第17話 一緒に

一緒に


大人たちの過ごす街では、山火事の被害が広がっている中で、母の退院が決まったらしい。


「斎藤貴子さん、そろそろ退院出来るんですがね。今外では山火事の被害がすごいので、どうしますか?もう少し、入院しておきますか??」


白衣を身に付けた医師が聞いた。

もう高齢で白髪。

声が小さく話をすると、聞き取りにくい。

何かを質問すると必ずと言っていいほど「はぁ?」と聞き返されるあたり、耳が悪いのだろう。

そんな先生だ。


「ーーいいです。退院します!どうせ死ぬならあの人(晃)と一緒にいたいですから。」


「そうですか。わかりました。」


「それより息子は?司は帰ってきましたよね?ーーどこに行ったんですか?」


「ーーそれはわかりません」


医師は顔を小さく横に振って、分からないと冷たくそう言い切った。

確かタケルの話では、あの医者もグルのはず。

だとしたら分かってるはずなのに??


※バースデー


この日ばかりは!大人たちの映像が消され、子供たちの楽しみのために過ごすと、突然、タケルが言った。


ーー大人たちの事はさておき、今日は一日、子供たちで楽しみましょー!!


「楽しむって言っても、大人たちの事が心配だよ!」


司が言った。


「大丈夫ですよ!今日の事も録画はしてあるので、明日見ましょう!」


「そう言う事なら……」


「ーー今日は司くんの誕生日なんです。。現実の事は置いといて、みなさんで誕生日パーティーをしましょう」


ケーキがロウソクに火をつけられた状態で出てくる。


「ーーうわぁぁぁ」


司の顔が瞬時に明るくなっていく。でも、大人たちの事が心配じゃない訳ではない。どうせ何も出来ない。助けに行く事も出来ないならーー。

そんな思いで今を楽しもうと思った。


「ーー司くんから一言、お願いします」


タケルがそう言った。

マイクはないが、司は子供たちの中心に立って挨拶をした。


「ーーここのところ、いろいろとありすぎて、僕自分の誕生日の事なんて忘れてたけど。考えてみたらこんなに沢山の友達から誕生日を祝ってもらうのなんて、初めてですごく嬉しいです。ありがとうございます」


精一杯大きく息を吸って、勢いよくロウソクの火を吹き消した。


「ーー司くん、誕生日おめでとう!!」


一斉に子供たちが群がってくる。


「ーーありがとう」


「今日で司くんはいくつになるの??」


「13才になったよ!」


「もしかして、この中じゃ一番のお兄ちゃん??」


「13才より上の人ー手を上げてー?」


司のその言葉に、誰も手を上げなかった。。

どうやら、僕が子供たちの中で一番年上のようだ。


※ゲーム


司くんの誕生日パーティーという事で、今日は思う存分、楽しみましょう!

では、早速ですがーーこれからゲームをしましょう。


タケルが言った。


「ゲームってそんな機械あるの?」


「テレビゲームじゃありませんよ!!友達と一緒に遊ぶんです」


「どんな風に??」


「たとえばーー缶けり?」


「えー?缶けりなら、テレビゲームやったほーが楽しいよ!!」


司が不服そうだ。


「ーー体を使って遊ぶのが子供の本来の姿です。それが失くなってきているのも、こんな実験をする理由の一つなんです。万が一の時、逃げる体力もなかったら、生きられませんよ!」


「でもさぁ。暑いじゃん?」


「ーー暑い中、汗をかきながら遊ぶとまた楽しいですよ!」


タケルが言った。


「しょうがない。やってやるか」


仕方なくと言った様子で司は頷く。それに合わせて、子供たちが頷いた。

どうやら体を動かして遊べばいいらしい。


※かくれんぼ


「何しよっか?」


ーー体を使いつつも、なるべく動かなくて済む遊び。

そんな遊びを探している。


「ーーあ、、じゃー隠れんぼなんかどう?」


そう言ったのは俊哉くんだ。

彼もまた僕と同じような事を考えていたのかも知れない。


「いーねいーね」


他の子供たちも賛成の意を示した。


「ーーそれでは元気よく遊んで下さい」


「タケルは仲間に入らないの?」


「私はどんな状況でも元気に遊ぶ子供たちをみていたいので見ています」


タケルが言う。

ニヤニヤとした顔を浮かべ司が言った。


「ーータケルくん、、もしかして、隠れんぼ下手なの??」


司はまだニヤニヤとしている。


「そ......そんなこと......」


タケルが顔を赤らめた様に見える。

彼はホントに人間みたいだ。


「下手なのを知られたくなくて、それで参加しないよーにしてるんでしょ?」


タケルの事をバカにした様な顔で、司は見下していた。

 

「バ……バカなことを……」


タケルは困惑した顔だ。

今にも怒り出しそうな気配を、プンプンと醸し出している。


「ーー分かりました。それじゃ私も参加しましょう」


「やったーー」


子供たちが万歳しながら、両手を上げて喜ぶ。

俊哉と司に関しては、抱きしめ合って喜んでいる。


「僕が鬼になったらすぐにタケルくんを見つけてやるー」


司はニヤニヤとした、いたずらっ子の様な顔で言った。


「逃げるなら今のうちだよ!?」  


得意げな司。

タケルは何も言わない。


いざ、尋常に勝負!


※宣戦布告


そうして子供たちは、かくれんぼの鬼を決めるべく、じゃんけんを始める。


ーーじゃんけんぽん。


子供たちとタケルが一斉に手を出している。


ーーアイコでしょ。


「勝ったー!」


そういって一気に5人くらいが抜けた。

残りは5人。


ーーじゃんけんぽん。


「勝ったー!」


両手を上げて喜びながら三人が抜ける。

最後は司とタケルの一騎討ち。。


ーーじゃんけんぽん。


ーーアイコでしょ。


ーーアイコでしょ。


終わらない。

このままエンドレスでじゃんけんが続くのかと思い始めたその時、ようやく勝負がついた。


「ーー負けたぁ」


そう言ってうなだれたのは、司だった。


「タケルくん。僕は、君をすぐに見つけるからね」


ーー司からタケルへの宣戦布告。


「ーー面白いじゃないですか?!」


他の子供たちをほったらかしにして、灼熱している二人。

こうして鬼は司に決まった。


「なんか、あの二人(一人は人間みたいなロボットだけど)、ケンカばっかりしてる兄弟みたいだよね?」


ヒソヒソと子供たちが話しているとーー。


「ーー兄弟なんかじゃない!!」


二人が一斉に振り向いたかと思うと、タケルと司の声が重なる。


「ーーほら、ねっ!」


子供たちがフフフッと小声で笑っている。


ーーでは、早速始めましょうか。


負けるまいとしているツカサは、まさに鬼の様な形相でタケルをにらんだ。


「僕は、タケルに絶対負けない」

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