白と黒
柊さんの黒い霧の大剣が浪埜さん目掛けて振り下ろされる。
「チッ!」
それを両腕でガードする浪埜さん。
今までなら簡単に弾き飛ばしていた剣をおさえるだけで精一杯という感じだ。
先程の攻撃が尾を引いて、右腕に力が入りづらいらしい。
剣を押し切れないと悟った浪埜さんは柊さんを蹴って、剣を自分の腕から離すと、すぐさま胸ぐらを掴み、柊さんを引き寄せ膝蹴りを腹へくらわす。
苦悶の表情を浮かべながらも、マントを左腕に巻き付け、そのまま自分の方へ引っ張り剣で左腕をガード状態で釘付けにする。
あとは手負いの右腕だけだ。
「今がチャンスです!」
「分かってる!」
「舐めないでっての。『魔弾』!!」
浪埜さんへ突っ込むボクヘ、右手から鈍色のエネルギー弾が攻撃が幾つも放たれる。
「あー、その技ね。逢魔時の縮小版みたいなものだからさぁ、1発でも当たっちゃ腕が使い物になんなくなるかもね。避けるのが得策だよ?」
ニヤッと笑って呟く。
ここでボクの追撃を避けて、柊さんを引き剥がそうというのだろう。
でも………そんなことに乗りはしない。
ボクの能力は見る能力………
弾の軌道の癖は…とっくに見えてる!
そのまま突っ込みながら、10発近い魔弾を避けきり、浪埜さんの右頬に思いっきり右ストレート。
効いたみたいだ。浪埜さんは目を白黒させる。
「ぶッ!?」
続け様に浪埜さんの顎を拳でとらえる。
クリーンヒットだ。
浪埜さんは宙へ留まることは出来ず、地面へ落ちた
ボク達も肩で息をする浪埜さんの前に降りる。
「私たちの勝ちって感じですかね。」
「………もう諦めてください。」
「……………………強いだろ。」
「えっ?」
「ぐぐ………私の力は強いだろ……そうさ……誰よりも…………誰よりもだ!」
そう語気を荒くすると、ツノが生えきり、目の前にいたボクと柊さんを衝撃波で払い除け、急速にエネルギーを溜めていくと、それぞれのオーラの竜の口元にくすんだ虹色の球が形成されてゆく。
この前の似非ギドラの咆哮に近い。でもあれとは天と地ほども力の差がある。、
何せ、浪埜さんを取り巻く空間が歪んでいくように見えるほどだ。検討も付かないほどにエネルギーがつぎ込まれた一発なんだろう………これを放たせるわけにはいかない。
「柊さん……一発で決めるよ。」
「分かってますよ!」
魔王の方へ走る。
時空を歪ませて見せるほどの凄まじいパワー。
ショックウェーブのようなものが無造作に噴き出し、進むだけで一苦労だ。
「ぐぉぎぃぃ!!ががごがぁぁぁぁ!!」
意識が半ばないのか、魔王は目玉を様々な方向に素早く動かしながら獣のように唸る。
更には2対目の角が生まれ始める。
浪埜さんではない。完全な魔王がそこにいる。
魔王は向かってくるコチラに向かって、装填途中のくすんだ虹の球の一部をレーザーとして吐き出す。
しかもただ吐き出しているわけではない。
糸を編むが如く、ボクらを本体である浪埜さんの体へと近づけまいとしていた。
石を投げてみたが、レーザーで砂の塊みたく砕けちる。これじゃあ向こうに行く頃には倒れてるだろう。だのに、そんな状況ながら、先の魔弾が飛んでき続ける。
こっちは避けてるだけで精一杯だ。
ボクも見て、どうにかしようとするけどさっきも言った通り、最早今の状態は浪埜さんではなく、れっきとした魔王であって、別扱いになってまだまだ表層しか見えてこない。
どうするかなぁ……面倒くさい
「ねぇ、真っ白さん!1発博打打ちますよ!!」
「?……何……っ!?」
急にぶん投げられた。しかも魔王の方へ。
流石に困惑するボクの耳に楽しげな彼女の声が聞こえた。
「真っ白さん!
そう言うや否や、全開にした幾本もの黒い霧の腕で無理矢理レーザーに割り込み、オーラの竜の口を無理矢理握って塞ぐ。
「あはは!!えりゃぁああ!!!!!うぉぉぉおお!!!あははは!!最高のスリルですよ!!ぐっ、っうぇ……へへ、このスリル、これぞ生きてるって感じぃ!!」
無茶苦茶だ。これじゃあ
ホントに色々と規格外な子だ。でも、なんにせよ、魔王の時間を稼いでくれてる。倒すなら今だ。
魔王の真上へ辿り着くと、ぎっと魔王がボクを睨む。その瞳は先程までとは打って変わって浪埜さんの目の色をしている、多分。
「『薔薇の
鋭く獣のように爪を伸ばし、ボクに切りかかる。
ただ、もう魔王崩れの浪埜さんの攻撃なら避けるのはキツイけど、可能だ。
懐に割り込み、蹴りを腹部中央に叩き込む。
ふらつく浪埜さん。
「白昼夢からはもう醒める時間ですよ、浪埜さん……」
「梔子ぃ……真白ぉぉ!!!」
「………これで………終わりだぁぁ!!」
ボクは全パワーを込めた渾身の一撃を飛びかかった魔王の真上から思い切り振り抜いた。
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