庭はどうなるのか??
その事はタケルに任せて、僕は実くんと遊ぶ事にした。
「わーい!また会えたねぇ」
久しぶり、って言うには、あまり時間が空いてない。
司と実は手を取り合って喜んでいる。。
突然来たのに、迷惑そうな顔一つしていない。むしろ喜んでくれているのは確かだ。
「何して遊ぶ?」
「ーー鬼ごっこ!」
そう応えたのは実くんだ。
「ーー大丈夫なの?」
彼が少しでも隠れないといけない事が、心配になった。
「ーー大丈夫!僕、もうあんな親のところには帰らないから。。」
実が寂しそうに言った。。
「実くんは、お母さんにどうしてほしいの?」
思い切って司は聞いてみる。
「ーー本当はお母さんに僕の帰りを喜んで欲しかったんだ。。でも、お母さんはそうじゃなかったーーそれなら僕、ここにいた方が安全だし、、ここにいる。もう帰らないーー」
実くんの決意は固そうだった。。
司は実の手を握り、静かに言う。
「ーー大丈夫だよ!実くん。。あれ見てよ!!」
司の視線の先には、人間らしいロボットーータケルが胡座をかきながら、紙を前にして、頭を抱えている。
「僕、タケルくんなら、君のお母さんに気づかせる事が出来ると信じてるんだーー君はどう?実くん。。」
「ーータケルくんなら、もしかして。。?
そう思うけど、うちのお母さん、頭悪いから無理じゃない?僕の事なんていらないんだよ!!」
実くんは、ヤケになっている。。
遊ぶはずが、お話になっているが。。まーよしとしておこう!!
司はひっそりとそう思った。
※実の存在価値
ーー見つかりましたよ!あなたのお母さんに実くんの大きさを実感させる為の実験が。。
実くんと顔を見合せ、タケルの元に急いだ。
「ーーなになに?」
「どんな実験なの??」
実も興味津々だ。。
ーーこれまでは国を上げての実験でしたが、これからのターゲットは、あなたのお母さんです。。いいですね??
「うん。いーよ」
実は軽く答えた。。
「これから実くんが死ぬ、と言う映像をあなたのお母さんに送ってみましょう」
ーーいいねぇ。。僕が死んだ時の映像で泣いてくれるか。それとも何とも思わないのか。。
それでわかるね。。
僕の存在価値がーー。
「ーーそれでは早速、送りますよ??」
実は生唾を飲み込んだ。
大きく深呼吸を一つしてから言った。
「うん。いーよ!やってみて」
不安と希望が入り交じった顔で、実は母を捉えた液晶をジッと眺めている。
最後の実験、開始。
※実験、実の死
最後の実験、開始。
液晶画面の中を実が歩いている。もちろんタケルが送り込んだ実験用の映像である。
家に入って寛ぐ実。
そして、母が帰ってくる。
実は外出した。
外に出て少し歩くと実が破裂する。
そんな映像だ。
まだ幼い実にはだいぶ刺激の強い映像だ。
ーーうわぁぁぁぁぁ。
液晶の中の自分が破裂する映像に、実は頭を抱えていた。。
「ーー司くん。。」
司の横で、司の袖をつかみながら震えている。こんな映像だとは思ってもいなかっただろうし、怖いのだろう。
司は実の手を握った。
「ーー実くん。コレは実験だよ!大丈夫だよ!」
心なしか安心した様に実は司の事を見る。
「ーー大丈夫だよ!大丈夫!!」
彼を安心させるために司は繰り返す。
「大丈夫!!大丈夫!!」
実もまた呪文の様に繰り返した。
二人はずっと手を握りあったままーー。
そして実の母(友美)の映像を見つめる。。
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