蜃気楼に追われて(1)
「なるほどね……
「そ……そうです。先生、ごめんなさい。」
花園さんは怯えたように私に謝罪する。
そんなに縮こまらなくても怒ってないってば。
「あ、ごめん。ちょっと電話だ。出るね。」
『もしもし!橘先生!隣にいる竜胆マキナはっ』
「偽物でしょ。大丈夫だよ、花園さんが変身してたってのは本人から教えてもらったから。」
『そ、そうなんですか。……良かったです。』
慌てていた鈴鹿さんの声が落ち着きを取り戻していく。
「あー、鈴鹿さん。それで通り魔は分かったよ。水面彼方って大学の1回生だった。バドの同好会に入ってるらしいから大学棟のほうの体育館を見に行って、居たら梔子さんたちに電話してもらっていいかな?」
『分かりました。すぐ見てきます。』
鈴鹿さんに水面は任せ、電話を切る。
今は目の前の彼女との話が大事だ。
ずっと怯えるみたいに……………いくら自分が怒られるからってこんなに萎縮するだろうか
いや、いくらなんでも怯え過ぎだ。
まさか………
電話が鳴る。鈴鹿さんだ。嫌な予感がする。
『先生、今日は水面彼方は休んでるそうで、すぐに帰ったと同好会のメンバーが。』
嫌な予感が的中した。
「先生………ほんとにごめんなさい。」
花園さんがビクビク震えて、怯えながら私に本当に申し訳なさそうに謝る。
ヤバい!
すぐに花園さんから遠ざかると、次の瞬間目の前に、以前見たフード女が壁を通り抜けるようにしてカッターナイフを持って飛び出してきた。
危なかった。離れるのが遅かったら斬りかかられていたことだろう。
飛び出した拍子にフードが後ろに流れ、顔と髪が顕になる。水色がかった薄い灰色のサイドテールと、ギラギラした碧眼。
調べていた時に資料で見た姿と同じ。目の前にいるのは水面彼方本人のようだ。
「先生、極力早く諦めて下さい。こうやってるのも貴重な人生の夏休みが削れてくからタダじゃないんでね。」
そう言いながら、カッターナイフをジャグリングするように右手に左手にと、一人でパスしてく。
ヤバい。取り敢えず逃げなくちゃ……
『先生!?どうしました?』
「水面彼方に追われてる!!3丁目の交差点だから速く来て!!」
私はメアリー・スーへと電話越しに叫びながら、運動不足の私なら明日は筋肉痛で全身痛くなるだろうなと微かに頭の中に思いながら、こけそうになりながらも急いで逃げるために走った。
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