ペルソナ

竜胆さん様様で、私を付け狙う通り魔の脅威は大丈夫になったものの、依然として通り魔の正体には髪の毛一本の手掛かりすら得られていない。


はぁ……どうしたもんかなぁ。



溜息を吐きつつ、昼休みになったので数学準備室へ戻ろうとすると先生、そう声をかけられた。


「夏木さん。偉いね、また質問しに来たの?」


そう言うと夏木さんは一瞬どこか不思議そうな顔をする。

なんだ、何か変な事言った?


「……えっと、あの、先生。ここが分からなくて。」


「はいはい。これね、微積で面積を………あれ、ここって前にも質問しに来たよね?」


私の言葉に、夏木さんは今度は面食らったような顔をした。


「先生、さっきから何言ってるんですか?私、この問題を先生に質問するの初めてです。」


うそ、じゃあ電圧計が落ちてきた時の夏木さんって………………



「ごめん、夏木さん!急用を思い出したから、また質問は今度にして!」


「えっ?先生、ちょっと待って」


夏木さんには悪いが、私は一目散に数学準備室へ走った。

とにかく、今は資料が見たい。



数学準備室へ着くと勢いよく扉を開け閉めして、カバンに入れておいた、梔子さんから貰った通り魔事件のことを纏めた冊子を急いでめくっていく。


あった!………これで分かるかも知れない、通り魔の正体が。



ーーーーーーーーーー



「いやぁ、今日もすみません。放課後すぐに帰りの用心棒をしてもらっちゃって。」


「いやいや、どうってことないですよ。別にアタシはお酒奢ってもらってますし。」


竜胆さんに改めて礼を言うと、彼女はケラケラと笑って気にしないでと語る。


「痛っ!」


私は側溝のグレーチングにヒールを引っ掛けるようにして倒れてしまう。


「ちょっと、ちょっと、先生、大丈夫ですか?」


こけた私に竜胆さんが手を差し伸べた。



ーーーーー〈鈴香side〉ーーーーー



「竜胆さん、少し良いですか?」


私と牧さんは花の手入れに、左手でジョウロを持って水をかけていた竜胆さんへ声を掛けた。


「んー、どしたの?」


竜胆さんはコチラを見向きもせず、花に水をあげ続ける。


「単刀直入に聞きます。竜胆さん、あなたが橘先生の帰りに付き合って用心棒を務めるのは、信頼を勝ち取り、隙を狙うため………そうではありませんか?通り魔としての自分を見られた橘先生を消すために」



私の言葉にようやく竜胆さんはコチラへ向き、噴き出すように大声で笑い始めました。


一体、何を笑って………バレて逃げ場がないから開き直り?



「面白いこと言うね、君。でもさぁ、橘先生の用心棒なんてした事ないよ。あぁ、一回だけ魔法少女グループに囲まれてたの助けたことはあったっけ?」


「な、何を根拠にそんなことを!」


「君さ、これだと思うと突っ走っちゃう癖あるでしょ?ちゃんと調べた?アタシの就業時間。午後0時から、1時間の休憩ありで、午後9時まで、橘先生の終業時間に間に合うとホントに思う?」


そんな……まさか…!

それじゃあ……………いつも橘先生と帰っていた「竜胆マキナ」は一体………



ーーーーー〈橘side〉ーーーーー



「右手。」


私の言葉に、えっ、竜胆さんは意味が分からないという感じだ。


だったらもう一回言おう。


「今、私を起こそうとして右手を差し伸べたよね。こういう咄嗟の行動ってさ基本は本来の自分が出ちゃうから。竜胆さんはさ、生粋の左利きなんだよ。」


「………………」


私の言葉に「竜胆さん」の返事はない。



「多分、私の推測だけどさ、恐怖で支配されてるんだよね。まぁ、そりゃそうだよ。何せ自分を襲った犯人と数年ぶりにウチの大学で再開しちゃったわけだからさ。だよね………通り魔事件の被害者の一人で、『変身』の能力を持つ魔法少女………花園美雨さん?」



私の言葉に、「竜胆さん」はまた何も答えず、パッと一瞬輝いて、先程まで居た「竜胆さん」に代わって、恐怖と不安の入り混ざった苦い顔をしたピンク髪のツインテールの女子大生、花園美雨さんが立っていた。

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