幕間

ティータイムと落とし物

「おーい、いつき!コッチ、コッチ!」


待ち合わせ場所のカフェへ時間5分前に着くと、もう来ていたらしく、私に向かってブンブンと手を振る。


「ごめん、さやか。待たせた?」


「いやいや、全然。アタシもさっき来たとこだしさ、気にしないでよ」


私は待ち合わせ相手のさやかに謝ると、彼女は気にするなと言って、先に頼んでいたらしいアップルティーと少し口に含んだ。


「にしても大変だったね、いつき。何か通り魔?と戦ったんでしょ。」


「まぁ……ね。でも、私は殆ど何もしてない。倒せたのは、牧先生と溝呂木先輩のお陰。」


私が溝呂木先輩の名前を出すと、さやかはうげっと嫌そうな顔をする。


「何か、先輩とあったの?」


「そりゃ色々とね。中等部の頃に同じ部屋だったんだけど、アタシに『ミキミキ』なんてあだ名付けて、広めたのあの人なんだよ。『さやか』って名前と、魔法少女なのと、この髪色からさ………たく、アタシの苗字は『川合』だし、入院中の音楽家の想い人なんて居ないっての!!ホント、いつも名前で呼んでくれる同期なんていつきぐらいなもんだよ。」


そういって嫌そうに、長い青みがかった黒髪の毛先をくるくると指でロールするように弄って溜息を吐く。


「ああ、ゴメン。話逸れちゃったね。で、アタシも魔法少女の知り合いとかに聞いてみたけど、他の学校だと『ノッカーアッパー』騒ぎは起こってなさそうだね。翠蘭ウチだけかな。」


「そう……ありがと、さやか。参考になった。」


ノッカーアッパーが現れるのは翠蘭高校だけ……か。

それだと、やっぱり学園に容易に出入りできる人物に限られる。


竜胆マキナ………通り魔では無かったけど、やっぱりあの人は怪しい。目を離さないようにしないと。



「あ、夏木さんだ。」


さやかが入り口を眺めて、ボソッと呟くので、私も入り口の方を見る。


肩までの茶髪にそばかすの目立つ、翠蘭学園の制服を来た女性がおずおずと人目を気にするようにカフェの扉をゆっくり開けていた。

あれだと、逆に目立ちそうだけど、そう思ったらやっぱり逆に人目を引いていた。


ロボットみたく、ガチガチにすこし挙動不審になりながら、最奥の二人掛けのテーブルへ座る。


その時、私の席の前でハンカチを落とした。



私はそれを拾って、夏木さんの元へ。


「あの、これ落とし」


「ひょえっ、あぁ、すいません!今すぐ退きます!!」


私の言葉を聞かずに、夏木さんは忙しなくカフェを出て行ってしまった。


どうしようか、そう思いつつ夏木さんのハンカチを持って席に戻る。


「あちゃー、今日はだったかぁ。」


「ビクビク日?」


さやかはアップルティーを飲みながら、クスッと笑う。


「ああ、いつきはクラス違うもんね。アタシ、夏木さんと同じクラスなんだけどさあ、いつもは本の虫で物静かな感じなんだけど、月に一回ぐらいかな、たまにな反応するんだよね。で、今日はビクビク日。」


「そうなんだ………。」



それなら、仕方ない……のだろうか?

取り敢えず、明後日の学校の日に夏樹さんへ渡しに行こう。

そう思い、出来るだけ丁寧にハンカチを鞄にしまった。

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