通り魔注意報
「と、言うことで警察の方より現在、中学生を狙った通り魔が発生しているとのことです。教師の皆さんは中等部、高等部どちらの担当に関わらず、被害を防ぐよう、生徒たちへよくよく注意を促してください。」
朝の朝礼で教頭が可能な限り声を張って、通り魔の注意喚起をする。
にしても、あの
「他に連絡事項がある先生はいらっしゃいますか?………誰もいないようですね、それでは今日の朝礼を終わりたいと思います。では、解散。」
はぁ〜ぁ、やっと終わった。
溝呂木の起こした『百童話夜行』の後始末で連日残業の私には、朝っぱらからのあまり身のない朝礼は雨音のASMRみたく、睡眠導入音声に等しい。
「ねぇ、橘さん。今日、良かったら飲み行かない?最近、魔法少女の話で大変でしょ。たまには息抜きしなきゃ、やってらんないよ?」
さて数学準備室へ向かおうと立ち上がると、横の席であり、同期の
ありがたい申し出だ。
一夜ぐらい学生………いや、魔法少女のことなど忘れてパァッと飲みたいと思ってたし。
「おお、是非是非!遠野先生、丁度飲み行きたいと思ってたところなんですよ。それじゃあ終業時間になったら地学準備室に呼びに来ますね。」
「あいよー。じゃあ、また放課後。」
私は睦さんと別れ、数学準備室へ向かった。
いやぁ、今夜が楽しみだ。明日は休校だし、たらふく呑んじゃろーっと。
ーーーーーーーーーー
そして夜。
「じゃあ、取り敢えず生二つ。大ジョッキでね。」
私と睦さんは海鮮系の居酒屋に居た。
なんでも、ここは睦さんのイチオシらしい。
「いやぁ、橘ちゃんと呑むなんて一月ぶりぐらいじゃない?前は割と週一ぐらいで行ってたってのに………ホントっ、魔法少女係に選ばれるとろくなことないね。」
全くだ。この魔法少女係になってから残業続き……残業という存在に抱きつかれている気になる。
「あ、そーいやさぁ、橘ちゃんも魔法少女なったんだって?いやぁ……28歳で魔法少女デビューかぁ。テレビで特集組まれるかもよ。」
「やめてくださいよ。てか、睦さんも魔法少女なんだから、これ、先輩から後輩へのイビリですよ。イビリ!」
「あはは、そんな大袈裟な。でも、ホントに謎だよねぇ、ノッカー何ちゃら。」
「ノッカーアッパーですよ。」
「あぁ、それそれ。私さ、橘ちゃんから言われた通り、子供の頃から魔法少女やってるけどそんな話ちっとも聞いたことないよ。何なんだろうね?幽霊、幽霊とか?ほらさ、幽霊とか!」
そんな感じで最近のゴタゴタと苦労話を酒の肴にぐいぐい飲んだ私と睦さん。
「よしゃ、二件目行くぞ!二件目!」
「イェーイ!ゴーゴーむつみ!!ゴーゴー!!」
私も睦さんもベロベロで、赤ら顔になりながら、多少ふらつきつつ二件目へ向かって夜道を歩く。
日が変わる前には解散の予定だったが、生憎泥酔していて時間感覚が飛んでいるので今が何時か分かりゃーせん。
「きゃあーー!!」
そんな折、悲鳴が聞こえた。
多分、中学生ぐらい。パッと朝の朝礼のしゃがれ声が再生される。
一気にぐーっと酔いが覚めていく。
睦さんも同じらしい。
「行こう、橘先生!」
「はい!」
一目散に悲鳴のした高架下へ走る。
そこに居たのは、血を流す中学生とフードを深く被った大学生くらいの女。
通り魔か?
向こうはまだこっちに気付いていない。
「ロックシャワー!」
睦さんが更に少女を傷つけんとする女の腕目掛けて、小さな沢山の岩を飛ばす。
「っ!?」
「次は顔に当てるよ!!」
「……クソ………」
岩は女の腕に当たり、ナイフを落とす。
動揺する女に、睦さんは堂々とした様子で声をかけると、女はナイフを拾い、すぐに逃げていく。
「橘ちゃん、救急車!」
「今、呼びました。」
「ナイス!!しかし……肝冷えたぁ………応戦されたらどうしようかと思ったわ。」
「アイツが噂の通り魔なんですかね?……それにしても魔法少女の睦先輩、カッコよかったですよ!」
「おいおい、よせやい!」
通り魔にあったかもしれない………その不安で早まる鼓動を抑えるように睦さんと軽口を叩きつつ、救急車が来るのを待つ。
このあと、事情を聞かれるのだろうか?
やったのは女。それ以外、何も分からない。
顔はマスクとフードで少しも見えなかったし。
あぁ、でも……そう言えば見間違いかもしれないけど、左手に何か傷が見えたな。
そんなことを考えていると救急車、警察車両とともに、もう一台別の軽自動車が走ってきて、私らの前に来た。
「………橘先生……でしたよね。」
「これはこれは橘先生、ご無沙汰しています。」
睦さんが知り合いかと私に目線を送ってきたので頷く。
車から降りてきたのは魔法少女課の梔子さんと杉崎さんだった。
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