第19話 裏の顔タケル
裏の顔、タケル
「ーーそれはね、しゃべれなくしたらいいんですよ!」
ーーえぇぇぇ。
子供たちが目をまんまるくしている。
驚いているのだろう。
それもそのはず。
これまで僕ら子供の事を第一に考え、人間より遙かに人情味があるロボットだと思っていた。
こんな言葉を聞くと、裏切られたような気分にもなる。
子供相手に何を言ってるのか。
だが、実くんは、すごく真面目な顔で頷いている。
「タケルくん、どうしちゃったの?」
司が呼び掛ける。
「タケルくん。。タケルくん。。」
ロボットなのに、ハッとした顔をしている。
「私は何をーー?」
タケルが不思議そうに言う。
これまで見ていた子供たちの「怯え」や「恐怖」ーーそう言う
ーーuiって、、どこまで「人間」ぽいんだろう?
司はそう思った。
実くんがこんな状態じゃ、隠れんぼなんて出来ないだろう。
「じゃ次のゲームしようよ!」
そう言ったのは俊哉だった。
初めての時、彼は人見知りで、すごくモジモジしていたが、だんだんとこの空気にも慣れてきたようだった。
※腕相撲大会
子供たちが、ジャンケンをする。
どうやら勝った子供が、次に何をするか、決めるようだ。
大人数のジャンケンでは決まらないって事で、代表者二人でのジャンケンだ。
代表者は司と俊哉だった。
「最初はグー!ジャンケン、、ポン」
「アイコでしょ」
「ーー勝ったぁぁぁ」
まるで万歳でもするかの様に、両手を上げて喜んだのは俊哉だった。
「クソーーー」
たかだかジャンケンで、すごい悔しそうにそうに言ったのは司だ。。
まぁ、仕方ない。。
「ーーじゃ、次何をやるの?」
「僕、腕相撲したい」
「ーーいいね、いいね」
子供たちが賛成する。
悔しそうだが、司もまた賛意を示した。
「二人ずつやってたら、いつになっても終わらないよね?」
実くんは、いつの間にか泣き止んでいて、そう切り出した。
「いくつかのペアになって、腕相撲をやって、勝った人だけでまたいくつかのグループになって腕相撲して、、それを繰り返して、最強を決めようよ!」
腕相撲が得意なのだろうか?
実くんはとても楽しそうだ。先程までの緊張感は感じられない。。
「実くん、やるじゃん!!それ面白そうじゃん?」
司もノリノリだ。他の子供たちもノリノリな様子で腕相撲はトーナメント方式でやる事に決まった。
※ペア
まずはペアを決めようと言う話になり、隣り合わせの人同士でペアになった。
司vs
これまで彼は目立たない存在だった。自分をアピールする事もなく、言っちゃえば影の薄い子。
そんな印象だった。
近くで見ると、将太の頬のところから首にかけて、湿疹の様なものが出来ている。
ーー彼に触れたら病気がうつっちゃうかも?
咄嗟に司はそう思った。
「僕、皮膚炎でさぁ。。首のところとかすごいでしょ?ーーでも、これ人にうつるものじゃないって医者が言ってたから安心して」
司の思いを組み込んだかの様に、彼は言った。。
「ーーそんな事、思ってないよ!」
司は咄嗟にそう言った。
これは優しさなのだろうか?
それとも自分の心にフタをしただけなのだろうか??
普段は考えもしない事。
なのに、この時はなぜかそんな事を考えてしまった。。
結芽はどちらかと言うと、短身でセンター分けでメガネをかけた女の子だ。気さくで人見知りなんてしない感じだ。。
亜海の方は人見知りをしていて、常に黙っている。
この腕相撲に参加するのも、煩わしいと感じていそうだ。特徴は身長が高くスポーツ刈り。まるでバスケットの選手のようだ。顔つきが妙に大人っぽい。
遼は鼻の高い少年だ。まるで外国の少年のように見える。モテそうな顔つきだ。
口元にあるホクロがチャームポイントになっている。
瞳の方は可愛らしい顔つきをしている。これもまたモテそうだ。
目が大きくクリクリッとしている。
陽真理の方は、中肉中背で髪は二つの三つ編みだ。
子供っぽい、特徴のない顔をしている。
麻美は、いわゆる肥満体型だ。食べる事を趣味としている。
しかし、愛嬌のある顔つきだ。
菜月はタレ目でタラコ唇の女の子だ。
優しそうに見える。
あずさは筋肉質な女の子だった。
俊哉は人見知りだが、体を動かすのが得意そうな小柄な体格だ。
何かスポーツでもやっているんだろうか?
実は母からの虐待を受けて今に至っている為、彼は良い子を演じ続けているのではないだろうか?
