図書館の鍵

ニタニタと気味悪く笑う溝呂木。

犯人がこのチェシャー猫野郎だというのはもう分かったけど、いかんせん能力の得体が知れない今、溝呂木にお前が犯人だと言ったところで暖簾に腕押し、糠に釘だろう、腹の立つことに。


「ん〜、橘先生は火の鳥、追いに行きはなさらんの?これは物怪の仕業やのうて、きっと魔法少女や思いますよ、うちは。」


兎にも角にも牧さんやメアリー・スーたちと合流しよう、何かぐちぐち言ってるのを無視して溝呂木の前から立ち去った。


ーーーーーーーーーー


数学準備室へ戻ると、思った通り、火事のあった理科室から帰ってきた牧さんたちがいた。


「橘先生、どこに行かれてたんです?」


「溝呂木のところ。」


「あれ?溝呂木先輩は犯人じゃないんじゃ。」


「この前はそういう結論に至ったけど、今日、溝呂木と話して分かった。犯人は溝呂木で間違いない。」


「橘先生、その心は?」


「溝呂木は教室から一歩も出てないのに、理科室にフェニックスが現れて飛んでったことを知ってて私に言ってきた。勿論、知り合いから電話で聞いたって可能性もあるにはあるけど、飛び立つタイミングを私の前で当ててみせたのは、それって限りなく黒ってことにならない?」


「成る程。一理ありますね。しかし、そうなるとやはり疑問は溝呂木先輩がどのような能力なのか……ですね。」


そう、あの口振りからして溝呂木が『百童話夜行』騒動の犯人なことは確実なんだけど………問題は能力だ。

向こうが自己申告してきた、童話を現実にする能力はまずもって嘘だろう。

もしホントなら、能力の残滓が残る筈………でも、それを牧さんが感じてないからこの能力じゃない。


うーん、謎は深まるばかりだ。


取り敢えず、溝呂木のことを調べていくしかないか。


「ね、溝呂木って学生寮だよね。」


「はい!昨日寮長さんに確認したんですけど、溝呂木先輩は5階の一番奥の部屋で、1人部屋だそうです。」


1人部屋なら夜中に何かしても、よっぽどうるさくしない限りバレないか。


ますます怪しくなってきた。


「あ、そう言えば寮長さん、溝呂木先輩と同じクラスで仲良いみたいで……2週間前ぐらいに溝呂木先輩が先生が落とした鍵を拾って、これはイタズラに使えるって楽しそうに話してたって言ってました。」


鍵……鍵ねぇ。


「一応聞いときたいんだけどさ、それってどこの鍵って寮長の子言ってた?」


「えっと……確か、図書館だって。」


図書館………うちの図書館って確か童話とかも色々置いてあったような……


「図書館!美菜さん、ナイスプレー!すぐ調べに行こう。何か溝呂木の能力の手掛かりが掴めるかも。」


ーーーーーーーーーー


翠蘭学園の図書館は別館の一つ丸々だから兎に角広くて、蔵書は書庫に閉まってるのも含めて出してないのも含めて5000近くある。


私自身は数度入ったことしかないが、上の概要は同期の社会教師で、学校図書の司書の資格を持つ名寄さんから聞いたから間違いないだろう。



何にせよ、取り敢えず調査に図書館へ入ると早々に牧さんが顔を顰めた。


「すごい濃さの能力残滓を感じます。恐らくですけど、連日、ここで能力を使ってるんだと。」


どうやら溝呂木はこの図書館で能力を使って『百童話夜行』の騒動を起こしているらしい。

ここから中等部・高等部女子寮は目と鼻の先。最奥の部屋である溝呂木なら階段を使わず、変身して窓からジャンプで飛び降りれば誰にも見られる心配なく忍び込める筈だ。



しかし、能力の発動が図書館に限られてるというのは恐らく、というかほぼ確実に溝呂木が持つのは本に関する能力………

これはアタリじゃないか?それなら、よし…


「牧さん。今夜、ここで溝呂木を待ち伏せしましょう。」


ーーーーーーーーーー


消灯時間の夜10時、私と牧さんは予め司書の方に借りた鍵でコッソリと図書館へ入る。

真っ暗で本棚にいつぶつかるか気が気じゃないけど、電気を付ける訳にもいかず、手探りで奥へ進んでいく。


「来ますかね?」


「分かりません。でも兎に角、気長に待ちましょう。」


今晩来ることを願いつつ、息を潜めた。


ーーーーーーーーーー


そうこう待ち始めて3時間が経った。

牧さんはこういう徹夜に慣れていないのか、船を漕ぎ始めている。


今日は来ないか、そう思った瞬間、図書館の明かりがパッと一気に灯った。

これには牧さんもハッとして目を覚ます。


「来ましたね。」


「はい。能力を使おうとしたところを押さえましょう。」


小声で会話し、本棚の物陰に隠れる。


「今日は何がえぇやろぉかなぁ?これは……イマイチやな。只のクマじゃ今更でオモロないし……………橘先生と牧先生はどう思いはります?」


溝呂木は本を物色し、大小様々10冊ほどカゴへ入れて椅子の前に立ち、大きくこの図書館に響くように独り言をはいた。


バレてる………


「美菜ちゃんが寮長の真知子に話聞いてるの見て、そろそろバレる頃かな思てましてね、ここ2日ぐらいずっと消灯後に図書館見張ってたんです。」


どうやら溝呂木の方が一枚上手だったようだ。

観念して、物陰から2人で姿を表す。


「溝呂木さん。あなたでしょ、『百童話夜行』騒動の犯人。」


「えぇ、大正解!ウチが『百童話夜行』を起こしとりました。ホンマは99日間やって、最後に青行燈あおあんどん役でウチが盛大に出てきてネタバラシしよと思たんですけど………まぁ、気付かれたらイタズラもその時点で終わりが相場。そーいうことでウチの能力、橘先生ら2人に見せますわ。オモロい能力なんでよぉ〜く見といておくんなまし。」


そう長い口上を終えると、溝呂木は椅子へ座り、悠々とした態度で足を組む。

すると次の瞬間、溝呂木の背中からハエトリグサのような大小5つの装飾がにょきっと顔を出す。


「これがウチの能力。ちょっとカッコつけて『筋読ス ト ー リ ー 装置テ ラ ー』言うてますねん。ほな、行かせてもらいましょか、先生方!」


ニタニタ笑みを浮かべ、溝呂木が本を上に投げるとハエトリグサに似た装飾の一つがそれにガブリ、食らいついた。

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