あぁ、薔薇飾りのデウス・エクス・マキナ様

あー頭が痛い。

私を狙う通り魔も、最強の用務員さんにしたって、いやはやそもそも魔法少女自体が私のモブ人生に関わりうるものじゃないのだ。それだって言うのに………もー、なんなんだか。



あー無理無理。なんだかもう、どうしても今日は残業する気になれない。

私はここ3ヶ月ほど遠い存在であった定時退勤をした。


ーーーーーーーーーー


家への最寄駅を目指して近道の裏道を通っていると、違和感にかられた。

いつにも増して足音が多い。それだけで気もそぞろだ。

確かめてみる意味も込めて、立ち止まってみた。


すると、足音の主だろう半数の5人の高校生?ぐらいの少女たちが私を抜かして前に立ち塞がり、残り半分が私の後ろを通せんぼ。


最悪っ………やらかした、あーあ。



「翠嵐学園の橘先生であってるよね。悪いけど、ここでアタシらにボコされてくんないかな?」


リーダーっぽい茶髪のツインテール少女がポケットに手を突っ込みながら、私に声をかける。


否定しようか、それとも頷いて、縋ってみるか……………よし、決めた。



「そうです。橘ですよっ!!」


鞄にパンパンに詰まった資料を上にばら撒く。

視線がそっちに行った。

今だ!!


逃げる!!逃げるぞ!!


傍の路地に急いで駆け込む。

すぐに追いかけてくる少女グループ。


後ろから何か投擲するなり、能力を打つなりするが、お生憎様、私には効かないよ。



よし、もうすぐ駅前。そこなら人混みに紛れられる。

そう思ったのが運の尽き、路地から飛び出した所で人とぶつかってしまった。


「疲れるんで鬼ごっこも、これで終わりにしましょうよ。」


追いつかれてしまった。

油断大敵、心に刻めと裏道に入った頃の自分にこんこんと説教してやりたい気分だ。


「あれ、誰かと思ったら橘先生じゃないですか?まーた面倒くさいこと巻き込まれてますね。」


「竜胆さん!た、助けて!襲われてて!」


幸運だ。ぎりぎりのとこでチャンスの女神の前髪を掴めたらしい。


「いいですよ。でもその代わり、今日どっかで酒奢ってくださいよ。」


「奢る!奢る!だからお願い!」


「あいよー、了解しましたぁ。」


竜胆さんは手でOKマークをつくると、10人の前に立ち塞がる。


「なに、オバサン。アタシらと喧嘩するの?」


「まぁね。何せ、飲み代出してもらえるかさ。」


そうのんびり言いながら、またいつ出したのか竜胆さんは大鎌を肩に掛けていた。


「じゃあ、手加減お願いね〜。」


そう言うが早いか、竜胆さんはいきなり最後列の1人に肉薄して左手で殴り飛ばした。


ーーーーーーーーーー


「ふぃー、肩凝ったぁ。んじゃ、飲み行きましょっか?」


戦闘は20分程度で終わった。

結果は勿論、竜胆さんの大勝。


あぁ、竜胆さんは薔薇飾りのデウス・エクス・マキナ様だ。


ーーーーーーーーーー


それから、私は竜胆さんに頼んで、定時になったら一緒に帰ってもらうことにした。

まぁ、3回に1回は飲みを集られるので、懐が冷えるという問題はあるが、これで5回もトラブルから助けられてるので儲けもんだろう。


いやぁ〜、本当にデウス・エクス・真紀奈様々だ。


ーーーーー〈鈴香side〉ーーーーー


「それで、牧さん。あの用務員の竜胆さんのこと、何か分かりましたか?」


今日も早帰りで、橘先生の居ない放課後の数学準備室で牧さんに尋ねる。


「はい。竜胆マキナ、どうやら彼女は3年前までこっちに居て、通り魔が収束したのと同じ頃に地元の鳥取へ戻ったみたいなんです。」


「そうですか。調べていただいてありがとうございます。」


3年前か。

やっぱりあの用務員、竜胆マキナには何かある。


通り魔トラブルが起きてから、彼女といる時ばかり橘先生の周りで、先生を狙う動きがある。



竜胆マキナの自作自演。

私の頭はその可能性を大きく感じていた。

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