『ある女子大生の独白』

エスカレーター式に大学へ進学し、ようやく親から一人暮らしが許された。


長かった、息苦しい鬱屈した生活から解放された。

これで、ようやく『遊び』を再開できる………



嬉しさからか、私は無意識に左手の甲にある昔付いた傷を、その感触を確かめるようにさすっていた。



ーーーーーーーーーー



一人暮らしを始めて2ヶ月、早々に『遊び』に走ってしまった。

半年は待ってから始める予定だったけど、仕方ない。


あの3年で腐ってしまった私の心は、あまりにも急いで再生を求めていたらしい。


味に例えるなら酸味だろうか。ゾクゾクと、心が洗濯されていくような晴れやかな気分を味わった。

やっぱり、『遊び』の後のこの心地良さが堪らない。



あぁ、次はいつやろう。そればかりが頭に浮かぶ。

私は周りから見たら、異常者だとか、サイコパスだとか言われる異常者なのだろう。


心を腐らせた3年間のうちで、どうにか辞めておこうかと思ったけど………あぁ、それでも、心の快楽への求めには抗えない。


さぁ、次はいつか考えなくちゃ………



ーーーーーーーーーー



3回目の最中、邪魔をされた。

全く運の悪いことに、翠嵐の教師2人に。

それに……確か橘で合ってたと思うけど、あの教師に左手の傷を見られたかもしれない。


今回は生憎の雨でファンデーションが落ちてしまっていた筈だ。ほぼ確実に見られたと思って差し支えないだろう。



我ながらなんとまぁバカな凡ミスだ。こんな日にするんじゃなかった。


そうは分かっていても、欲望に抗えなかった。

あんな暗闇で、人も居ない場所に1人、女子中学生が無防備に携帯なんか見て立っていたら、つい抑えられなかった。



まぁ、なってしまったものは仕方あるまい。

どうにかして橘を私の見える範囲から退かさなければ………………



ーーーーーーーーーー



いい相手を偶然、見つけた。

確か、彼女は魔法少女だった筈。


これは使える。私は彼女のあとを付け、1人になった所で肩に手を伸ばした。


振り返る彼女、私にはまだ気付いていないのか、なんですか、などと迷惑そうにしている。



「花園美雨さんだよね………3年ぶり」



私の声を聴いてようやく思い出したらしい。

瞬間、彼女はビクビク怯えて、過呼吸気味になりだした。


「落ち着いて………ほら、ね。」


そう声をかけて落ち着かせようとしても、彼女の震えは止まらず、泣きそうになっている。


あぁ、面倒だな。


「落ち着け。」


両肩を手で思い切り掴んで、彼女の目と視線を合わせ、強めに言葉をかけてやると、彼女はみるみる小さくなり、すんと落ち着いてくれた。



「ありがとう。やっと落ち着いてくれた。」


「わ、わた、わたしにな、何の用…ですか……?」


「ああ、大丈夫。3年前みたいなことはしないよ。今の君には興味無いし。ただ、ちょっと手を貸して欲しいんだよね……………橘教諭を消すのに。」

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