椅子取りゲームにご注意を
「チッ………ほんま厄介やなぁ!」
溝呂木は舌打ちし、倒れた棚の山をシーソーのように飛び、鈴香さんの頭を狙って拳をブンと振るう。
「葦月には手を出させません!」
美菜さんが鈴香さんの前に立ち、拳を両手でガードするが後ろへジリジリと押されていく。
なんて馬鹿力だ。あいつ、パワーまであるのか。
「はよ退かんかいな、緑園寺!おぐっ!?」
ガードした美菜さんへダメ押しにもう一発殴ろうとするも、後ろから近付いていた牧さんにタックルをくらい一階へ落ちる。
「はぁ、はぁ、大丈夫ですか美菜さん!」
やっぱりプロは凄いな、足が折れてるってのに
「チィっ!これでもくらってときぃや!」
一階へ落とされた溝呂木は本棚から何か本を取っており、椅子へ座るとすぐに食わせる。
ハエトリグサが口を開けるとゴオォと強い風が吹き上がり、瞬く間に炎が広がっていく。
3人は迫り来る炎をかわしながら、鈴香さんがまたも椅子目掛けて矢を放つと跳び上がって避け、3人へ地面へ落ちた本棚を腕力で無理矢理持ち上げ、ぶん投げる。
しかし妙だ。また、ハエトリグサがコスチュームに仕舞われている。
それに今とかも何でわざわざ能力を使わないのか………
⦅先生、無事ですか!⦆
そんなことを考えていると、突然頭の中に美菜さんの言葉が響いた。
⦅え、な、何これ?⦆
⦅先生、良かった!無事だったんですね!これは私の能力のテレパシーです。溝呂木先輩に動きを悟られないよう会話はテレパシーで私が繋ぎますから、皆んなに伝えることがあれば言ってください。⦆
⦅オッケー、分かったよ、美菜さん。⦆
美菜さんに返答する間も、溝呂木が上の階へ上りながら、力任せに散乱した本棚やテーブルを投げて、荒らしまわる。
脅威的な攻撃だ。でも、能力を使ったほうがずっと脅威だ。しかし、彼女はそれを使わない。
力の温存?
でも、そうだとすると最初に溝呂木取ってきてた本の数が多すぎる。確か10冊かそれ以上あった。
普通、私たち2人を倒すのなら、休憩を挟まず連続して使える量を持ってくる筈だ。
それに立つと、一切あのハエトリグサみたいな装飾が出てこなくなる。
そう言えば、私と牧さん2人の時も椅子に座るとアレが背中から伸びてきていた。
ということは、溝呂木がハエトリグサを出せるのは椅子に座ってる時だけなんじゃ。
それなら………
⦅椅子だ!多分、椅子に座ることが前提になった能力っぽい!兎に角、椅子を捨てるか、壊して!みんなにもこれ伝えられる?⦆
⦅はい!⦆
3人は2階と3階の無事な椅子たちを落としたりして壊し、更に鈴香さんが時折り一階の無事な椅子にも矢を突き立てていく。
「させまへんで!ちっ、邪魔やな!」
それを邪魔しようとする溝呂木だったが、メアリー・スーの矢に動きを制限され攻めあぐねる。
⦅終わりました!!⦆
⦅ありがとう!美菜さん、鈴香さん、牧さん。⦆
そうして残ったのは一階の一脚だけだ。
溝呂木はそれを見つけると、3階から椅子目掛けて飛び降りる。
私はすぐに椅子を守るように椅子に上から覆いかぶさるようにした。
「そんなんしたことかて意味ありませんで。このまま先生蹴飛ばして座るだけや!」
そう言いながら、勢いよく落下する。
「あはは、ウチの勝ちや。溶岩でもまた台風でもお見舞いしたりますわ!」
勝ち誇ったように笑う溝呂木。
でも、残念。勝ったのは私の方だ。
「な、何やこれ!いでっ!」
溝呂木の足が私の頭から1m前に来たところでパキパキと凍っていき、身動き取れないまま地面へゴツンと倒れる。
「何でって、だってさ、私の上に落下してきたでしょ?これは遠距離攻撃になるから。知ってるでしょ、私の能力。」
ニタニタした笑みは消え、私を苦々しそうに睨む溝呂木。
身動き出来なくなった彼女の元へ3人が集まる。
「ゲームセットかな。イタズラも程々にね。多分、2ヶ月ぐらいの停学処分がくだるよ。」
そう言って、パチンと溝呂木のデコにデコピンをしてやると負けを認めたのか、肩に入っていた力を抜き、だらんと脱力して火を消し、つまらなそうに溜息をついた。
「あーぁ………ウチの完敗や。もう橘先生の前では能力でイタズラしやしまへん。」
どうやら『百童話夜行』騒動は遂に終わったらしい。
はぁ、疲れた。私は丁度低い角度で斜めになったテーブルへ寝転んた。
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