触手の魔法少女

「どうしましょうか?」


うーん、流石に寮生から探そうと思っても千人以上から触手の魔法少女を炙り出すのは至難の技だ。


どうしようかと悩んでいると、森先生が息を切らして走ってきた。


「橘先生!今さっき、男子大学生寮の方で空き巣が!」


白昼堂々、なんて奴だ。

森先生に随行し、現場へ向かう。




「うっわ、何だこれ。ひどっ。」


あまりの部屋の荒らされ具合に、思わず言葉が出た。

部屋は扉ごと壊され、ベッドや備え付けの勉強机を真っ二つに折れていた。

当分、この部屋は使えないだろうなぁ。

ここの部屋の主が気の毒で仕方ない。



「これ………魔法少女の仕業ですよね。」


「でしょうね。これは流石に。」


森先生は部屋の惨状を見るのが辛いのか、チラチラと部屋から視線を外して戻してを繰り返し、私に話しかける。


その横では牧さんが真剣な顔をして部屋の辺りを見回し、ぎゅっと目を閉じていた。

さっき言ってた能力の残滓?を感じてるんだろうか。


「さっきと同じ能力の強い残滓を感じます。橘先生、今なら追えます!行きましょう!」


「あ、は、はい。」


パッと目を見開いた牧さんが私に声をかけ、一目散に部屋から飛び出す。

私はそれに気圧されつつ、彼女の後を追った。


ーーーーーーーーーー


牧さんは男子大学生寮から出ると、何かの導線に引かれるように走る。

それが速くて、私は運動不足で足がもつれそうになりながら着いていく。

どうやら向かっているのは女子の中高生寮みたいだ。


そこに魔法少女が居るんだろう。

今やってまたやるつもりなのか!

酷い学生も居たもんだ。まったく、一体どこの学生だ。



段を飛ばして階段を駆け抜け、3階に差し掛かったとこで牧さんはピタッと止まった。

もしかして見つけたのだろうか。


「橘先生、居ました。あの学生です。」


廊下の奥の方を歩く学生を指差す。

茶髪で前髪パッツン頭の大学生だった。

あの顔、確か………去年教えてた相馬そうま 美野里だっけ。


「犯人分かりましたね。それじゃあ一回戻って、ゼミの教授も呼んで改めて話を聞きに、」


そんな私の言葉を無視して牧さんは廊下へ飛び出した。


「見つけましたよ、空き巣犯!」


大声を出したので、相馬も気付いたらしくこっちを向いた。


何やってんだ、コイツは!バカなの!?

あーもう!なんでこっちの話聞かずに飛び出すかなぁ!



「もう逃げ場はありません。観念してくだ!?」


ビシッと相馬へ指差した瞬間、ビュンと素早く伸びた触手に牧さんは撥ねられた。

廊下の奥の方まですっ飛んでく牧さん。


「牧さん、大丈夫ですか!」


「あれ、知らない奴の他に橘もいるじゃん。」


ヤバっ、ミスった!

心配になって思わず相馬の前に飛び出してしまった。


「まあいいや。見られたからにはボコボコにして黙ってもらうしね!」


そう言って相馬は何本もの触手を勢いよく伸ばしてきた。


ひえっ!

ビビって、目を閉じ、頭を押さえるようにして身を屈める。

しかしいつまで経っても触手は飛んでこない。


「はぁ?な、なんだこれ!」


飛んできた触手は私の目の前1mで全て凍らされて止まっていた。

魔法少女になった日の朝と一緒のことが起きたらしい。


「ふざけやがって!」


触手を更に伸ばしてくるけど結果は一緒で全て凍結した。


氷が私の能力らしい。

それなら


「くらえ!」


手を伸ばして氷の力を使おうとパワーを出してみたが、シーン、何も起こらない。


えっ、どういうこと?

勝手に凍らせてるけど、自分では凍らす能力使えないの?

は?なにこれ?


「くそっ、外れないんだけど!」


相馬は触手が凍って動かせないらしいけど、私も何もできないので2人とも好調状態になってしまった。

何か、バカみたいな絵面だ。


そんななか、突然私の横をギュンと凄まじい勢いで黒い何かが相馬の方へ突っ込んでいった。


それが牧さんだと気付いたのは、そのまま相馬の前まで飛び出して顔面パンチをくらわして、相馬を倒した時だった。


「橘先生、隙を作ってもらってありがとうございます!助かりました!」


鬼神のような動きに私が唖然としていると、牧さんは私の心中など知らぬ存ぜぬ、ニコニコして感謝を述べる。


魔法少女課プロってヤベェ〜


ーーーーーーーーーー


完全にノビていた相馬を、森先生に託して、私と牧さんは数学準備室に戻った。


「いやぁ、解決して良かったですね。」


「うん………まぁね。」


良かったは良かったんだけど………

これで名乗り出てない魔法少女が居るってのが確定したからわけで。

それに、何か私の能力、勝手にしか発動するだけで自分で使えないって問題も見つかったし。


はぁ、トラブル増えそうだなぁ。


そんなことを思っているとノックがした。

なんだが、それが面倒ごとの近付いてくる足音に思えて、私は溜息をついて頭を掻いた。

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