第18話 勝負だ
勝負だ
ーーさぁ、みんな隠れますよ!
タケルが子供たちの背中を押す。子供たちは静かに隠れる場所を探している。
「ーー負けないぞー!!」
またしても司とカケルで声が重なる。
ーーまた??
仲がいいのもほどがあるでしょ??
そう思いながら、子供たちは顔を見合せ、腹を抱えて笑っていた。
ーー隠れんぼ、開始。
そう言ったのは名前を知らないuiだった。
さっさと始めろと言う意味だろうな。とタケルは思う。
10......5......3......1
「ーーもういいかい?」
「まーだだよ!」
「ーーもういいかい?」
「まーだだよ!」
「もーいいかい?」
「もーいいよ」
子供たちの声が一斉に聞こえなくなった。
まー隠れんぼだから、当然だろうけど。
急にシーンとなるともの悲しい気分になるのは、なぜだろうか?
※3人みっけ
それにしても狭いところでやる隠れんぼは、隠れる場所がない。
ーーこれは探すのも簡単そうだ。
司は思った。
ただ、あまりにも隠れ場所が少なすぎて、どこに隠れているのかもわからない。
とりあえず一ヶ所ずつ見ていくしかないだろうな。
茂みの影。
そこで一気に三人を発見した。
「あぁ、見つかっちゃった」
三人は残念そうに言った。
でもその顔には、生気が宿っている、とでも言うのか。
とてもイキイキした顔をしている。
※子供本来の遊び方に
ーーそうだ。これでいい。
ーー子供たちは本来の姿を取り戻しつつある。これが今だけじゃなければいいが。
テレビゲームやケータイゲーム。
そんなものを作り出したのは大人たちだ。
彼らがいなければ、子供たちはずっと変わることなく、こう言う遊びをしていたはずだ。
それなのにーー。
姿、形のハッキリとしない動く影がそう言っている。
男なのだろうか?
性別すらハッキリとしないが、それは一体何者なんだろうか??
※弱いもの
子供たちの表情に「遠慮」や「陰り」を作るのは、他ならぬ大人たちである事は確かだ。
教育のつもりの虐待。
シツケのつもりの暴力。
言葉や手をあげる事が、暴力である事を分かっていない大人たちがいる。
万が一の時、命を守る選択も出来ないくせに偉そうにーー!!
液晶画面を見て、そう思っている子供は多いはずだ。
だからこそ大人たちに気づいてもらわないといけない。
子供を守る立場だからこそ、知っておいてもらわないといけない。
これからの子供たちを守っていく為、緊急事態は本当に起きるのだと言う事にーー。
ただ上からモノを言えばいい。
それが大人の役目ではないはずなのだから。
もちろん、わかっている人もいはずだ。
※タケルみーっけ!
少し場所を変えて、子供たちの隠れんぼの場所に視点を移す。
ーーさすがにトイレにはいないだろうな。
司がそう思いながらも念のため見ているとまさかのタケル発見。
「ーータケルみーっけ!」
「やっぱり、タケルーー隠れんぼ、下手だね!」
ニヤニヤと挑発するように言った。
「ーーそんな事ないもん!!」
まるで子供の様にタケルが、口を尖らせた。
「だってさぁ、、普通は隠れないよ!トイレになんてーー」
相変わらず司は挑発的である。
「だってーー」
タケルは膨れている。
口を尖らせたままーー。
二人(一人は人間に近いロボットだが。)はプッと吹き出した。
「ーーねぇ、二人(くどいようだが、一人は人間に近いロボットだ)で、盛り上がってないでさぁ。僕らを探してくれない?」
いつまでも見つけてくれない事で、隠れていた子供たちが一斉に出てきた。
ほんとに子供なんだからーー。
「ーーあー、全員みっけ!」
司が言った。
「今のずるいよー!!」
自ら出てきた子供たちが先程までのタケルのようにして、口を尖らせた。
「え?だって、、みっけたじゃん?」
司には全くもって悪意などないのだ。
子供たちもそれを理解しているようで、特に怒ったりしてもしていなかった。
ブーブー言ってはいるが。
「ーーまぁまぁ」
間に入ったのはタケルだ。
だが……。
※探すぞ
だが……。
「タケルくんのせいでもあるんだからね!」
子供たちの一人が言った。
ブー。
子供たちの口は尖ったまま。
不服な思いを精一杯、表現している。怒ってはいないが、どーしても納得出来ないらしい。
「ーーわかった。わかった。僕がもう一回、鬼やるから許してよ!」
司が言う。
「今度はちゃんと見つけてよ!」
「はーい」
「ほんとに、もう――」
10......5......3......1
「もういいかい?」
「もういいよ!」
子供たちの返事が帰ってくる。
※どうして?
