火事と悪戯方言女

「これ、どう思う?」


溝呂木から押し付けられた魔法少女の届け出書を3人に見せる。

妙に達筆すぎるのがかえって、うざったい。


「普通なら犯人は自分だってアピールですよね。でも……」


「それなら7人目の目撃者になる意味がないでしょう。私はコレはイタズラかと。」


「あたしも鈴香さんの意見に賛成です。

もし彼女が言う通りの能力なら、能力の残滓を感じる筈……でもそれが無かったんです。だから、この届け出書は信用できません。」


私も同意見だ。

そもそも溝呂木のことだし、大人を揶揄って遊んでいるだけだろう。


そんなわけで溝呂木はタチの悪いイタズラをしただけで、犯人説は無いという結論になり、私は溝呂木から貰った届け出書をゴミ箱へ捨てた。

これでお話は終い。

ただ、どこか胸につっかえがあった。


ーーーーーーーーーー


それから数日、『百童話夜行』は続き、私は手をこまねいていた。


残業で寝不足の頭に翠蘭のチェシャー猫の貼り付けたようなニタニタという笑みがフラッシュバックして溜息が出る。


こうも溜息をしていると不幸が逃げていって仕方ないなぁ。


しかし、気になって仕方がない。

勿論、『百童話夜行』のこと、それに溝呂木のこと………


ジリリリリリ!!!


「理科室で火災だ!」



頭の中の考えを吹き飛ばすように消化ベルが鳴り響く。

次の瞬間、取り敢えず私は人波に逆らって走りだしていた。

火事現場の理科室……ではなく溝呂木の元へ。

彼女はこの火事の喧騒のなか、教室で呑気に本を嗜んでいた。


「はぁっ、はぁっ………溝呂木さん。」


「あれぇ、そんなに急いでどうしはりましたん?火事の現場はこっちちゃいますで。ゴーゴーゴーゴー火が燃える〜♪ ゴーゴー理科室燃えていく〜♪ 早う火の鳥を追っかけていかんと逃げちゃいますで?魔法少女担当の橘せ・ん・せ・い?」


気味の悪い歌を口ずさみながら、ニタニタ笑みを浮かべる。


あいも変わらずウザったい輩だ。

そんなことを思っていれば、電話が鳴った。

メアリー・スーからだ。


『橘先生、鈴香です。』


「どうした、火事のこと?」


『はい。どうやら火事ですが百童話夜行が原因のようです。フェニックスが現れて理科室を燃やしたあと、どこかへ飛んでいったそうです。』


「そう……やっぱりか。分かった、また後で連絡する。」


「はあ〜ぁぁ〜、火の鳥はどこか飛んでいってしもたみたいですねぇ。理科室と理科の佐伯先生はお気の毒ですなぁ。」


電話の内容を聞いたような口振りでペラペラ喋って、そうして溝呂木はまたニタニタ、ニタニタと………


胸のつっかえが取れた。

どんな能力かは知らないし、コイツが何を考えてるかも知らない。


でも分かる。犯人は確実にコイツだ、溝呂木だ。

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