翠蘭のメアリー・スー

「ノッカーアッパー……ですか。」


「そう。まぁ、私とか鈴香さんが魔法少女になったのもソイツのせいってわけ。見たでしょ、茶色いフードの女。」


「ええ。2日ほど前に。」


はぁ、結局圧に押されてしまい、話す事になってしまった。

私はなんというか彼女が苦手だ。



鈴香 葦月、成績は常に学年5位以内、元バスケ部キャプテン、そして生徒会の副会長……オマケに顔も良いときた。


才色兼備、学園一の才女、そう言われて遜色ない人物だ。

噂では非公式のファンクラブもあるらしい。

恋愛漫画の登場人物か、あんたは。



まぁ、そんな相手なのでついついこっちが教師という立場を忘れそうになるのだ。


「鈴香さん、取り敢えずこれで納得してくれた?」


「はい。」


「なら良かった。それじゃあ、私行くね。」


「待ってください、橘先生。その調査、手伝わせていただけませんか。」


「え、いいの?」


「はい。私も生徒会の端くれです。生徒たちの学生生活で生じたトラブルの解決には少しでも助力したいんです。」


まさかの申し出だった。

正直言って一人での調査に無理あるだろと思ってたし、彼女の提案はラッキーだ。


「しかし魔法少女になったと思うと……年甲斐もなく少しワクワクしてしまいますね。」


そう言って、ふふっと微笑む。

翠蘭のメアリー・スーもそんなこと言うのか。

意外だ。


「大人びてる鈴香さんもそういうこと思うんだね。」


「勿論です、私もまだまだ学生の身。若輩者として青春謳歌の真っ最中ですから。」


そういう物言いが大人びてるって言ってるんだよ。

このメアリー・スーめ。


ーーーーーーーーーー


「それで、先ずはどうしますか?」


「あー、まずはね緑園寺 美菜さんに話を聞きたいから、教室か寮に探しに行こうかなって思ってるけど。彼女、この騒ぎの前からの魔法少女だから。」


「成る程、分かりました。美菜なら多分、今の時間だと図書室だと思います。教室による前に図書室へ寄りましょう。」


鈴香さんに言われるがまま、図書室に行くと確かに美菜さんが居た。


「美菜、ちょっといい?」


「あ、葦月。どうしたの?」


「魔法少女のことでちょっと話があるの。いい?」


「うん、勿論。」


こう見ると、メアリー・スーもやっぱり学生なんだなぁ。

いつもの彼女は、教師用の年不相応の大人びた姿しか見せないから、友人とのフランクなやり取りは珍しい光景だ。


まぁ、私が授業以外で生徒に特に関わんないから珍しく思うだけかもしんないけど。


「橘先生、呼んできました。」


「ありがとう。緑園寺さん、あなたに少し話を聞きたいことがあってね」


「最近の噂のことですよね?」


どうやら、彼女も噂は知っていたようだ。

それなら話が早くて助かる。


「うん、それのこと。」


「先生、ごめんなさい。私も人を魔法少女にするなんて話聞いたことなくて……」


うーん、そうだよなぁ。

こんな話、前例がどっかであったら苦労しない。


「だから、魔法少女課の職員さんに相談するのが良いと思います。」


「美菜がそう言うなら、それが良さそうだね。橘先生、今すぐ行きましょう。」


「え、今から?」


もう5時過ぎなんだけど。


「美菜、道案内頼める?」


「うん、大丈夫だよ。」


「それじゃあ行きましょう。」


とんとん拍子に話が進んでいく。

ちょっと、ちょっとまだ仕事残ってるんだって。


「それじゃあ、私と美菜は外出届を取って来ますね。橘先生は玄関で待っていてください。」


あー、待ってって。

そう口にする暇もなく、もう魔法少女課に行くと決められてしまった。


メアリー・スー……鈴香 葦月めぇ。

これで今日も残業コースじゃん、はぁー。

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