恋の邪魔者は馬に蹴られて何とやら(3)
電話が鳴った。すぐさま目玉を動かし自分の置かれている状況を確認する。
変身は解けた状態。
首ネックを持って引きずられている。桐村愛だ。
私は電話に気を取られた桐村愛を横目に、体を彼女の足の方へ向けつつ、ポケットに入れていたボールペンを彼女の足へ突き刺す。
「っい…たぁっ!?」
彼女が顔を歪めた隙間を見計らい、襟を掴む手を解いて距離を取り、再度変身をする。
「やってくれましたねぇ………ああ、痛いなぁ。これは、後で駿ちゃんに撫で撫でしてもらわないとですねぇ。」
柔らかな口調。それでも額の血管がピクリピクリと動いている。
確実に今、彼女は怒っている。
次は何をしてくるのか、警戒しつつ電話へ出る。
『もしもし!鈴香さん、気を付けて!魔法少女に狙われてる!!』
「………分かってます。もう戦闘中ですから。」
『……桐村さんが』
「ピンポーン。あたし、桐村愛ですぅ。うふふ」
『しまった………桐村さんまでもう暴れてるなんて』
『まで』………成る程、誰かまでは分からないがもう1人魔法少女が私を目指して来るらしい。
困った。桐村愛の能力も不明なままで、もう1人新手が登場すれば負けは100%……そう考えるほかない。
「橘先生……もう1人の魔法少女は申し訳ありませんが、旧校舎へ着く前に対処を先生にお任せします。代わりに桐村愛は私が倒します。頼みましたよ、先生。」
要件を言うだけ言って電話を切る。
「あたしを倒す……ですかぁ………。その体で?私の能力も分かってないのに?……ふふっ、副会長さんって冗談も言うんですねぇ。」
彼女は笑いながら、意識を失う前に見た通りに再び姿を消していく。
ーーーーーーーーーー
「くっ!」
弓を打ち、闇雲に曲げてみるも当たった様子は無い。
「うっ!?」
襲う嘔吐感。恐らくボディブロー。
『ふふ、もう降参しませんかぁ?だってぇ、私がどこか分からないんでしょう?』
言葉がどこからか響く。
彼女の言葉に間違いはない。悔しいがその通りだ。
しかし、ここで屈しては高等部生徒会副会長として、橘先生や美菜、牧さんにも、それに依頼をしてくださった霰沢会長にも顔向けできない。
「出来ない相談です。」
『はぁ……頭が硬いですねぇ。さっさと諦めてないとぉ、』
突然感じた痛みに伴って体が引っ張られるように飛び、私は辛うじて受け身をとりながら地面へ勢いよく叩きつけられる。
今のは恐らく椅子か何かで顔を横薙ぎされた。
『死んじゃうかもですよぉ……ふふっ』
勝ち誇った甘ったるい声。
しかし、どこから聞こえているのかは全く分からない…………
いや待て。どうして音すら聞こえる方が感じない?
『弓を曲げるだけの能力じゃあぁ……あたしに勝てないんですからw……分かってるでしょぉ、賢い賢い副会長さんなら………ねぇ?』
瞬間移動にしろ、透明になっているにしろ、音のスタート地点は分かるはずだ。
それがどうして一切感じない?
………彼女は居なくなっていない?……いや、視界から消えていない……恐らく消えているのは彼女への……
「私の認知………」
『何か言いましたぁ?何でもいいですけど早く降参してくださいねぇ。折角の駿くんとの時間が短く「桐村さん……あなたの能力は、相手から認知を消し去ること……違いますか?」
『…………』
彼女は黙る。
正解ということだろうか
『だいせーかい!!………で、だから何だって言うんですか?……分かったところで弓を曲げる能力で何か出来ます?』
彼女の言葉には答えず、私は窓に向かって矢を放ち、全ての外側の窓へ穴を開ける。
『急になんですかぁ?……そんなことしても助けなんか来ませんよぉ?』
「知らないでしょ?」
『は?何がです?』
「私が桐村さんの能力を知らなかったように、桐村さんも私の能力を知らない。」
『何言ってるんですかぁ?弓を曲げる能力でしょ?』
「あなたはそう思ってるみたいだけど違うの。私の能力は風を操ること。弓の軌道を曲げたのも風の向きを変えたに過ぎないわ。そして、あなたは消えていない、私の認知が消えてるだけ。つまり、あなたはこの部屋にいる。」
『だからぁ!それが何だって言ってるんですけど!!』
「分からないの?あなたは見えるのよ、認知され無いだけで、視界には映るの。だったらどうにか映せば良い。私の視界の中にあなたのシルエットを」
一気に風の力を強くし、窓へと吹き込む風を全力まであげる。
割れてゆく窓。無理矢理に枝から離された葉が教室に傾れ込む。
一面が緑の空間。その中にポツリと不自然に空いた空間。
「やっと見えたわ、桐村さん。」
弓を連続で放つ。こうも分かれば外す心配は無い。
『いぎゃあ!!」
矢は彼女の左二の腕、右肩、左脛、右太腿に突き刺さる。痛みで能力を維持できなくなったのか、視界に彼女の姿が映る。
「今度はこっちから言うわ。降参しなさい。」
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