賭け
「ほらほら、どうした、どうした?君たちの力はそんなもんじゃないでしょ!」
霧の剣の一突きを紙一重で交わして、柊さんの顔へ拳を叩き込むと、背後からのボクの蹴りを手でおさえ、肘打ちをボクの脇腹へ決める。
痛い………ぶっ飛ばされかけたボクは杉崎さんに受け止めてもらい、どうにか地面なり壁なりとの直撃を回避する。
「いやはや、勝てるビジョンが見えませんね。」
「………当たらない訳じゃないけど、有効打になってない……まだ一番効きそうなのは柊さんの黒い霧だけど………」
「あてて……私の攻撃避けれられてばっかりですよ。面白くないなぁ。」
有効打になりそうな柊さんの攻撃はその殆どをかわされて、力に負けるボクや杉崎さんの攻撃だと浪埜さんに隙をつくることすら難しい…………
このまま3人で攻め続けてもジリ貧だ。
何か、何かしら違ったことをしなきゃ浪埜さんには勝てない。
その時…ボクに一つ突飛なアイデアが浮かんだ。
「………ねぇ、2人とも……ボクが魔力を溜めるまで時間稼ぎをしてほしいんだけど。」
「何か、アイデアが?」
「………そんなとこ……まぁ、上手くいくか賭けだけど。……………頼める?」
ボクがそう言うと2人は笑った。
「勿論です!梔子さんのアイデアとあれば勿論手伝いますとも。」
「賭けなんてスリル、乗らなきゃ損ですから!」
「……………ありがと。」
2人へ浪埜さんの相手を任せ、ボクはじっくり魔力を溜めていく。今からすることにはかなり魔力がいるだろうから。
ーーーーー〈杉崎side〉ーーーーー
「ナイショ話は終わったぁ?……梔子ちゃんが何かするみたいだけど………聞くのは無粋だし辞めとくよ。」
「お気遣いありがとうございます。」
「あはは、どういたしまして。それじゃ行くよ。」
開口一番、さっきの逢魔時で根元から折れた電柱を浪埜さんは私たちへ投げてきました。
パワーお化けにも限度があるでしょうに……
柊さんがすぐさま霧を斧のように変え、電柱を一刀両断しました。
その瞬間、待ってましたと言わんばかりに切れた電柱の間を通り抜けて、柊さんへ肉薄します。
マズイ……その攻撃が有効打になりえる柊さんをノックアウトされると困ります。
すぐさま足へ魔力を集め、一気に柊さんの前へ飛び出します。
気持ちはゴールキーパーですね。
瞬間、私を拳の形をした暴力が襲いました。
右手でガードこそ出来たので、そのままなんてダウンなんてことは回避しましたが……うーん、右手は折れましたね。
「おっとっと、危ないですよ。柊さん!」
「助かりました。」
「いや、なに。気にしないでください。ほら、こういう能力なので。」
今し方ポッキリ折れた腕の腫れが少しずつ引いていくのを柊さんに見せます。
「面白い能力ですね。」
「でしょう?ま、こういう能力なのでね、ガード役は私にお任せを。柊さんは兎に角攻撃頼みます!」
「了解ですよ。」
ーーーーーーーーーー
「ここっと!」
黒い霧の剣が浪埜さんの左腕に突き刺さりました。
ダラダラと流れる血。
戦闘を開始して20余分、初めてのしっかりしたダメージです。
「いやぁ、いいの貰っちゃったなぁ。でも、杉崎ちゃんも限界でしょ。ガード役。」
「その通りです。」
もう両腕とも全域にかけて粉砕骨折ってところでしょうかね。
この能力じゃなければ、医療費がバカになりませんよ。
「それじゃあ、さっさとナイトを倒して柊ちゃんと戦おうっかなぁ。」
うーむ、私もダウンですかね。そう思った時、凛としながら、抑揚のない声が聞こえました。
「………浪埜さん、お待たせしました。」
「あはは、何を見せてくれるのかな?」
梔子さんの言葉に惹かれたのか、私から浪埜さんが背を向けます。
いやぁ、危機一髪でした。
やっぱり梔子さんは頼りになりますね。
ダウンせずに済んだ私は、今の腕では戦えやしないので、邪魔にならないよう後ろへ退くと、コスチュームの一部を引っ張られました。
そちらを見ると、立科さんでした。
「どうしました?」
「あの浪埜………魔王に一矢報いたいのです。手伝っていただけませんか?」
「ほぉ………いいですよ。」
ーーーーー〈梔子side〉ーーーーー
「………浪埜さん、お待たせしました。」
まずこの前やったように全身での変身を行う。
「お、梔子ちゃんやっと全身魔装してくれたね。」
ニヤニヤ、ボクを舐めるように見回す浪埜さん。
でも、ボクの賭けはここからだ。
今のこの姿で満足されたんじゃ困る。
「………浪埜さん、まだ見ててください。多分、もっと驚くから」
一度見ただけだし、見よう見まねだけどまぁ、大丈夫だろう。
ここからがボクのギャンブルの始まりだ。
「……マギア!」
「更に全身魔装!?」
ボクの身体を光が纏い、全身変身が上書きされていく。
基本の白いウェアとスカートにベージュのラインが浮き出すとともに、上と下の辺が三角に尖った短冊状のベージュの装飾が背中からスカートにかけて漢字の八の字を描くように現れ、次に背中に有った飾りが今度はするすると解けてゆき、ボクの手を纏い、鎧のような攻撃具を形成していく。
どうやら上手くいったらしい………
安堵したのも束の間、鼻血が噴き出る。
どうやら魔力を一度に、それも大量に使いすぎたらしい。
鼻血を手で拭う。
「ほんっとに楽しませてくれるねぇ、梔子ちゃん。やっぱり君、最高だよ!」
浪埜さんはボクの二重全身魔装を見ると、もう愉快で堪らないという風に浪埜さんは歪に笑い、妖しいオーラを吹き出して大きく拳を振りかぶった。
禍々しいパワーを乗せて飛んでくる拳。
ボクはそれ目掛けて、直撃するように拳を振るった。
直撃した瞬間、浪埜さんの拳から血が噴き出た。
「痛った……見かけ倒しじゃないみたいだね。」
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