第9話 子供たちの居場所

そこに戻るとツカサの事を、たくさんの子供たちが待っててくれた。

その中で声をかけてくれたのは村田俊哉だった。


「あ、、おかえりーー司くん」


「ーーただいま」


「ーーお母さんはどう??」


心配そうに僕(司)の事を覗き見るようにしながら、俊哉が聞いてきた。


「わからない。救急隊員の人とかお医者さんとか、大人たちはみんな笑ってて、僕も一瞬だけ笑ってたけど、ちゃんと治療してくれてるのか?すごく心配だよ」


「ーー大丈夫、、だといいね、、」


俊哉が悲しそうな視線を僕に向けた。

お母さんの事で、頭が一杯で僕はそれに何も答えられなかった。


「見ますか?あなたのお母さんの病室をーー?」


そう言ったのは、タケルだ。

彼は人間に近い感情有りのロボット。

もしかして、タケルは僕に気を使ってくれたのだろうか?


「ーー見れるの?」


司は突然、元気になった。


「はい。見れますよーー!!」


「見せて見せて」


司はそう言って心配そうに、液晶の向こう側を覗き込んだ。


母は眠っていた。

病室の窓ガラスからは、西陽が差していて、眠っていた母が起き上がると、母の横顔が日差しに染まっていく。


いつもより、母の横顔がキレイに見えた。


「お母さんーー元気そう」


司が呟いた。


「もう大丈夫だと思いますよ!」


タケルもそう言ってくれた。

その言葉が少しだけ安心感をもたらせてくれた。


※柏木実


突然、実はツカサに話し始めた。


――僕のお母さんはさ、すぐに怒るんだ。だから僕、この実験に参加する事になった時、嬉しかったんだ。すぐに怒るお母さんがいなくなるから。


実はこちらを向いて、ツカサに聞いてきた。


「ツカサくん、君はお母さんに怒られないの?」


「そんなことあるわけないじゃん??いつも怒られてばっかだったよ!でもね、僕の事を思ってくれてるから言ってくれる事なんだよね」


「……」


「君はお母さんの事が大好きなんだね」


「うん。大好きだよ!実くんは、お母さんの事、きらいなの?」


「この実験に参加するまでは、大っ嫌いだと思ってた。でもね、離れて見てわかったんだ」


「――わかった、って何が?」


「ーー僕、、お母さんに怒られてばかりいたけど、、やっぱりお母さんの事大好きなんだ、って今やっと気づいた」


そう言った後で、実が付け加える。


「そう思わせてくれたのは、ツカサくんとお母さんの姿だったんだ」


ーー?


実くんの言っている事は、あまりよくわからないが、彼にとっていい傾向ではあるらしい事はわかった。


「そっか。いい方向に変わって来ているなら、この実験に参加して良かったね!」


ツカサは液晶の中に写っている映像をチラリと見て、改めて元気そうな母の姿に、涙が溢れてくる。


「司くん、、大丈夫だよ!きっと」


俊哉が言った。


根拠も何もないーー。

そんな言葉が、僕を励まし支えてくれた。もう少し頑張る為の力を分けてくれた気がする。。


ーー大丈夫。

ーーお母さんはきっと無事に戻ってくる。


そう思ってても、僕は不安で涙が止まらない。

泣いている僕を取り囲むように、子供たちが集まってくる。


ーーねぇ、元気を出して。


そう声をかけてくれたのは、名前も知らない少年だった。


「ーー君、名前は?」


僕は震える声で聞いた。


「ーー僕ね、近藤直也(こんどうなおや)って言うんだ。よろしくね。」


僕と直也くんは握手をした。

冷え性なのだろうか?直也くんの手は氷のように冷たかった。


「よろしく」

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