第22話 殺さないで
※殺さないで
「ーー俺を、、殺さないでくれ」
目の前に誰かがいるように見えているのか?男は両手を前に出し、顔を横に振っている。
ーーあぁ、そう言う事か。。
タケルはボソリと呟いた。
「え??ーーどーゆー事なの??」
司が聞いていると、興味津々で他の子供たちも集まってくる。
「ーー彼もまた大人だったって事ですよ!」
短めの言葉でタケルは言ったが、子供たちにはその意味が分からなかった。。
不思議そうな顔でタケルを見つめていると、小さなため息を一つこぼしてから、タケルが続けた。
「昨夜、起きた傷害事件ーー覚えていますか?」
ーーうん。
子供たちはそれを覚えていると頷いた。
「ーーあの時、総理大臣はどうしてました?」
ーーどうって、、あ、歩いてた。
「そうですよね?ーーそして今は何をしていますか?」
ーーんとね、、実験。。
「そう、その実験が行われている街を歩いて、ウイルスを吸った。そして、今彼は自分が狙われ、殺される恐怖を体験しているに過ぎません。。」
ーーあぁ、なるほど。。だから、誰もいないのに、怯えてるのか。。
子供たちもようやく合点がいったようだ。
液晶越しに映る総理は、まさに今自身に振りかかりそうな恐怖の体験をしているだけなのか。。
ただ、こうして画像でだけ見てると、この人、バカみたいだ。。
司はそう思った。。
※辞職
それはその日のうちに、進んでいた。
誰も知らない、水面下で決意を決めたのは総理大臣だったようだ。
総理辞職かーー?
夕方七時より、緊急生放送でお送りします。
突然浮上した総理辞職のニュースを受けて、テレビ局の至る番組で、それは大きく報道されるのだろう。
こんなタイミングで、辞めるとかあり得ないと国民の誰もが思っているはずだ。
総理である以上、継続的に国民を守るために働きかけないといけないだろう。
それなのに。。
こんな人を、総理大臣にしたのは誰だ?
すべてにおいて、中途半端で途中で投げ出す。。
こんな人がなぜ、総理大臣になんかなれたのか??
形だけの総理大臣。
この国は一体どうしてしまったんだろう?
その夜。
久しぶりにタケルと二人で眠る事になった。
※目的
「ねぇ、タケルくんーー」
布団にくるまって、司がすぐに言った。
「どうしました?」
「ーー何の為に、大人と子供を分けたり、こんな実験をしているの?」
タケルは難しそうな顔をした。
「司くんは、考えた事がありますか??」
「考える?何をーー??」
司は首を傾げている。
「震災などで、危険が及んだ場合の事をーー」
ーー震災って、、地震だっけ??
「そうですよ!」
タケルは答える。
「うーん。。考えた事ないなぁ。。」
「それでは、今イメージしてみて下さい」
「うん」
イメージ力を持ち合わせている子供だろう、とタケルは考えて言った。
「つい、何日か前に大人たちが逃げていた映像、、思いだせますか?」
「うん。津波と地震のやつでしょ?」
「それでは、その記憶の中に司くんがいると考えてみてください」
「うん」
「司くんはどの道を選びますか?」
「僕は怖いからすぐに逃げるよ!!」
司は言い切った。
「ーーそうです。逃げるのが正解です。あなたの様に正解を選べない人が、死んでいくんです。。」
少しだけ、タケルは寂しそうな顔をした。
軽い呼吸を一つしてから、タケルが続ける。
「この国は、何度か大きな震災や、水災ーーそう言ったモノに見舞われているんです。なのに、その都度、多くの人が亡くなっていくーーそれは、大人たちが緊急事態に対しての免疫がないからなんです。ワカリマスカ?」
「うーん。。なんとなく。。」
人々が緊急事態に陥り、生きるか、死ぬかを自分で選ばなくてはいけない状態になった時、人々には、ほぼ確実に生きる方の道を選んで欲しいんです。
タケルは目頭を抑えた。
もしかしたら、タケルは泣きたい様な気分だったのかも知れない。
その為の練習です。
国を上げて、どんな事態になっても、助かる為の実験をしているのです。
そして二つ目。それは......。
※目的2
二つ目、、。
大人がいない状況にも、子供たちが耐えられる環境を作る事。。
子供たちは逞しく生きていけるように。。
「あなた方の為の実験でもあるんです!」
タケルはそう言い切った。
ーーつまり??
司は不思議そうにタケルの顔を見た。
「あなた方、子供たちは親の指示で動いていますね。。」
「うん」
「それじゃダメなんです。。司くん、、あなたもーー大人だって間違うんです。100パーセント大人が正しいとは限りません。すべてを疑ってかかるべきでしょう」
ーーん?
「ーーゴメンナサイ。タケルくん、僕タケル君の言いたい事がわからないんだ」
「そうですね。大人たちが正しいと信じているのは良いことですが、誰かに答えを求めてはいけないんです。自分で考え、自分自身で答えを見つけるんです。。ーー司くん、あなたには、そうであって欲しいんです!」
ーーつまり、自分でいろいろ考えなくちゃいけないって事?
「そうですよ!どんな時でも今の大人たちの様に、答えを人任せにしてはいけないんです。そうならない為に、この実験をしているのですから」
そして、三つ目。。
これが最後の目的です。
※目的3
そして三つ目。。
大人も子供も、正しい答えを見出だす事が出来るように出来ている。
もし大人たちが正しい道を選べなかった時があったら子供であるあなたたちの意見にも耳を傾け、動く事が出来る大人たちにするべきなんです。
だから、大人たちと子供たちを分ける必要があるのです。
「僕、その為にここに来たの?ーー僕だけじゃない。俊哉くんや、実くんたちも、その為にここまで来たの?」
「ーーこれはあなた方の未来を守るための選択です。。」
タケルは冷たくそう言った。
ーー仕方ないんです。こうでもしないと、あなた方の未来は途切れてしまう可能性の方が高いんですから。。
その言葉をぼやきながら、タケルが少し寂しそうに呟いた。
「タケルくん、この実験はもうすぐ終わるんだよね??」
「はい。。もう終わりますよ。。」
「もう少し、僕も頑張らないといけないね」
精一杯、司は笑った。
それこそ、これ以上ないくらいの笑顔で笑ったつもりだった。。
だが、その笑顔はひきつり、少しイヤそうに笑っているのが、タケルにも見て取れた。
※最後の実験
実験終了まで、残すところ後1日。
これが最後の試練である。
「ーー今日でこの実験も終わりだね。。最後はどんな実験なの??」
「それは、、孤立です」
「孤立?」
「万が一の時に、他者に答えを求めないように、彼ら(大人たち)には、今日1日孤独でいてもらいます。。」
「ーーどんな風に??」
「これまでの実験と同じです。。彼らの脳内にそれぞれが孤立している姿を転送するのです。一時的に、ですが。。ーー誰も信じない。って思いになってもらいます」
ーーそんな事出来るの?
「出来ますよ!!」
「間違って、その状態がずっと続いちゃう事はーー?」
「ありません」
堂々と、タケルは言い切った。
「ーー良かった」
何がどう良かったのか。タケルには、想像する事も出来ないが、司は何か安心しているようだ。
最後の実験はこれまでの実験と違い、すぐに死に直結する訳ではないからだろうか?
ただの1日。たかが1日だ。
人は孤立をしても、生きられるだろうか??
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