<<< 愛(2)

女子寮の3階、そこの右から3番目にある303号室の扉の前に立つ。


ここは件の桐村さんの部屋だ。


「ここに居ればいいのですが……」


「そうだね。もし、戦闘になったら………」


「分かってます。その時は私が。」



決めつけは良くないがよもすれば、何せ誘拐犯な訳かもしれない訳で、メアリー・スーにもついてきてもらった。


少し緊張しながらノックする。


「はぁい。どなたですかぁ?」


甘ったるいような声が帰ってくる。

どうやら、桐村さんは居るらしい。


「橘です。少し部屋を見せて欲しいんだけど……大丈夫かな?」


「勿論大丈夫ですよぉ。今開けますねぇ。」


扉を開けて桐村さんが出てくる。

資料の黒髪とは違うから、染めたらしい銀のボブカットの毛先を少し弄りつつ、笑顔は絶やさない。



「先生、副会長さん、どうぞぉ。すぐお茶沸かしますねぇ。」


ニコニコしながら、突然訪ねてきた私と鈴香さんに嫌な顔も、変な反応も少しも見せず、丁寧に応対して部屋へ招き入れる。


普通、誘拐犯じゃないにしろ、急に部屋まで教師と生徒会副会長が尋ねて来ればなんらかぎょっとしたりとか、何かあるはずだ。




でも彼女はニコニコしてばかり。

何というか、少し不気味だ。

どっちにも失礼かもしんないけど、魔法少女課の杉崎さんみたいな雰囲気に近いかもしれない。



「ごめんなさい。今、お茶菓子切らしてて、お茶しか出せませんけどぉ、ゆぅっくりして下さいね。」


机に私と2人に今沸かしたてだろう、中々高そうな緑茶を振る舞うと、桐村さんも座り、両手を顎に当てるみたいにして、私たちの反応を窺うように微笑む。



無言が続く。どうしたものか。

そんなことを考えるうちにお茶を飲み干したメアリー・スーが口を開いた。


「単刀直入に聞きます。桐村 愛さん。あなたは中等部の三山君が今どこに居るか……どこに誘拐されているか、ご存知ですか。」


あまりに急で飲んでたお茶を吹き出しかけた。

単刀直入すぎでしょ。


「うーん、知りませんねぇ。お力になれずごめんなさぁい。でもぉ……一つ知ってることはありますよぉ。この部屋には居ないってことです。」


そう言って、鈴香さんの鋭い眼力をひらりとかわす様に笑顔のまま、不敵に答えると、確かめてみますぅ?と右側の壁に寄り添う様にして立ち、部屋の奥を見せた。


「それでは遠慮なく。」



鈴香さんの勢いにどぎまぎさせられつつ、部屋の中を見てみるけど誰かがいた形跡とかは無さそうだ。



「何か、ありましたぁ?」


「いや……何も無かったよ。ごめんね、急に押しかけて。部屋の中まで見せてもらっちゃって。あ、お茶美味しかったよ。ありがとね。」


「いえいえ、良かったらまた寄ってくださいねぇ。」



にこやかに微笑む彼女に背を向けて部屋を出る。


「うーん、振り出しに戻っちゃったかぁ。」


また徹夜と考えると、あー、ヤダヤダ。

溜息を吐いて、準備室に戻ろうとすると、どうしてか鈴香さんは今出た部屋をじっと見つめる。


「いや、もう調べる必要はないかと。誘拐犯は………彼女、桐村愛でしょう。」


メアリー・スーが確信を持ったようにそう呟いた。




ーーーーー桐村sideーーーーー


もう行ったかなぁ。

軽い足取りで右隣、304の部屋に入る。


ここの部屋の子は家族が引っ越しして家と学校の距離がかなり近くなったから、今はもう自宅通いになったから居ない。



つまりな訳で………


「うふふ、駿ちゃん、お待たせぇ。お姉ちゃんが来ましたよぉ。」



ってこと、ふふっ。


それに、私の能力もあるし、居場所はばれっこない。

先生も副会長さんも残念でしたねぇ。


でも……誘拐犯だってことは副会長さんにはバレちゃったかもです。どうしよっかなぁ〜。



まっ、後で考えればいい話です。

今はデザートを楽しまなきゃ♡


「んー!んん!!」


「うふふ、今日も楽しみましょうねぇ。」


蜜月の時間のスタートです♡



ーーーーーーーーーー


あれから、2時間近く駿くんを楽しんで自室に戻ると、またノックがしました。


「ねぇ……愛ちゃん、居る?」


あら、この声、ミチルちゃん?それに何やら浮かない声。

すぐに部屋に通して、ハーブティーを出します。


「どうしましたぁ?そんな暗ぁい顔して。」


「あ、そんな暗い顔してたかな。アハハ。」


から元気。それぐらい親友ですから分かります。


「もしかして、愛しの『センセェ』のこと?」


「それも……そうなんだけど。昨日、ノッカーアッパーが私の部屋に出て来て。プレゼントだって魔法少女にされて、それで、センセェに言おうかと思ったけど、鈴香さんと忙しそうで、それで……それで」



あゝ、成程。ミチルちゃんも私と同じ、恋煩いやんですね。


「分かりました、ミチルちゃん。少し着いてきてくれますかぁ?」


「え、うん。分かった。」




304号室を空けて、私は彼女を特別に中へ入れました。


「えっ、この子」


「はい。駿くんです。ミチルちゃん愛しのセンセェさんと副会長さんが探してるね。」


私は隣の部屋にいる愛子を見せる、つまり秘密を共有します。


「な、こんなこと……したらいけないって。」


「ホントに?愛故の行動ですよ?愛以上に大切なことってぇ、ありますかぁ?」


私はミチルちゃんの首にそっと腕を回して、ゆっくりゆぅっくり耳元で囁きます


「嫉妬してるんでしょ?副会長さん、いや鈴香に。だったらぁ………私と一緒に彼女を消しちゃいませんか?そうすれば愛しのセンセェはミチルちゃんの……ものになるんですよ。折角愛のこもったプレゼントを貰ったんですからぁ………センセェをものにしましょ?私も手伝いますよ。」



「そう……だよね。」


「そうですよ。愛を、センセェに見せてあげましょう。鈴香さんには消えてもらってね♡」


「うん………私……やる。」



うふふ………やっぱり愛は無敵……ですね。

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