第12話 疲れ

※疲れ


医師からの説明を受け、病室に戻った途端、母は分厚い布団にくるまった。

その布団が小刻みに震えている様に見えるのは気のせいだろうか??もしかしたら母は一人で泣いているのかも知れない。


そう思うと僕は少し胸が苦しくなってくる。

お母さんの涙は僕が生まれてから12年、これまでの人生の中で一度だって見た事はない。

それでも母が今泣いているだろう事はこの映像から見て、ほぼ間違いないだろう。


ーーお母さん。


司はぼやくようにそう言った。

ふと母はこちらを見る。


「ーー司、、助けてくれてありがとう。そして、ごめんね」


母の声がそう言った。

まるで僕が呼びかけているのが、聞こえたようなタイミングで、母がそう呟いていたのは奇跡だろう。

なぜならば僕の声は、この状態の母に届くわけがないのだから。


「大丈夫だよ!お母さん。絶対助かるよ!ーー僕もあと4日で家に帰れるから。そしたら病院にいくからね!」


ーー大丈夫。

ーーきっと間に合う。


そう信じていても、一分一秒が司にはとてつもなく長い時間に感じられた。


「ねぇタケルくんーーお母さんのいる病室にビデオを一つずっと向けてられる?」


少しの間、考えたのだろう。

軽く深呼吸したような仕草を見せてから、タケルは答えた。


「いいですよ――」


「母のいる部屋だけ、録画は出来ないの??」


「出来ますよ!」


「ーーじゃぁ、僕の為にずっとお母さんの映像をとっておいてよ!ーーそれで、この実験が終わったら僕にちょうだい!お母さん、死んじゃうかも知れないから」


ーーふぅ。いいですけど。

タケルはそう言ってから、続けて言う。


この実験は大人たちが緊急な状況になった時にどう対処するのか。

そんな実験ですよ?司くん――忘れてしまいましたか?


そう、これは実験です。


あなたのお母さんもガンと言われていても、あなたのお母さんが考え出しているもしもの恐怖と現実の背景が混同している。

それだけです。


「ーーえ?じゃ、お母さんは??」


「大丈夫!病院で疲れを取っているだけです!」


「もう、現実なのか。夢なのか。分からない映像が次々に出てきて、僕の体がもたないよ」


ーーふぅ。そうですね。


ため息を一つこぼしてから、どこか寂しそうな口調で、タケルが言った。


この3日間、いろいろありましたね。私も少し疲れました――。


「ねぇ、タケル。映像の中ではお母さんがガンって言われてたじゃん??」


「うん。そう言われてましたね!」


「お母さんはガンだって、実際に言われてるの?」


「残念ながら、目の前で告知されています。が、あの医師は政府の使いなので、実験の一つでしかないです」


「なるほどね。後から実験でした、という説明があるんだよね?」


「そのはずです」


心なしか、自信なさそうにタケルがぼやいた。


「ーーそろそろ寝ましょうか?」


タケルはそう言って、電気を消した。

僕はそのまま布団に潜り込み、目を閉じる。


そして朝が訪れた。

いつもの様に普通に――。

だが、相変わらず見渡す限りの子供たち。

液晶の世界の向こうには、変わらず異常な生活が続いていた。

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