「じゃー行くよー!探すよ」
ツカサは目だけで、人が隠れられそうな場所を探す。
そこを探せばいいからだ。
「ーーどこだぁ?どこにいるー!?」
司が独り言を言いながら、探し始める。
ーーウッ...ウッ...ウッ...。
噛み締めるような小さな声。
泣いているのだろうか。司はその声の方に歩み寄る。
「見つけた!!えと、君は誰だっけ?」
子供たちが多い。まだ出会って四日目だと言う事もあり、あまり全員と話が出来ていないから、名前すらわからない子だったり、名前を忘れちゃっている子が、まだ多々いる。
「僕...は...」
泣いているせいで、言葉が途切れている。
彼は泣きすぎてシャックリが止まらなくなっているようで途切れた言葉の隙間で、シャックリをしていた。
「僕...柏...木...
柏木実くんと言うらしい。
隠れていた他の子達も歩いて出てくる。
泣いていた彼の事が、心配そうだ。
「ーー君はどうして泣いているの?」
司は聞く。
※虐待のキズ
しばらくして、彼は静かに話し始める。
「ーー僕の家、母子家庭でお母さんと二人で住んでるんだ」
シクシクと言いながら彼は言った。
「ーーそれで?」
声を揃えて子供たちが聞いた。
彼はまだ泣き続けている。相当、辛いのだろう。
「僕、、お母さんから苛められてるんだ。。毎日毎日怒鳴られたり、殴られたり、暗くて怖いところに閉じ込められたり。それがイヤで僕逃げ出したくて。この実験に参加して、僕は良かったと思う。子供たちしかいない。だから、僕は安心してた。ーーでも」
声を詰まらせながら、柏木実と名乗った少年は言った。
彼の目から再び大きな滴が滴り落ちていく。
ボロボロとーー。
再び、彼は、黙ってしまう。
「ーー大丈夫ですよ!実くん。ここは安全な場所です!」
uiのタケルは自らの意思で、優しくそう言って、彼の頭を撫でる。
誰も何も言わない。
ただ、彼のところに視線は集まり、彼のその小さな口から、紡ぎ出されるはずの言葉を待っている。
しばらくそうしていると、蚊の鳴くような小さな声で話を続けた。
「でも、狭いところに隠れたりしていると、思い出しちゃうんだ。あの暗くて冷たい場所をーーそしたら涙が出てきて止められなくなっちゃったんだ。みんなごめんね。心配かけてーー」
彼は必死で頭を下げる。
そんな彼にタケルが近づく。
「ーー辛かったですね。柏木実くん。ですが、親がどうであれ!あなたはあなたの人生を歩かなければいけません。どんな時でも。あなたの親は、けしてあなたではない!これからの人生を歩くのはあなたですーーわかりますか?」
目を合わせて、そんな風に話し出す。
しかし、司にもその言葉の意味は分かるようで分からないから、きっと実くんも分かっていないだろう。
「うん。そこは分からないけど、僕は僕の人生を歩かないといけないのは分かる」
実は頷いた。
「まずは、お母さんからの暴力を止めないといけませんね?」
「ーー何か方法があるの?」
「あるって言えばある。ないって言えばない」
タケルがそこで言葉を濁らせる。
「それは?」
興味津々な目をして、こちらに期待を注ぐ少年に、こんな事を言ってもいいのだろうか?
――ニヤリとタケルが笑う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます