第2話 一週間
※帰宅した母、貴子
「ただいま」
いつものパートを終え、午後3時半、貴子は帰宅した。
ーーふぅ。
荷物を置くため居間に進むと、大きな段ボールが広げられたまま、帰ってきているはずのツカサの姿がない。
一瞬にして貴子の顔色から、血の気が引いた。
「ツカサ……ツカサ?」
そんなに広いわけでもない室内を、ツカサの名を呼びながら、歩き回る。
しかし、ツカサの姿はない。
貴子の手には、まだ鞄が握られている。
ツカサがいないことで、動揺しているのだろう。
荷物を置くことすら忘れてしまっていた。
――ツカサ、遊びにでも行ってるのかしら?
貴子がそう呟いた。
段ボール箱を潰し、片付けていると宛名にはサイトウツカサさま、と書かれている。
こんな大きな段ボール、一体なにが入っていたのだろうか?
ん?
そして足元にはメモ帳が一枚落ちていた。
落書きのような雑な絵は、それが何かもわからないが、ロボットのようだった。
「まったく、やったらやりっ放しなんだからーー」
貴子はため息をつく。
テレビをつけニュースを流した。
※集団家出
ユーアイのタケルが言うように、ぼくは荷物をまとめる。
ーーこの家をでる、のだという。
大人たちから離れたところで、実験の経緯を見るため、、らしい。
ーーぼくら、子供が信じてきた大人の強さ。大人の大きさ。
それがニセモノではないことを祈って。
タケルに連れていかれた先には、数多くの子供たちがいた。。
「ーー僕、ツカサっていうんだ。。よろしくね!」
「
孝久と名乗った彼は仏頂面で、言葉だけの挨拶だと言う事は明白だった。
しかし、それでも知らない場所で、知っている子を作るのは大切な事だった。
そうしないとここにいる間つまらなくなるから。
「仲良くしてね!」
ツカサが右手を差し出した。
それに応えるように、孝久(たかひさ)は左手を重ねる。
「僕、ずっと心細かったんだ。僕の方こそ仲良くしてね!」
孝久が言う。
その時、初めて孝久は笑った。
ここにきて、わずか数分で僕には孝久くんという友だちが出来る事になる。
※同じ境遇にいる子供たち
船で20分程度の時間をかけて到着したのは、島のような雰囲気の場所だ。
タケルくんいわく、ここは無人島で、小さい島だという。
この街の住民は、この島に来る事もないらしい。
が、来たとしても歩いて20分程度で、島中を回れてしまうようだ。
これから実験が終わるまで、僕らはこの島で過ごすことになるらしい。
普段は人が1人もいない。だが、今は子供たちで溢れかえっている。
実験の間中、人が溢れかえるのだから、この島にとってはいいことなのかも知れない。
集まっている子供たちに、ツカサは聞いた。
「キミたちはどうしてここに来たの?」
おそらくあまり年齢はかわらないだろう。
子供たちは口を揃えて、不安そうな顔で応える。
「ーージッケン、なんだって」
精一杯の笑顔で笑って、ツカサは言った。
少しでもミンナが安心してくれればいいと思っての事だ。
僕なりに気を使ったつもりだった。
「ぼくらと同じだね。キミのナマエは?」
「ボクは、、ボクは、、」
モジモジとしながら、少年はくちごもる。
少し待ってると少年はようやく名前を名乗った。
彼は
「トシヤくんだね?よろしく。」
しぜんと、人なつこい顔になっているツカサの姿をみて、トシヤと名乗った少年は、ホッとしたように、表情筋をゆるめ、はじめてトシヤは、ぼくに笑いかけてくれた。
「ジッケンのこと、くわしくは聞いてないよね?」
トシヤが聞いてきた。
「うん。どんなジッケンなんだろうね?」
「もーちょっとしたら教えてくれるのかな?」
「ーーどーなんだろう?」
遠い目でツカサはこたえる。
「何もかもが知らされていない」ことへの不安はもちろん、「大人たちがいない」ことへの不安もある。
ーーぼくらはこれからどうなるのだろう??
※大人たち
政府のようせいで、至るところに仕掛けられた監視カメラが、大人たちの現在を写し出している。
テレビ局のように、いくつものモニターがひとくくりにされ、いろんな場所の映像がみれるようになっている。
その頃、ニュースでは子供を持つ大人たちが子供たちの行方を探して、警察に駆け寄る姿が写し出されていた。
警察署の自動開閉するトウメイなドアが、今にも壊れてしまいそうな勢いだ。
モニターを通して見ているからだろう。見えない力によって、大人たちがそれに押し込まれていくようにもみえる。
「ーーあ、おかあさん。。」
そう口走ったのは、トシヤくんだ。
「ほら、みてこの人ーー僕(としや)のお母さんなんだ」
「わかいお母さんなんだね。ぼく(ツカサ)のお母さんもいるかな?」
ツカサは少し寂しくなってきた。。
しぜんと涙が溢れる。。
子供たちがツカサにつられ、一斉に寂しそうな顔をしだした。
ここに集められたユーアイたちは、子供たちのココロのケアをするため、それぞれの名前をつけた子供に駆け寄り、なぐさめている。
僕(ツカサ)のところに来たのは、やはりタケルだ。
ーーツカサくん、、大丈夫です。
ーーこれは一週間だけのジッケンですから。
この時、始めてツカサはこのジッケンが、一週間で終わることを知らされた。
一週間で色んなジッケンをします。
子供たちを守るため、という大人たちが、緊急事態にどれほど備えられているのか。
それを知る為に。
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