一矢

「あはは、さぁて、梔子ちゃん。パワーアップした実力見せてよ」


浪埜さんは禍々しいオーラを燃え盛る炎のように纏い、宙へ浮かび上がる。

なんだかすごく魔王らしい。


ボクも地面を魔力を溜め、蹴って跳び上がり浪埜さんと拳を交わらせ、ガードを破り、顔を一発。


「っと、痛ったいなぁ。」


浪埜さんが口から出た血を擦ると、すぐにボクの頭へ蹴りが飛ぶ。

何とか横に避けたはいいけど、直ぐに拳の追撃が来た。


避けきれない………仕方なく拳を肩へ受け、すぐさま浪埜さんへトーキック。

当たった左腕が上へと弾かれる。

隙が出来た。

胸へ拳を決めようとするも、右腕からエネルギーの衝撃波をくらい拳が空を切る。



「せいやっと!」


ボクの拳が空を切った次の瞬間、霧の剣が浪埜さん目掛けて飛んできた。

それを浪埜さんがかわしたのも束の間、明後日の方向へ飛んでいった剣を急に現れた柊さんが取り、振り返り様にぶんと振るう。

浪埜さんもその攻撃は予想外だったのか、回避が遅れて頬が少し切れ、血が流れた。


「なになに、柊ちゃんもパワーアップ?」


「ちょっと梔子さんを真似てみたんですよ。」


柊さんは黒い霧をマントのようにし、腕や脚へも鎧のように纏わせている。


おそらく、さっきのスピードは脚へ霧を纏わせたことによるエンチャント的なものなのだと思う。



「いいね……パワーアップ。正義の味方には必至だよねぇ。でも………」


浪埜さんがそう言うと、頭にぎぎぎと悪魔のようなツノが生え始め、オーラの端のそれぞれが竜の頭のようになり、ぐにゃぐにゃと伸びる。


「魔王もさ、第二形態ってのかな?あるんだよ。」


「さてと、第二ラウンドだね。」


ボクと柊さんへオーラの竜が後ろから食らいかかるとともに、前から浪埜さんが突っ込んできた。


ーーーーー〈杉崎side〉ーーーーー


パワーアップした梔子さんと柊さん、更に魔王らしくなった浪埜さんの勝負は一進一退。

激しくぶつかり合います。


「で、あの戦いのなか、どうやって一矢報いようっていうんです?」


私は横の立科さんへ尋ねます。


この戦いに今の私やこの娘じゃ横槍の入れようもないでしょう。


「いえ、一つだけですがあります。」


「おお、そうなんですか。」


「もう、柊さんへは作戦を伝えました。あとは………杉崎さん、あなたの準備だけです。」


「私ですか?」


「はい。………指は動かせますか?」


ーーーーー〈梔子side〉ーーーーー


「ほらよっと!」


何かにチラッと目を通した柊さんが、浪埜さんから距離を取り、短剣を何本も投げる。


それを手で受け止めようとした瞬間、短剣が霧に戻り、浪埜さんの視界を黒く塗り潰す。


そのまま下から立科さんの念動力が飛ぶも、浪埜さんは簡単に虫を手で払うように、飛来する看板や鉄パイプを腕で弾き飛ばす。


「ちょっと煙幕のうちに攻撃ってさぁ……今更そんな子供騙し通じないってば……邪魔な煙は一気にどかしちゃおっかなっと、逢魔が」


「子供騙しも案外侮れないものですよ?」


先程の倍以上の火力で逢魔時を発動しようとした刹那、煙幕の外から立科さんの能力で飛ばした看板に掴まり、宙へ飛んでいた杉崎さんが逢魔時発動のために前へ出した浪埜さんの右手へ左手を指を絡ませるように繋いだ。



瞬間、とてつもないエネルギーが2人の手の中で弾ける。

杉崎さんの左腕はすぐに千切れ、本人も勢いよく吹っ飛ばされたものの、浪埜さんも無事では済まなかったらしい。

逢魔時の失敗の反動により、膨大なパワーを自分の右腕にも浴びたらしく、右腕のスーツが二の腕あたりまで消し飛び、荒々しい火傷跡が幾重にも刻まれている。


「………やってくれたね、杉崎ちゃん。」


苦々しそうに顔をしかめる。

常に塗り固められていた浪埜さんの笑顔が初めてはげた。

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