新たな珍客

『そうなの………分かった、とりあえず私もそっち行くよ。』


「お願いします。睦さんも気を付けて」


電話を切る。

あぁ、ようやく鼓動が落ち着いてきた。


この前見たあのフード女の姿が頭をよぎる。

はぁ、やだやだ。通り魔なんかに関わるのはゴメンだよ。


ーーーーーーーーーー


「橘ちゃーん!大丈夫?」


「睦さん、すいません。来てもらって。」


「いや、いいよ。いいよ。私にも関わる話だしさ。」


睦さんに永井ゼミの部屋から落ちてきた……いや、落とされた電圧計の話をし、凍りついた電圧計を見せる。


「はぁー、話は聞いてたけどホントに勝手に凍らす能力なんだね、橘ちゃん。」


「いや、そこじゃなくて!問題なのは普通じゃ落とせない電圧計をなんらか落とした犯人がいるってことですよ!」


「分かってるって………まぁ、この前のアイツがそうだって可能性は限りなく高いよね。でも…さ、そうなると………学校に出入りできる人間があの通り魔ってことになる……例えば」


「搬入業者、用務員などの職員、教師………学生」


はぁ、最悪だ。

恐らく犯人は魔法少女で、しかも間近に潜んでるとは。


あーやだやだ、頭を掻く。

ただでさえノッカーアッパーなんて謎の存在が潜んでるってのに、魔法少女の通り魔まで……手に追えないっての。


まったく、翠嵐学園ここは伏魔殿か何かかよ。



「橘ちゃん、また忙しくなるね。この前溝呂木の件が終わったばっかりだってのに。」


溜息をついた。

そうだ、犯人は魔法少女。

つまるところ、魔法少女担当の私は探られつつ、通り魔犯を探ることになるわけだ。


これからきっとデスマーチだろうなぁ。

空は快晴。でも、私の心の天気は曇天だ。


ーーーーーーーーーー


まぁ、案の定私は忙しくなった。

ただそれは魔法少女担当としての業務だけでなく、通り魔を追う魔法少女課への調査協力も加わっている。




電圧計の一件のあと、話を一応連絡すると、魔法少女課の梔子さん、杉崎さんがすぐ学園を訪ねてきて、牧さん、睦さんを含め話をすることになった。


「やっぱり現れましたか、通り魔。」


「………何か見ました?」


「いえ、突然電圧計が落ちてきて、その後すぐ上を見ましたけど窓に人影は見えませんでした。それに部屋の鍵も閉まってましたし。」


私の発言に梔子さんは手癖なのか、手帳を見ずにペラペラ何度もめくり、そうしてメモが3巡したころ、口を開いた。


「……通り抜け、もしくは瞬間移動。あとはPK(念動力)。」


「前2人は居ませんね。3番目は立花さんですけど……違うのは分かりきってますから、検討つかずですか。厄介ですね。牧さん、不審者は見てませんか?」


「見てないですね。私も橘先生の周りには基本的に居ますが、怪しい雰囲気は感じてません。先輩、それに橘先生もすみません、私がいながら橘先生を危険に晒してしまって。」


牧さんが深々と頭を下げる。

そんな、謝らなくてもいいのに。

気を抜いて、牧さんを連れてかなかったのは私なわけだし。


「……………別に牧が罪悪感感じなくていい。この件に関してはボクらの調査の難航が招いたことだから。」


梔子さんがフォローするが、牧さんはまだ悔やんで下を向いている。


「牧さんだっけ?今回は何も無かったんだし、もういいじゃん。次、頑張ればさ。」


「……はい。次は必ず橘先生と遠野先生を守ります。」


睦さんが肩をポンポンと叩き、励ましの言葉をかけるとようやく、牧さんは顔を上げ、拳に力を込めて強く心意気を新たにする。


「では、橘先生。日々の業務がある中、申し訳ありませんが学園へ入校できる人物の調査への協力よろしくお願いします。」


「分かりました。」



と、話し合いがあり、学園への出入り業者含めてこれまでのノッカーアッパー関連以外の学生や教師への調査が仕事に増えた。

しかし、まぁ、これが大変なもんで。

肩は凝るわ、終わりが見えないわ。

ここ3日、半分泊まりのようなことになっている。



そんなわけで寝ぼけ眼で、大欠伸をしながら、六限目LHRの体育館での特別講義の準備のため、昼休みに体育館へ向かう。


瞬間、目の前から突然鉄アレイが飛んできた。


はぁっ!?あまりの急なことに目が冴えた。

もう2mぐらいまで鉄アレイは近付いている。

普通ならマズイ……でも、大丈夫だ。きっと氷が自動発動する。

それなら下手に動かないほうがいい。


そう思い、留まる私の前に、ふらふら1人、誰かが出てきた。


嘘でしょ!


「危ない!!」


叫ぶが、鉄アレイのスピード的に回避は不可能だ。

不幸なイメージが頭を走り、きゅっと目を瞑る。


しかし、そんなイメージは現実にならなかった。


目の前に飛び出して来た、薄い緑色の作業着を着た、ボサボサの長い金髪の女性は、鉄アレイを左手で掴み取っていた。


「危なかったですね。」


「あ、えと」


「あ、もしかして先生ですか?アタシ、今日からここの用務員になりました、 です。」


マジか……あのスピードの鉄アレイを片手で受け止めるなんて何者なんだ、この人は。


「何ですかジーっと見て、もしかしてアタシに惚れちゃいました?」


イタズラな笑みを浮かべる竜胆さん。

いや、マジで何者なの!?

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