第15話 群れ

家から出てしばらく歩いて行くと、動物の鳴く声が聞こえた。


ーーパオーーン。


象だろう。

まるで遠吠えのように鳴いている。


大人たちが振り返ると、象たちもまた大人たちの後を着いてきている。


またしばらく歩いて行くと、何も言わずにコアラたちの群れが着いてきている。

気にせず、前に進んでいく。


今度はライオンたちが遠吠えをしながら、大人たちの後ろをついてきている。


まるで昔話の桃太郎のようだ。

動物たちは大人たちに悪さをする様子はない。


しばらく進むと「ワンッ、ワンッ」ーー普通に泣きながら犬たちが集まる。

すごい数の動物達だ。


大人たちと、それに着いていく動物たちーーこの先、何が起こるのか。

今はまだ誰もわからない。

だけど、動物たちと群れをなして行動するのは楽しいな、と晃はヒッソリと思った。


※大人がいない子供たちにしない為に。


そのデモ活動をしている様子を、映像越しに見ていたタケルがつぶやく。


「ーーこれは危険ですね!」


uiのタケルが言う。


ーーどんなふうに危険なの??


彼らは自由を求めています。その為ならば、どんな行動でも起こしかねない。今のうちに手を打たなくては。


タケルが独り言のように言って顎のあたりに手を添える。

何かを考えている様だった。


「手を打つって??」


「危険なイメージと現実をまた噛み合わせて、その映像を送っておきます」


「ーーどんなふうに送ってるの??」


「テレパシーみたいなもんですかね??ーーそうでもしないと、子供たちを守るはずの大人たちが全員逮捕されてしまいかねない、のと、集団自殺でもされたら、身寄りのない子供たちが増えてしまいかねない」


ーーたかが実験の真っ最中だ。

ーーそれで子供たちが寂しい未来を迎えるのだけは、何としても避けなくては!!


タケルは誰よりも子供たちの事を考えていた。

実の母や実の父。両親よりもーー。

人間に近いロボットであるにも関わらず、誰よりも子供たちの事を想っているのは、明白だった。


「君たち子供が、この国の未来を作るんです。今の大人たちの様に過ごしていてはいけません。今この映像の中で起きる災害から君たちも学んでください」


タケルは子供たちに語る。


※強い心


「みなさん、聞いてください!この映像から入ってくる危険な事は、すべてあなた方にも降りかかる危険性のあるものばかりです」


タケルがそっと話し始める。

未来を担う子供たちに、この危険と向き合ってもらうために、言葉を選びながらタケルは続けた。

 

「君たち子供が、これからの未来を作っていくんです。その為には、君たちにはどんな困難な事にも負けない強さが必要なんです。この映像をみて、もしもの時ーーどうするべきか?自分の頭で考えるようにして下さい」


タケルは熱心にそれを伝えようと、そう語ったがしかし、

子供たちはまるで意味が分からないのだろう。不思議な顔でタケルの事を見つめている。


「ゆっくりと分かって行けばいい!」


妙に手慣れた様子で、タケルは子供たちの頭を、一人ずつ撫でていった。


「ーーありがとう」


撫でられた子供が、口々に言う。


「ーー僕も撫でてぇ」


突然、司が頭を差し出した。


「甘えん坊さんですね!!」


そっとタケルが司の頭を撫でる。


ーーここに来てから、ずっと大人たちがいない生活で、頭を撫でられる事もない。

子供たちも寂しかったのだろう。


※残り3日


ワイワイガヤガヤと過ごしていると、あっという間だが、この実験が始まってから四日目の朝が訪れた。


街はこれ以上ないくらいの晴天だ。白い雲の隙間から僅かにキツネの嫁入りが降りてきている。


この実験で体験した恐怖。

ウイルス、街が動物園になる、津波、そして大人たちのデモ活動ーーいろいろな恐怖が子供たちの心を支配した。

今度はどんな実験が行われるのか。

しかし、今は逃げる訳にはいかない。

なぜならば、逃げたところで外の世界の方が危険だらけなのだから。


実験が終了するまで後三日。


大人たちの頭の中では、この四日間でいろいろな事が起きただろう。

それを見ていた僕たちも、いろいろな恐怖から目を逸らす事が出来ずに、何も出来ずに液晶画面を眺めている。


動物園にいる危険な動物たちが普通の道路や、道の真ん中に放たれーー人畜無害らしいウイルスが流され、大きな地震があり、津波も起きている。

そしてデモが起きた。そのデモ隊と共に動物たちの群れも大人たちの後を着いていく。


ーーこれ以上の事件はもうないはずだ。

だが、実験終了まで後三日ある。

次は何が起こるのだろう。

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