『あと5分だけ、10分だけ』

 午前5時、iPhoneのアラームが鳴る。


 手探りで枕元に置いてあるその音源を見つけ、素早く止める。


 私はアラームの音が大嫌いだ。いつまでも耳に残るような、お前が起こせと命令したんだろ?起きろよと煽られているような、そんな感じがして。


 アラームを止めた時、私の目はまともに開いていない。いや、むしろ開けるのを拒んでいる。

 まだ眠っていたい。その一つの気持ちに私は支配され、ベッドから離れまいとする。

 しかし、早く起きて勉強しよう、と私の中にもそんな悪魔と戦う天使がいる。


 私の中の悪魔と天使はすぐに和解案を提示する。


 『あと5分だけ、10分だけ寝るのはどう?』


 早く勉強を始めたいから、時間を無駄にできないから長時間は眠れない。なら短時間ならいいんじゃないか?まだ朝の5時なんだから。

 うん、とても素晴らしい和解案だ。




 何を言ってるんだ。こんなの罠に決まってるだろ。

 じゃない。朝の5時危ないんだよ!!

 昼寝ならまだしも、こんな朝早い時間に5分、10分なんて満足いくか!


 辛い時、苦しい時は何かと自分に都合のいいように捉えてしまう。

 そう、この時の私は完全に悪魔よりなのだ。和解に見えて実は悪魔が有利になっている。


 ここでこの案を受け入れてしまったら最後、おそらく起きるのは6時か7時だろう。もしかしたらもっと遅くに起きるかもしれない。


 5分寝たら5分取り返せばいい。10分寝たら10分取り返せばいい。なんてそう単純な話ではない。実際は5分10分寝たら取り返すのは1時間2時間と倍以上になる。

 つまり甘えた分だけその日の睡眠時間やら自由時間やらが消えて無くなるのだ。

 

 この悪魔は非効率を生み出す天才である。


 そんな悪魔に打ち勝った私は自身を褒め称え、今日も机に向かった。

 

 私の一日というゲームのラスボスは必ずと言っていいほど、目覚めた瞬間に現れる。


 なんてハードモードなんだ。

 

 


 

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