【橘視点】秘密の恋心

「セーンセェっ、ここ座ってもいい?」


「あ、南原さん。いいよ。」


いつも通り端っこのほうのテーブルで、1番安いワカメ蕎麦を食べていると、南原さんがにこやかにトレーを置いた。


私の向かい………ではなく横の席に座る彼女。チラリと横を見ると頬が少し染まっている。


やっぱり、勘違いじゃない。

南原さんは私に好意を持っているらしい。

うーん………好意自体は嬉しいけど、どうしたもんかな。


私と彼女は『教師と生徒』だ。

その関係性は彼女が卒業しても変わり得ない、私はそう思う。

だから、彼女の気持ちに応えるのは難しい。


それに……こんな芋女と南原さんじゃ釣り合いが取れない。私なんかに青春を使っちゃ勿体無いよ。



「センセェ、本当にワカメ蕎麦好きだね。」


「好きっていうか、懐具合だよ。あとは蕎麦って疲れて食欲無さげな時でも食べやすいから。」


まぁ、何せ昨日も終電一本前だったしね。

お腹減るとか以前に元気なし。

それに教師なんて、いくら残業しても残業代付かないからなぁ。


「疲れてるって………やっぱり魔法少女のことで?」


「あはは……まぁね。」



もうノッカーアッパーの噂は女子の寮生なら誰でも知ってるまでになっている。

だのに、こっちから正体へのアプローチはちっともできていない。

お陰で、魔法少女でもない生徒にまで心配かけさせちゃってる。

いやはやダメだなぁ……



そんなことを考えつつ、蕎麦を啜っているとメアリー・スーがコチラのテーブルへ歩いてくる。

その時、少し南原さんの表情が曇った。


「橘先生、牧さんが至急数学準備室へ来て欲しいと。」


「あー、分かった。これ食べ終わったらすぐ行くね。」


「分かりました。それなら、ここで待ってます。」


鈴香さんの言葉に適当に相槌を打って、残った蕎麦を少し行儀悪いが一気にかきこむ。



「じゃあ、行こうか。南原さん、またね。」


「あ、うん……頑張ってね」


南原さんはいつものように笑うけれど、少し無理しているように見えた。


はぁ、これ以上彼女をヤキモキさせるのは悪いなあ。

どんな内容か知らないけど、今回の仕事が片付いたら彼女の恋心と決着を付けよう。



メアリー・スーの後を着いていきながら、少しでも彼女を傷付けない断り文句を考えようとしたけど、結局思いつくことなく数学準備室へ着いてしまった。

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