そんな風に見えてしまう。
こうして6組のペアが決まった。。
トーナメント形式の腕相撲大会が今始まる。
※やるからには本気で
ーーそれでは腕相撲大会始めます。
タケルではない誰かのuiがその場を仕切った。
大きな紙にグループ分けが記されている。
勝った人同士が、次に進めるトーナメント方式だ。。
先程のペアの子が一斉に腕相撲を始める。
それぞれの場所にUIが置かれ、その勝敗を告げる。そんな仕組みだ。。
司vs将太。
「司くんの勝ちー!」
「亜海のかちー!!」
「遼の勝ちー!」
徐々に勝敗がついていく。
「
「あずさの勝ちー!」
「実の勝ちー」
次の勝負が決まった。
司vs亜海。
遼vs
あずさvs実。
次はこの順番で、腕相撲をやることになった。
遼vs
「ーー
「うそ、、だろ?」
ガックリと肩の力を下とす遼。
その回りに子供たちが集まってくる。。
「やーい、やーい。遼くんたら、
そんな事を数人で言って、からかっている。
「うっ、、うるせー!じゃーお前らもやってみろよー!
遼がムキになっている。。
「トーナメントの勝者が決まってからな。。」
よゆーそうに子供が言っている。
「絶対だからな。。」
遼の顔が怒りで赤らんでいく。
まるで茹でた後のタコみたいだ。。
ーーはーい、次の勝負を始めまーす。
また別のUIが仕切り直した。
次は、、
あずさvs実。
「実の勝ちー!」
次の勝負です。
司vs亜海。
「司の勝ちー!」
ーーやったぁぁぁぁ。
まだ最強になった訳でもないのに、司は大はしゃぎしている。
司vs実。
グループが足りない為、司vs実の勝負が終わってから、勝った方と
ーーここまで来たんだ。
ーー僕は負けない。。
司はそう心に決めた。
※最強はだれだ?
司vs実。
「司の勝ちー!」
司vs
「ーー勝者!!まさかの
ーーえぇぇぇぇ。司くんも負けるのー?どれだけ強いのー??
男子たちが不思議そうに
ーーん?
ーーん?
「他に誰か、私と勝負したい人いる??ーーしてあげるわよ!」
「あ、俺やる。俺やる」
真っ先に手を上げたのは、実だった。
実の腕の太さと、
レディーゴー。
肘と肘を立てたまま、顔を赤らめている実。
本気の力だろう。
だが、微動だにしない
ち......力が......強すぎる。
「僕、絶対、負けないもん」
精一杯の強がりだ。
「私、八割くらいの力で抑えて置いてあげるわ」
この勝負には、何の意味もないからか。
「ーークソー」
「ーークソー」
実は、女にこの余裕を見せられている事に腹を立てていた。
しばらくの膠着状態。。
そして事態は急変した。。
「勝者!!ーー実」
「おー、すげー!実!!
子供たちが取り囲むようにして、ワイワイやっている。
※計画通り
ーーそうだ。これでいい。
ーー子供たちはこうじゃないと。。
子供本来の笑顔を取り戻す事。
体を使った遊びをさせる事。
大人たちに命を守るすべを与える事ーー。
すべては計画通りに進んでいた。
このまま上手く行くはずだ。。
もうすぐ見える。。
この実験の成果がーー。
※退院
大人たちの世界へ。。
「それでは退院日ですが、明日の正午にしましょうか??」
少し躊躇いがちに白衣の男は言った。そう言った後で、再び確認をする。
ーー本当にいいんですね??
「はい」
「それでは明日の正午にしましょう」
「ありがとうございます」
司の母は医師に頭を下げた。
そして翌日。母の退院日が訪れる。
病室を片づけ、荷物を纏めると、はぁぁ、と深いため息を一つこぼす。
「お世話になりました」
母は頭を下げる。
「外では山火事が起きていますので、くれぐれもお気をつけて!」
見上げるようにして、医者は母にそう言った。
※消火活動
病院から、一歩外に出るともう既に消防隊による放火活動が行われていたが、酷い黒煙で
前が見えなくなっていた。
24時間が経過した今もなお、依然として勢いがある火は大きく燃え広がっていて消防隊の水など、まるで届いていないようだ。
更に火は大きくなった。。
「うわぁぁぁ」
人々は逃げ惑う。
そんな中、消防隊の人たちだけが、その赤い炎を前にして、冷静に対応している。
ーー火事だぁ。。早く逃げろー!
消防隊が通行人など、近くにいる人にそう呼びかけながら、炎に立ち向かっている。
彼らも自らの命が大切なはず。
それなのに、こんなにも果敢に赤い炎に立ち向かえるのはなぜなのだろうか??
赤の他人の為に、彼らはなぜ体を張れるのだろう?
