恋の邪魔者は馬に蹴られて何とやら(2)

「さやか、いる?」


二つ隣のクラスに顔を出し、友人を呼ぶ。


「おー、葦月。どしたの?」


「夏木さんを呼んでほしくて、ほら前に拾ったハンカチ、まだ返せてなくて。」


そう言ってハンカチを見せると、さやかは合点がいったという感じで、すぐに夏木さんを呼んできてくれる。



「副会長さん、どうしました?用って何ですか!」


少しギョッとしてしまった。

何せ、依然の時見た雰囲気とは人が変わったのかと思う程違う。


「これ、この前拾ったの。夏木さんのよね?」


「あー!ほんとだ!!無くしたと思ってたんです!ありがとうございます、副会長さん!」


夏木さんは活発な感じでハンカチを嬉しそうに触ると、大袈裟な感じに私に頭を下げた。


「どういたしまして。」




前がビクビク日なら、今日はキラキラ日か、ルンルン日だろうかな。


そんなことを考えつつHR終わりの教室を後にしようとすると、今はあまり聞きたくない声がした。


「どうもぉ、鈴香さん。ふふっ。」


「ええ、こんにちは。桐村さん。」


桐村はニコリと笑って、小さく手を私に振る。

ほんわかした様を崩さない、そんな雰囲気が私の中でアラームを鳴らす。


やはり、彼女が犯人で間違いないのだろう。

彼女の笑顔はどこか裏側に黒いものを感じさせ、そう思わせる。


「ちょうど鈴香さんにぃ用事がありましてぇ。うふふ、ラッキーです。」


「……用…ですか。」


「はい。ここじゃなんですから着いてきてもらっていいですかぁ?」


私に用……。わざわざ疑っている私を自分に近づける………何かあるのだろう。


それでも、彼女と接触することが三山くんに一番近い。


私は彼女の言葉に首肯した。




ーーーーーーーーーー


連れてこられたのは、旧校舎の2階。

吹奏楽部、軽音楽部の練習がある日は騒がしいが、今日の水曜日はどちらも休み。


そのため、人はおらずひっそりとしている。


「それで桐村さん、私への用とは何です?」


「うふふ。そーですねぇ、端的に言うと口封じですかねぇ。勘づいてるんですよね、私と駿ちゃんとの関係。」


「………ええ。初めてあった時から失礼ですが、怪しんでいました。」


「ですよねぇ。だから、白状しちゃいますね。

誘拐しちゃったのは私です。つい、可愛くってぇ………たぁくさん、可愛がりたくなっちゃって。えへへ。」


「……………やっぱりそうでしたか。」


怪しんでいた通りだ。桐村愛が三山駿の誘拐犯で合っていたらしい。


「うふふ、ごめんなさぁい。それでぇ、ここからが本題なんですけどぉ、黙っててもらえませんかぁ?駿ちゃんが結婚できる歳になるまで。」


「そんな注文を受け入れては副会長の名折れです。認めることはできません。今すぐ三山君のことを離しなさい。」


「……まぁ、そう言う答えが返ってきますよねぇ。それじゃあぁ、仕方ないけど私にボコボコにされちゃってください。……、ですから。うふふ。」


っ!?

そう言って笑う彼女の姿が、私の視界から次第に、緩やかに消えていく。


やっぱり彼女も魔法少女!しかし、これは一体………何の能力が……



「うっ!?……かはっ…!」


そんなことを考える暇もなく、どこからともなく腹部にズキリ、痛みが襲う。

なんだ、今の。確かに攻撃を受けた。でも受けるまで何一つ分からなかった。



これは不味い………今すぐ対処法を



?……どうして地面に倒れて……


ゴトっ。血のついたダンベルが目の前を転がる。

ああ、これで頭を殴られたのか。

それに気付くと同時に、目の前が暗転し、私の意識はそこで途絶えた。

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