※帰ろう
母は口元を薄いハンカチで隠しながら、少しずつ前に進んでいく。
「ーーおいっ、あんた!!何してんだ?そっちは危ないぞ!」
消防隊の一人が母に駆け寄る。
「ーーこっちに家があるんです!帰らないと。。」
消防隊が繰り返した。
そっちの住民ならもう避難しているはずだ。だから。。
「主人が、、晃が待ってるの」
母がごねている。
滅多には見れない光景だ。
「ーーこっちは危ないから行かないで!!」
繰り返し消防隊が母を静止させようとする。だが、それは無意味な事でしかなかった。母はそれを聞かずに、前に進んでいこうとしていた。
そんな時、後ろから声が聞こえてくる。
「どこに行くんだ?貴子」
聞き慣れた声。
貴子は振り返る。
そこには、、
※二人で
そこには夫である晃が立っていた。
「ーーあなた」
母の体が父の体に覆い被さる。
所謂ハグだ。
「司は??帰ってきたでしょ?」
真剣な顔で貴子が言った。
「それが......またいなくなったんだ!!」
フラっと貴子がよろけるのを、晃が支えた。
「ーーごめんな。。」
晃が突然、謝罪した。
「お前が入院して、俺初めてわかったんだ。苦労させてごめんな。。これからはちゃんと労っていくからな!」
そう言って、晃がもう一度妻を抱き寄せた。
プッ。プフフフ。。
「ーー何それ?」
貴子が突然笑い出した。
「笑う事ないだろー?せっかく伝えたのにさぁ」
「あぁ、、ごめんごめん。ありがとう!」
貴子は軽く聞き流している様だった。
彼女と話すといつもこうだ。
真面目な話をしている時ほど、彼女はおちゃらけている。
ーー嘘のない気持ちだからな。。
俺は俺の心の中で、まるで決意の言葉の様に繰り返した。
「ーー帰ろう!俺たちの家に!!」
※デート
炎は何となく消えてきている様だった。
黒煙も減ってきている。
二人で遠回りをしながら、家に向かって歩いていく。
「ーー久しぶりだよね!こんな風にデートするなんてさぁ」
貴子はそう言った。
「ーーあぁ、、そうだな」
すごい違和感だ。
こう言っては何だけど、、この街では子供たちが行方不明になり、動物たちが生息していて、変なウイルス駄々漏れーーこんな緊急時であるにも関わらず、夫婦二人揃って呑気なもんだと思う。。
随分と遠回りはしたものの、ようやく二人が家に到着すると、そのまま布団を敷き、眠りについた。
ーーあぁ、またこの場所に戻ってこれたんだ。。
密かに貴子はそう思った。
どうなる事かと思ったが、医師が退院の許可を出してくれたのだからしばらくは大丈夫だろう。
晃のこの温もり、、幸せだなぁ。。
手を握り幸せを噛み締めながら、貴子は眠りについた。
※残りあと3日
そして朝がくる。
眩しいほどの朝陽を迎え入れた街は明るく輝いていた。
この実験も残すところ、後三日となる。
長かったようで、短かったこの4日間ーー。
それもあと三日で終わるはずだ。
後三日間を子供たちと共に楽しもう!とそう思った。
「おはよー」
子供たちがほぼ同じ時間に、朝食の部屋に集まってくる。
挨拶から始まっていく。
ほぼ一斉に子供たちは短い挨拶を交わす。
大人たちがそうであるように、子供たちもあまり大人たちの映像を見なくなった。
「そう言えば、山火事はどうなったの?」
司はタケルに聞いた。
「どうやら、大人たちは命を守る選択が出来たようですよ。燃え広がっていた火は鎮火し、、被害者は一人もいませんでした」
タケルは即答で答える。
「ーー良かった」
心配していたのだろうか?まだ13才の少年(司)が、安堵の表情を浮かべた。。
「今日は何して遊ぶー?」
子供たちもワイワイ楽しそうだ。。
今この瞬間を生きていくしかない事を、子供たちも悟ったのだろうか?
そんな中、液晶の中から大人たちの危険を知らせるブザーが鳴り響いた。
「ーー今度は何??」
子供たちの表情が固まる。
液晶の中にうつる大人たちを覗き込む。
ーーこ...これは......。
子供たちは生唾を飲み込んで、液晶を見つめていた。
※大人たちの反撃
大人たちは群れをなしている。
「ーー緊急事態宣言を解除しろー!さもなくば、この街を爆破する!!」
どうやら、大人たちもストレスがたまってきているようだ。
「ーーそうだそうだ」
国民の自由を奪い、収入を奪い、命をも枯れさせようとしているこの国を許せないーーー。
大人たちは立ち上がった。
インターネット上に警告動画を立ち上げると、その動画は勢い良く再生数を伸ばしていった。
ーー政府への警告。
すなわち、総理大臣への警告。
大人たちはようやく重たい腰を上げたが、それは総理大臣にも届いているのだろうか??
それとも、ただの悪あがきなのだろうか??
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